黒衣の花婿白衣の花嫁4

恐縮してこんな時なのに少しでももてなすべくわらわらと出てくるイングランド側の従者や使者に

「ああ、もう自分らはどうでもええねん。イングラテラはどこや?」
と、煩わしげに聞くと、迷うような視線が向けられる廊下の奥にスペインは勝手に足を踏み入れた。



スペインからすると少しありえないほど質素な造りの船。

普通のスペイン商船でももう少し豪奢なのではないだろうか…と思いながら、同じ国体の気配を探ってたどり着いた最奥の部屋。
ノックもせずにドアを開けた瞬間、スペインは固まった。


国体の部屋としてはあまりに貧相な狭い部屋。
絨毯すら敷いてない木の床の上には簡素な木のテーブルと椅子に、大人1人眠るのも狭いのではないかと思われる木の寝台。

その寝台にしがみつくように震えているのは、消え入りそうに真っ白な小さな天使だった。


頭から被った白いブランケットの隙間から見えるのは落ち着いた色合いの金色の髪と透けてしまいそうに真っ白な肌。

本当に宗教画に描かれている天使がそのまま現世に降り立ったようなその子どもは、どう見てもこの粗末…と言っても差し支えない部屋にいるのはふさわしくないように思われた。

いっそひとさらいに誘拐されてきた高貴な子どもが閉じ込められていると言われたなら納得できただろう。

もちろんこんな愛らしい子どもを一瞬たりともこんな部屋に放置しておくなど、スペインには考えられない。
即ふさわしい場所へと連れ出すべく、スペインは部屋の中に歩を進めた。

こうしてスペインが一歩部屋に足を踏み入れると、小さな身体がびくっとすくみあがって、瞬きをした瞬間にくるんとカーブを描いた長い金色の睫毛からキラキラと光る涙の粒が零れ落ちた。

「ちゃんと最初から親分が迎えに来たったら良かったな。怖い思いさせて堪忍な?
迎えに来たで。自分の夫のエスパーニャや。
もう大丈夫やで。おいで?イングラテラ」

可愛らしい…あまりに小さくてふわふわしていて、これ以上怯えさせたら息絶えてしまいそうな風情の花嫁を前に、スペインが目線を合わせるように膝をつき両手を広げると、花嫁は吸い込まれそうに大きく丸いペリドットの瞳を不安げにスペインに向ける。

「大丈夫。親分が守ったるから、怖ないで?おいで?」
と、そこでもう一度そう言って、努めて優しく笑みを向けると、シーツの中から白い小さな手がおそるおそる伸ばされてきた。

スペインはその手をそっと取って一度恭しく口づけると、今度は少し力を入れて自分の方に引き寄せ、小さな体がぽすんと自分の腕の中におさまると、それを横抱きに抱えあげた。

「親分の船に移るさかい、怖かったら目ぇつぶっとき」
と、まだ小刻みに震える花嫁に声をかけると、そのまま大股に自分の船へと向かう。

「花嫁は疲れさせたらあかんし先に連れてくから、自分らはゆっくり船修理したらええわ」
と、道々控えるイングランドの従者達に暗に花嫁以外は自分の船に連れて行く気がない事を宣言すると、そのまま自分の船へと乗り移る。そして一路自分の船室へ。



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