隣に横たわって寝顔を見守っていた天使がぱちりと澄みきった大きな丸い目をひらいたのを確認すると、にこりと微笑みかけ、
――おはようさん、よう眠れたか?腹へってへん?
と、小さな金色の頭を撫でて身を起こした。
「いっぱい泣いたみたいやから喉乾いたやろ?
美味しいで?飲み?」
と、水で薄めた果実酒のグラスを差し出してやれば、
――ありがとう……ござい…ます
とおそるおそる小さな白い手で受け取って、それを両手で持ってコクコクと飲み干した。
そんな仕草すらあどけなくも可愛らしくて、何か小さな動作一つ取るたびに愛情が膨らんでいく。
「他に何か欲しいモンとかある?何でも遠慮なく言いや?」
と問えば、じ~っとスペインに向けられていた目が少し迷うように泳いだ。
「なん?」
と、問うと、慌てたようにフルフル横に振られる小さな頭。
しかしどう見ても何か遠慮しているようなので、
「夫婦になるんやから遠慮も嘘もあかんよ?」
と、うながせば、俯いていた顔をあげておずおずと口を開く。
「エスパーニャの着ている服が………格好良かったから……」
見たところフランスから取り寄せたかフランス人に作らせたのであろう自分のロングチュニックの膝元を小さな手でぎゅっと掴んでそう言うイングランドにスペインは破顔した。
フランスのものではなく自国、スペインの服が着たいなんて、スペインの天使はなんと可愛らしい事を言うのだろうか。
「そうやな。自国のモンならしゃあないけど、フランスんとこの服なんか着せられたら気持ちええわけないやんな。
ええよ。国に着いたらすぐイングラテラ用にうちの国の服用意させたるから、着替えたらええわ」
と言ってやると、少し嬉しそうにはにかんで、でもいいのか?と言ったように不安そうに見上げてくるイングランドに、スペインの気分はいやがうえにも上昇する。
「大事な大事な可愛え花嫁さんの服くらいいくらでも用意させたるよ?
そうやな…色違いのおそろいの作ってお揃いの金鎖も用意したろ」
ひらひらとしたチュニックも可愛くないわけではないが、フランスのものらしくゴテゴテと飾りが多すぎる。
スペイン的にはベースはシンプルに…飾りが欲しければそこに取り外しが出来る清楚なものを付けたしてやりたい。
自分は黒地に飾りは金一色。イングランドには白地がいいだろう。
自分はそこにシンプルなマント派だが、イングランドは繊細なレースやオーガンジーなどふんわりとした生地のベールで包んでやっても可愛らしいかもしれない。
いかにも人慣れない風で、それでいておそるおそると言った感じに近寄ってくる様子が本当に本当に愛らしくて、スペインの庇護欲をきゅんきゅんとそそる。
船が港に着いた時にはスペインはもうすっかり北西の島国から嫁いできた天使に夢中で、少し前まで降っていた雨で道がぬかるんで危ないからと、すぐ側であるにもかかわらず迎えの馬車まで断固として横抱きにして抱えていく事を主張したあたりで、それまでどちらかというと表面上は優しげなフランスの国体と違って俺様で通してきたスペインの国体の恋愛遍歴を知る面々からは驚きの視線が向けられた。
もちろんスペインに会うのが初めてのイングランドはそんな事は知る由もないのではあるが…。
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