こうして駅に付くまでには泣きつかれて眠ってしまったアーサーを抱いたまま、行きと同様乗り合い馬車で村外れまで。
そこからは歩いて自宅に帰る。
荷物をおろして布団を敷くためアーサーを下ろそうとするが、しっかり巻き付いた腕は離れない。
と、声をかけると、まだ半分寝ぼけたようにアーサーはぼ~っと目を半分開く。
そして…小さな小さな声でつぶやくように言った。
――お前も…鬼になって一緒にいてくれるか?
本当に不安げな声。
他人が聞いたらとんでもないと言うのだろうが、アントーニョはああ、それもええかもなぁと思った。
もう自分を頼る者はいないし、アーサーと二人山に入って自分達が食べる分だけの田畑を作って、獣を狩り、魚を捕る。
そういう生活も悪くはない…。
そんな事を考えていると、その沈黙を迷いや拒絶ととったのか、
――やっぱり嫌か?
と、うるっと潤む目。
「あ~、堪忍。そうやないねん。
もう面倒みとった子達もおれへんようになったし、アーサーと二人で山で生活すんのも悪くはないなぁ思うてな。
まあ…実際鬼になれるんは、もうちょい先になりそうやけどな」
と、頭を撫でると、
「何故だ?」
と、アーサーは不思議そうにコテンと小首をかしげた。
まだ大きさは人間のモノだったが、なんといってもまだまだあどけない5歳くらいの男児だ。
同性というのは男色も珍しくないお国柄なのでなくはないが、さすがにここまで幼い子どもを相手にするというのはない。
「やってな、つがいとして情交わすってそういうことやろ?
せめて元服前後くらいの年になっとらんと…」
「ああ、そういうことか。じゃ、これでいいか?」
と、もうはっきり目が覚めているらしいアーサーは、また人間サイズになった時に使った杖を出すと、それを振る。
そして湧き出る白い煙。
それが消えると目の前には、年の頃は13,4歳くらいだろうか。
さきほどよりだいぶ大きくなった少年が座っていた。
「俺は生まれてまだ16年だから16歳相当が限界だけど、それなら十分つがいの範囲内だろ?」
というところをみると、どうやらアーサーは16歳時の姿をとっているのだろう。
13,4歳に見えるというのは、飽くまで童顔ゆえということらしい。
まあ通常は13,4歳…早い子どもだと12歳くらいで元服を迎えるから、16なら十分結婚をしてもおかしくない年ではある。
そう思ってあらためて目をやると、あどけない中に、まだ未成熟な色気のようなモノが感じられる。
少女のように長いまつげに縁取られた大きく丸い澄んだ瞳に小さめの可愛らしい鼻、全体的に透けるように真っ白な肌の中で、16の姿になってもまだ丸みを帯びた頬はうっすらと朱に染まり、ぽかんと少し開いた可愛らしい小さな唇からは桃色の舌が覗いていて、それが妙に艶かしい。
アントーニョはゴクリとつばを飲み込んだ。
「…自分…ほんまにええん?ちゃんと意味わかって言っとる?」
出会ってから今までが子どもの形態を取っていたため、どの姿が本来のものなのかがわからず、精神的にどこまで成熟しているのかが気になる。
何も知らない真っ白なところを手折る…というのは、ある意味男のロマンではあると思うが、本気で相手が意図していない状態でそれをしてしまうのは犯罪だし、何より大切な相手にすることではない。
こうしてぎりぎりで抑えつけたアントーニョの理性は、
「正直、つがいになるって具体的に何をするのかわかってないけど、お前が…色々捨てて俺のために鬼になってくれるなら、何をしても…何をされてもいい……」
と、見上げてくる吸い込まれそうに澄んだ瞳の前に脆くも崩れ去った。
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