泣いた…ことはある赤鬼8

――ああ…めっちゃ可愛かったなぁ…


布団を敷く余裕もなく着物の上で奪ってしまって、どうやらそのまま眠ってしまっていたらしい。

気づくとアントーニョの頭の上にも二本の赤い角が生えていたが、その意識は鬼になったということよりも、腕の中で気を失うように眠る少年が先ほどまで見せていた痴態に向けられている。


まだ幼さの残る体が快楽と羞恥から無意識に逃れようとするのを抑えつけ、何度も欲を叩きつけると、そのたび切なげなすすり泣きを漏らしていた。

お互いお互いの境界線がどこかもわからなくなるほど交じり合い、奪い合い、与えあう。

そうしているうちに、おそらく自分は姿を変えたのだろう。

まあこれから長い時を共に過ごす可愛い愛しい相手がいれば、姿形などどうでもいい事ではあるのだが…。



まだ涙のあとの残る頬に口づけてやれば、眠っている顔にふわりとあどけない笑みが浮かぶのに、また性懲りもなく欲を覚え、アントーニョは慌てて起きると、身を清めるための湯を沸かし、湯で濡らした手ぬぐいを絞って丁寧にその体を拭いて寝間着を着させてやる。

その後布団を敷いてアーサーを寝かせてやると、自分もその隣に潜り込んだ。

腕の上に乗せた黄色の頭には眠ってしまったことで変身が解けたのか、赤い角。

そうすると、魔法で保たなければならないのは、角を隠すかどうかくらいで、姿は別に大きくも小さくも、歳相応にも子どもにも普通の感覚でなれるのだろう。


当分は角を隠してここで暮らすのも良いが、これから200年弱の間も年をとらないというのは、村外れの家とは言え、さすがに怪しまれる。

いずれはここを離れて、アーサー達がそうしていたように人から隠れて山にでも住むしかあるまい。


まあこの家も育ててくれた祖父が亡くなった時に親戚にとられた祖父の家や畑の代わりに与えられたもので、子どもの頃から住んでいる思い出の家というわけでもないので、良いのだが…。




生来が楽天家なアントーニョではあったので、鬼になったからといって大して問題に思うものもなかった。

むしろ人間の頃より力が湧いて、畑仕事をするのに良いくらいだ。


いつかここを出て人里離れた場所に居を構える…そう決めたので、最近は少しずつ金も貯めている。

新しく住んだ場所で畑を作っても即金に出来るくらいの収穫が見込める保証はないからだ。


アーサーは花から染料を作って糸を染め、それを編んで綺麗な飾り紐を作り、試しにと売り物の草鞋の紐に使っていたが、それが粋であると街で評判になり、やがて草履屋から草履の鼻緒に使いたいからと、発注がくるまでになった。


こうして二人はささやかながらも静かで穏やかな日々を送りながらも、旅立ちの日に備えていたが、事件が起こったのはそれから1年後の事だった。





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