黒衣の花婿白衣の花嫁8

――速報…スペイン王国は壮絶に格好良かった…。

自分がちんちくりんなのはわかっている。
小さい頃からフランスにもそう言われて馬鹿にされ続けたし、治世者が変わるたび城に呼び出されて対面して、祖国である自分が貧相な少年な事にガッカリされた。
だから粗雑な扱いをされるのも仕方がないのだと諦めた。

自分がもっと国民が自慢できるような国体だったらみんな自分に優しくしてくれたのだろうか…。
そうしたら、実の兄弟から疎まれ、治世者達からは失望される日々から解放されるのだろうか…。

そんな思いが脳裏をよぎる。
愛されたい…だからいつでも強く格好良くありたかった。

しかしながら…だ、ではイングランドが思うところの格好の良い男というのがどういうものであるかというのは、実はわかっていなかった。
自分のような薄汚い子どもではない事は確かだが、かといってイングランドが見て、こいつはカッコいいと思う相手に巡り合った事はない。

だが今、そう、たった今、目の前にいる男はカッコいい。

自国のボロ船のマストが折れて立ち往生している時に迎えに来たスペイン王国の化身。

細身ながらも無駄なく筋肉がついたすらりとした体躯を一目で上等とわかるつややかな黒い衣装に包み、少し癖のある茶色がかった黒髪は後ろで無造作に結んでいる。

顔立ちは非常に整っているが、フランスのようにやにさがった感じではなく精悍さにあふれ、イングランドの物よりも若干濃い色合いの綺麗なグリーンの瞳はあくまで強い光を放っていて、全身からまばゆいばかりのオーラーのようなものがたちのぼっているような気がした。

圧倒的強者…覇権国家の貫録。

なのにおそらく彼からすると弱者と判断しているのであろうイングランドを目の前にすると威圧感を与えないようにとの気遣いなのか、床に膝をつき、視線を合わせ、こんなボロ船で来て迷惑をかけた事を指摘するでもなく、ただただ優しく

「ちゃんと最初から親分が迎えに来たったら良かったな。怖い思いさせて堪忍な?
迎えに来たで。自分の夫のエスパーニャや。
もう大丈夫やで。おいで?イングラテラ」
と、手を差し出してくれた。

そのままイングランドを抱き上げて本人同様黒一色のカッコいい船まで連れて行ってくれる。
その力強い腕の中に居るとあんなに怖かった海も嵐も全く恐ろしくなくなっていた。

とてつもなく強く…そしてとてつもなく慈悲深く優しい…カッコいい…。
これがイングランドのスペイン王国に対する第一印象だった。




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