ベイビー・ベイビー1

始まりはそろそろエイプリルフールのネタを考えねば…などと、庭の手入れをしていた時だった。

一昨年は魔術の実験中にメタボを一発で治す薬を発明したと言うネタで、よほど切羽詰まっていたのか本気で信じたアメリカに嘘だとばらしたらマジギレされた。
『ひどいよっイギリスっ!!そんなに俺の事嫌いなのかいっ?!からかって楽しかったかいっ?!』
と、怒りの涙顔で訴えられて、これはまずかったと反省した。

なので去年は怒らせてもまあいいやと思える相手…フランスあたりに仕掛けようと思った。
とにかく前年度がかなりやばかったので、その年は軽くすませようと、睡眠薬入りの酒を飲ませた上でホテルの1室に運び込んで一夜を共にしたネタにしようかと思った。
この手のネタもフランスなら笑って気色悪がってキ~キ~言って終わるだろう。
そう思ったのだが、世の中はどうもうまくいかないものだ。
フランスに渡そうとした酒をなんと運悪くスペインが飲んでしまったので、ターゲットがフランスからスペインへとチェンジしてしまったのだ。

あれは…我ながら失敗だった。
だってフランスだから良いと思ったのだ。
なのにスペインが飲んでしまって、他にエイプリルフールのネタなど考えてなかったし、何もしないのは大英帝国の沽券にかかわる…と思ってしまったあたりで、イギリスも実は大概に酔っていたんだと思う。

会議後の慰労会で主催国だからと薬で眠ったスペインを部屋まで送り届けて服を脱がした上でベッドに放り込む。
そして自分も服を脱いでその横にもぐりこんだあたりで、睡魔が襲ってきたので考えなかった。
自分がこのシチュエーションで何をやろうとしていたかも、今自分の隣にいるのがスペインだと言うことも…。

そして…翌朝目覚めて青くなった。
だって目の前に裸で半身起こしたスペインがやっぱり青ざめた顔でイギリスを見下ろしている。
そして…いきなり土下座。

「すまんっ!!俺やらかしてもうたっ?!!」
と言うのも道理だ。

“そういうこと”があったように見せるために、イギリスは前日に服に隠れる場所のあちこちに赤い痕がつくよう、かぶれやすい薬を塗っておいたし、前日も酔っていたため、スペインの服はかろうじてちゃんと脱がせたが、自分のシャツは乱暴に脱ごうとしたのか、ボタンがふっとんでいた。

もう、合意なのか無理やりなのかが微妙なラインに見える惨状に、イギリスも他人の事は言えないが、決して酒癖に良いとは言えないスペインは、やらかしてしまったと信じ込んだのだろう。

さらに悪い事に…イギリスも動揺していた。
スペインにだけはこんな嘘仕掛けるつもりはなかったから…。
だってずっと好きだったのだ。
幼い頃からずっと好きだった。
国情で嫌われるような策を取らなければならなくなった時だって、秘かに号泣したくらいだ。
何が悲しくてプライベートでさらに不快度をあげるようないたずらをしかけなければならない…。

やらかした…やらかしてしまった…と言うのは、意味合いは違うがイギリスも一緒で、じわりと浮かんでくる涙をぬぐう間もなく、服をかき集めて慌てて着ると、そのまま部屋から逃走した。

それから…スペインに会う勇気がなく、実は会議も兄達にお願いしている。
片思い歴数百年の相手の軽蔑のまなざしに比べれば、兄達の嫌みなど可愛いものだ。

もちろんスペインのメルアドも着信拒否ってしまったので、フランスから連絡が入ったが、別に気にしてないから一人にしてくれと言えば、それ以上は何も言ってはこなかった。



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