「ギル?」
「ん~、囲まれてんな。
姿見えねえけど、音だけはする。
たぶん3体。うち1体は上位種だ。
倒せない数じゃねえけど…心配なら俺様が引きつけるからトーニョ呼んできてくれ」
「俺には見えないけど…お前の耳なら問題なく敵が判別できんだろ?」
と、それが答えだとばかりにアーサーは軽く目をつぶって唱えた。
「エスコート・モンキーナイト・ギルベルトっ!」
「了解したっ!ご主人。お守りさせてもらうぜ!」
ふわりと引きつけられる体。
アーサーは目を閉じたまま…しかし剣を握るギルベルトの感覚は共有する。
斬るっ!…と、そのギルベルトの意志で動かされる剣に自分を合わせる。
全てをお任せ状態のアントーニョとは少し違う感覚。
斬る対象を共に認識し、斬る感覚を共有する戦闘スタイル。
だが、以前のように不協和音ではない。
共闘している…そんな感じだ。
1体…2体……3体っ!!
しっかりと切り伏せた事を自覚して、解くエスコート。
「やったな、ご主人っ!」
と、顔をクシャクシャにして笑うギルベルトは、やはりそれはいつものように、頭をクシャクシャと撫で回した。
こうして放り出した背負子を背負直して二人の元に戻ると、アントーニョが飛び出してきてアーサーをぎゅうっと抱きしめた。
「もう、危ない事せんといてや。
待っとれ命じられたさかい待っとったけど、アーティの血の匂いが少しでもしたら、親分、鬼はもちろん、ギルちゃんも八つ裂きにするとこやったわ」
「へ?」
かなり離れた場所での戦闘だったんだが?と思っていると、ギルベルトが苦笑した。
「俺様が聴覚秀でてんのと同様にトーニョは嗅覚すげえから。
あのくれえの距離なら感知してる」
「「まあフランは夜は役立たずだけどな」」
と、そこは声を揃える二人に、二人共ひどいっ!と、フランはハンカチを噛み締めた。
なるほど。
暗闇だと自慢の視覚も活用できないのか…。
野宿の際にフランが絶対に動かないのはそのあたりがあるのだろう。
ア~ティー、おいで~と腕を広げるアントーニョにゴソゴソと寄っていけば、座った足の間に座らされてマントに包まれ抱き寄せられ、腕を枕に眠る。
それがアントーニョが火の番をする時の眠り方で、ギルベルトが番をする時は横たわったアントーニョにやっぱり抱え込まれて眠るのが常だ。
いわく…いざとなった時にすぐにエスコート出来るようにということだが、フランシスに言わせると単なるアントーニョの趣味だという。
――まあトーニョもギルちゃんも使命感に燃えやすいタイプだし?お守りするようにって生まれ育ってるからねぇ。それ自体が娯楽っていうか心の平穏ていうか…
アントーニョが食料を調達に、ギルベルトがその間に出没した雑魚鬼を退治に行っている間、二人で留守番していた時にフランシスが食事の支度をしながら言った事だ。
アントーニョとはすぐ、ギルベルトとも件の一件以来割合と上手く戦えている中で、唯一焦ることもなく、いつか慣れればいいんじゃな~い?というスタンスを貫いている不思議な男である。
――お前は?練習いいのか?
と以前聞いたら、
――ん~、お兄さんの場合ね、鬼が飛ぶわけじゃないから、空からチクチクやるより、正直ギルちゃんやトーニョが地上や水中で戦うほうが早いし?そのかわり坊っちゃんをエスコートしてるとより高く早く飛べるっておまけがつくから主に撤退用だと思った方がいいんじゃないかな~。だから剣使えなくても無もんだ~い。
と飄々と応えてギルベルトにどつかれていた。
だからどこか一歩離れて見ているようなフランシスにもう一度
――お前は?二人とは違うのか?
と、聞いてみると、フランシスは器用にかまどを作りながらやっぱり飄々とした様子で笑った。
「二人共色々必死になるタイプだからねぇ。お兄さんまでそうなったら上手くいってる時は良いけど、揉めた時に終わるでしょ。
だからお兄さんは半分オブザーバーなくらいが丁度いいの。」
と、言う声音はなんだか自称お兄さんというのもわかるような、他の二人よりも少し大人な感じだ。
二人共特にフランシスには遠慮のない感じだし、実際そんな立ち位置なのかもしれない。
…というか、アーサーもフランシスには気を使う気がしない。
他は、トーニョ、ギルと名前を呼んでいるのに、フランはぞんざいにヒゲ!と呼んでいるし……。
まあこれはこれでいい関係なのかもしれない。
こうして4人の旅はゆったりまったりしつつも、確実に進んでいく。
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