厨2病患者のための日本昔ばなし@桃太郎5

――どうやら無事だったみたいやな。結界壊したり鬼かわしたりすんのに時間かかってもうたけど、なんとか今日、16の誕生日に間に合ってヤレヤレや。



パチパチと火の弾ける音と共に声がする。



――まあね~。随分と鬼が迫ってたみたいだけど、なんとかなったね~。

――そもそもあの時、俺様がヘマしなきゃ川に流して人に託したりせずにすんだんだよな…わりい。

――ほんまやで~。あれで見つけ出すのに随分かかってもうたわ~。

――こら、トーニョ、お前そういう事言わないのっ!

――え~、せやかて間に合わへんかったらどないしたん?

――もう、間に合ったんだからいいでしょ。仲間割れしな~い!

――ホイホイ、3人揃って行かなあかんねんもんな。

――ところで…なんでトーニョいつまでもご主人抱え込んでるわけ?

――そりゃあお守りせなあかんやん?不憫や変態が伝染ってもなんやし?

――…ショタペドもね。

――大丈夫っ!この子自身がまだちっちゃいからショタペドにならへんわっ。

――大丈夫ってそっちかよっ。



今まで老父母とエンリケ以外の人間からは敵対心しか向けられてこなかったため、側に他人がいる時イコール気の許せない時だったが、なんだかのんきな会話に気が抜ける。



自分を抱えているのは、確かさっきの男。

水の中で自分を助けてくれた男のようだ。



ぱちりと目を開いてみると、褐色の肌に茶色がかった黒髪癖っ毛の人の良さそうな顔をした男がニコっと人懐っこさ全開の笑みを浮かべて見下ろしてきた。



「お~、気づいたん?よお寝とったな。」

とアーサーを軽々と姫抱きにしたまま歩き続ける男の左右には松明を手にした二人の男。



一人はふわさらな蜂蜜色の髪に紫がかった青い目の少し甘ったるい雰囲気の整った顔の男で、もう一人は銀色の髪になんと血のように紅い目をしたキツイ印象を与える、しかしやはり整った顔の男である。



そして…彼らの先ほどの会話を聞く限り、自分はどうやら彼らがお守りしようと思っている対象らしい。



「おい…」

と、視線を向けると、男はニコっと

「おい、やなくて、アントーニョ。トーニョでええよ~」

と気の抜けるような明るい笑みを向けてくる。

アーサーの記憶が正しければ、この男があの恐ろしい鬼達を退治したのだと思うのだが、今目の前で笑っている顔はそんな殺伐としたものとは程遠い気がする。



まあそれよりも…だ、確認は取らなければならない。

アーサーは3人が歩き続けている暗い道を少し見渡して、それからアントーニョという青年をまた見上げた。



「お前達は誰で、今どこへ向かってるんだ?さっきの鬼はどうした?あと村は無事なのか?」

気になっていることを一気に口にすると、アントーニョはちょっと考えこむように視線を空に向けた。



「親分らがなにもんか、どこに向かってるかはあっちの紅眼、ギルちゃんが説明するとして、鬼は少なくともあっこら近辺におったのは退治し終わったで。
強いのはこっち来とって倒したったし、雑魚は散っとったけど、ギルちゃんと、そこの髭のフランが散開して潰したさかい、村も無事や」


と、それだけ言うとアントーニョはチラリとギルちゃんと呼ばれた銀髪の男に目を向けた。

振られた事に気づくと、銀髪の男はアーサーに視線を向けて、少し微笑む。

キツイと思っていた顔立ちも、そうやって笑みを浮かべると、優しい印象に変わった。



「もうちっとゆっくり説明できっと良かったんだけどな、いきなりで悪ぃ。ご主人。
俺はギルベルト。ギルって呼んでくれ。
まず俺らが何者かという以前にあんたが何者なのか、そっちの説明先にするな」

と、意外な言葉にアーサーは目を見張った。

そう言われれば、アーサーの生まれは普通ではないし、今まで疑問にも思ってこなかったが、自分自身のルーツをアーサーは知らないのだ。

それを彼らは知ってると言うのか?

「俺が…何者なのか?」

オウム返しに繰り返すと、ギルベルトはうなづいた。



「ああ、自分でも薄々気づいてるだろ?
あんたは人間じゃない。
この世で唯一上位の鬼を滅する事ができる聖剣【鬼滅剣桃太郎】の霊魂を身の内に宿した存在だ。

で、俺ら3人はその守護者。唯一あんたの持つ聖剣を引き出せる存在だが、それにはあんた自身の意志が必要なんだ。

あんたが俺らにエスコートすることを望んでくれれば、俺らは全力であんたを守りつつあんたの剣の能力を使って戦わせてもらう。

トーニョん時に聞いたと思うけど、俺らを使う時は【エスコート】の後に属性と名前を呼んでもらえりゃあいい。

…てことで…自己紹介だ。

俺様はモンキーナイトのギルベルト。
使う時は【エスコート・モンキーナイト・ギルベルト】な。
得意なのは陸上で、特に優れているのは聴覚。

トーニョは知ってると思うが、ドッグナイト・アントーニョ。
得意は水中、優れているのは嗅覚だ。

で、最後の一人、フランはペーゼントナイト・フランシス。
空中が得意エリアで視覚に優れる。

それぞれ得意不得意もあるからな、ケースバイケースで選んでくれ。


次は俺らの使命について。

まあ結論から言うと鬼退治だな。

鬼は上位と雑魚に分かれてて、雑魚は普通の物理的なダメージで倒せるが、上位の鬼になるとあんたが内包してる聖剣【鬼滅剣桃太郎】じゃねえとダメージも与えられねえ。

更に言うなら、鬼ヶ島の奥にある魔界の門を封印できるのは【鬼滅剣桃太郎】の力だけで、こいつを封印しちまえば、鬼は魔界に送り返されて、人間界に干渉できなくなるってわけだ。
まあ…永遠に封印っつ~のも難しくて、だいたい数百年くらいで封印も解けちまうんだけどな。

で、封印が終われば俺らもあんたもお役御免だ。
その瞬間眠っちまってもいいし、数十年人間としての生を満喫したあと眠りについてもいい。
次に封印が解ける頃には嫌でも叩き起こされるから、そうしたらまた仕事だ。

前世の記憶っつ~のは目が覚めた時にはなくなっちまってるが、代々モンキーナイトが記憶者となっていて、使命についての記憶は持って生まれてくるから、なんかわからない事があったら俺様に聞いてくれ。
ってことで…今その鬼ヶ島に向かってるってわけだ」



え?ええ?何言ってるんだ、こいつ……。

脳が理解するのを拒否している。
というか、もう意味がわからない。


いや…確かに桃から生まれた自分も意味がわからない存在かもしれないが、生まれた時には自分は赤ん坊で記憶がないわけだから、自分的には特殊も何もなくて、村の皆からは奇異な目では見られていたが、ただの愛想のない子どもだったはずだ。



「ちょ、待ってくれっ!急にそんな事言われても…。」

アーサーが腕の中でワタワタ暴れても、アントーニョはビクともせずにこにこと笑っている。


「ん~堪忍な~。
なんや封印中の剣の管理者やった神主のおっちゃんがな、16年前に16年後に自分が鬼のボス倒しに行くなんて予言しやったんで、今めっちゃ鬼共が自分の事狙ってて、放置しとくと危ないねん。

もうちょっと早うに見つけて色々教えたるはずやってんけど、ギルちゃんがヘマやらかして、鬼に居場所バレてもうてな、自分は16歳になるまで聖剣出せへんし、自分おらんと上位の鬼は倒せへんから、仕方なしに霊力ある桃ん中に自分封じて鬼にみつからんように逃したら、なかなか見つけられへんかったんや」


そんなとんでもない話を聞かされて、アーサーはさらに焦った。

明日にはエンリケと旅に出発する予定だったのに…いや、でもこのまま一緒にいたら危険な目に合わせるのか…。


「一緒に暮らしてた奴がいて、そいつと明日に村を後にして旅に出る予定だったんだけど…」
と、脳内の整理のつかないまま思いついたままを口にすると、一瞬アントーニョの笑みがこわばるが、

「あ、うん、でもね、坊っちゃん狙われてるからね、鬼を封印するまでは他と関わりを持つと相手も危なくなるし、エスコートさせてもらえば坊っちゃんは物理的に守護できるんだけど、他は絶対に守りきれるわけじゃないからね。
一応お兄さん、坊っちゃんの家のお兄さんには坊っちゃんしばらく預かることも伝えておいたから、大丈夫」
と、そこでフランシスがとりなすように言った。


「そうか…出発待っててくれれば良いけど……」
と、それでもアーサーが俯くと、ギルベルトがさらにとりなすように

「ん~、早く鬼ヶ島行って鬼を封印しちまおうな」

と、クシャクシャとアーサーの頭をなでた。





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