泣いた…ことはある赤鬼10

「見つかりましたか?」


今日も人に姿をやつして街に行って帰ってきた最愛の相手を出迎えると、マカオは上着を受け取った。

「あかんわ~、みつからへん。
なんやもうすぐここに討伐隊来るらしいから、その前に探したいんやけどなぁ」
との青鬼の言葉に、マカオは

「私のせいで…申し訳ありません」
と、シュンと肩を落とした。


「あ~、ちゃうで。自分のせいちゃう。元々好奇心強い子やってん。
自分みたいにええ人間も居るって知ったら、友達でも欲しくなったんやと思うわ。
なにせ、鬼はもう殆ど滅んでもうて、今まで俺と二人きりやったからなぁ…」

と、慰めるように少年の細い肩を抱き寄せて口付ける。


帝の御子でありながら、母親の身分が低くて冷遇されていたせいだろうか…マカオは尊い身分であるにもかかわらず、素直で働き者だった。

アーサーにはいくら教えても何故か最終兵器並みのものになる料理も、マカオは器用にこなすので、最近ではマカオに家の全てを任せている。

やんごとない身として生まれて庶民のような生活を強いられているにも関わらず、マカオは笑みを絶やさない。

宮中では皆に疎まれてきたから、優しい青鬼に助けられて、こうして一緒に暮らせるのが幸せなのだと微笑む。


そんな、天真爛漫なアーサーに比べるとどこか憐れを誘うようなその風情に、育て子であるアーサーよりも実は年下であるにもかかわらず、年甲斐もなく心惹かれた。

可愛い、守ってやりたいと思うのはアーサーに対するのと同じだが、それと同時に全く違う感情も湧き上がる。

有り体に言えば、つがいとして迎えたい、そんな感情だった。


アーサーはそんな自分の感情を感じ取って出て行ったのだろう。

1つの巣に2つのつがいは要らない。
それは動物としては正しい本能だ。

正確にはアーサーはつがいではないが、つがい以外の同種という意味で言えばそう言えるだろう。


自分としては別にマカオをつがいに、アーサーを子どものように暮らすのも悪くはないとは思うのだが、それは幸運にも同種以外でもつがいに出来る相手を見つけた自分の理屈で、いつか大人になった時に一人になるアーサーにしてみたら、やはりそれは居心地が悪く感じるのも当然だ。


責は全て自分にあるとはいえ、それにマカオも関わっていると思えば、優しいこの少年はひどく心を痛めるに違いない。

だから、ポルトは今日もそう言って最愛の相手を慰めるのだ。


アーサーが出て行って以来、時折時間を見つけてはフラリと街まで探しに行ったりもしていたが、それで世の中ずいぶんきな臭い事になっていることを知った。

生贄に捧げられるはずだった皇子を連れ去った事で、人間の王、帝やそれに連なる者達、さらにマカオを生贄にするように画策したらしい、正室の周りは苛立っている。


アーサーは能力の強い赤鬼の末裔だ。

隠そうと思えば鬼であることを隠す事などお手のものだし、万が一バレたとしても追手を振りきることなどたやすい。

だから、人間の間をしばらくさすらって満足して戻ってくるのを待とうと思っていたのだが、近々討伐隊がこちらに送られると聞いては悠長にもしていられない。


もちろん普通の人間が数十人くらい集まったところで負かされるようなヤワな鬼ではない。

曲がりなりにも鬼族最強の王エンリケの弟だ。

ただ、今回の討伐隊を追い散らせば、また今度は大人数の討伐隊が編成されるだろうし、キリがない。


また、一応すでにつがいにはしたものの、まだ鬼に成りたてで弱いマカオや何も知らずに戻ってきたアーサーが巻き込まれるのも心配だ。


討伐隊が来るまでに、なるべく早くアーサーを見つけ出して、マカオ共々ここを後にして、安全な棲家を探したい。


そう思って今日もアーサーを探しに都に行ったが探し人は見つからず、肩を落として帰ってきたが、マカオの温かい食事と笑みに癒やされる。

この温かい環境を失うのはつらい。


いっそのことアーサーの事は割りきって棲家を探しにでてしまおうかと思うこと数度。

しかし今現在わかっている中では唯一の同族を見捨てるのかと言うと、それも出来ず、何よりマカオ自身がそれを拒んだ。


「旅立つ時は全員一緒に行きましょう。
アーサーさんが戻って来た時にここに誰もいなかったら悲しいじゃないですか。
私なら大丈夫ですよ」


そう言う言葉に甘えてズルズルと日を重ねているものの、討伐隊が来るという日まであと1週間。

本当にそろそろ限界かもしれない。


そんな時だった。



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