「なあ…」
アントーニョとフランシスが待つ焚き火から少し離れたあたりで、アーサーはギルベルトを見上げていった。
「ん~?」
「お前のそれ、癖か?」
「それ?」
「やたら頭撫でんの」
「あ~…」
と、そこでギルベルトは苦笑した。
そしてさきほどまでアーサーの頭に置いていた自分の手を眺める。
ああ、なるほど。
守護者は普通の人の家に生まれ落ちるのか…。
それなら家族がいても納得だ。
途中乾いた木の枝を拾っては背負子に放り込むギルベルトの横で、アーサーもそれに習って枝をギルベルトが背負う背負子に放り込んでいく。
「悪いな。最初にトーニョが言ってたアレ、ほんとなんだ」
「アレ?」
と首をかしげると、ギルベルトは自分の髪をくしゃっと握った。
「俺様は神主の家に生まれて親父は使命を果たして死んだ。
村人も皆各々の使命を果たして死んだのに、俺様は弟だけは死なせたくなくて、逃がそうとしたんだ。
結果…鬼に見つかって弟は死んで俺らはまだ赤ん坊のご主人を守りきれないかもしれなくなった。
俺様は弟が死んで戦意喪失してて、フランは元々戦闘好きな奴じゃなくてな、とりあえず16年後に俺ら3人揃ってないと意味がねえから、ご主人をいったん結界を張った桃ん中に封印して、逃げる事に専念しようと提案して、俺様もそれを了承した。
しちまったミスはミスとしても、あの時はそれが全員生き延びるのに最良だと思った。
でもそんな中で一人最後まで戦ってたトーニョは、一時的にでもご主人を手放すのに断固として反対したんだ。
絶対に自分が守り切るからって最後まで反対してて、最終的にはフランがご主人を飛んで連れてっちまって、それ走って追っかけてた。
……それがあるんだと思う。
ご主人は赤ん坊でも無意識にそれを感じてて、俺様やフランに身を預けきれねえんだ。
だから、連携が上手くいかねえのは、ご主人のせいじゃねえ。
信用させられない俺様の問題だ」
だから、ご主人は無理すんな…と、ギルベルトは苦いものを飲み込むようにして笑う。
16年間…いつも後悔して自嘲してきたんだろうか…。
「だって…それで俺は今生きてるんだろ」
アーサーはいつもとは逆にギルベルトの頭に手を伸ばした。
「感情だけじゃ守れないモノがある…お前はきっとそう思って俺を逃してくれたんだ。
それを責める権利なんて誰にもない。
俺が今こうして生きてる…それがお前の判断が正しかった証だ」
よしよし、と、少し背伸びをして固めだがサラサラした銀色の髪を撫でると、ぽかんと呆けていたギルベルトは次の瞬間、泣きそうな顔で笑って、その手を取った。
そしてその場にひざまずくと、
「守護者モンキーナイトとして…そして人として生を受けたギルベルト・バイルシュミットとして、今後命に変えてもあんたを守りぬく事をここに誓う」
と、恭しくその手を額に当てる。
月あかりのした、その誓いは神々しいまでに神聖なものに思えた。
「だから…俺様を信じてくれ。今度こそ絶対に守りきれずに手放したりしねえから」
と、顔をあげて見上げてくる紅い目に、
「当たり前だろ。頼りにしてる、ギル」
と、アーサーも笑った。
…その瞬間…ギルベルトがスッと立ち上がってアーサーを己の体の後ろに隠す。
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