背負い籠を背負って籠を両手に持って、とりあえずの保管場所の納屋へと置いておく。
明日はこのとれたて野菜と編んだ草鞋、それに山で狩ったクマの毛皮などを街に売りに行こうと思うが、さあアーサーをどうするか。
成りは小さな子どもだが、本人曰く赤鬼だということだし、食事さえ置いていってやればいいのかとも思うが、強がっているくせにたまにどこか不安げな様子で見上げてくる目をみると、なんとなく気になる。
と、納屋で籠をおろして、さてどうしようかと悩んでいると、表から悲痛な泣き声が聞こえて、アントーニョは慌てて外へと飛び出した。
ひっくひっくとしゃくりをあげながら、パニックを起こしたように走り回る小さな子ども。
それはまさに親からはぐれた幼子のようで、
「アーティ、親分こっちやで」
としゃがんで手を広げてやると、ばかあぁ~~!!と叫びながら、涙いっぱいの顔で走ってきた。
「お、お前がどっかに連れて行かれたのかと思って、助けに来てやったんだっ」
と、胸元に抱き上げてやると、ぎゅうっとアントーニョの着物の胸元を小さなふっくらした手で掴みながら、嗚咽の合間に訴えるように言う声の可愛らしくも憐れな事。
「そっか~。おおきにな~。
親分、畑に籠を置きっぱにしとったのを思い出して、しまいにきてん。
明日は街に売りに行かなあかんから」
と言うと、パッと物言いたげな大きな丸い目を向けられる。
もちろんこんな様子を見てしまったら、留守番をさせるなどという選択を選べるはずもない。
「そうやなぁ…持っていくもんを少し減らせばアーサーを背負いかごに入れて行く事やったらできるかなぁ」
と、誰ともなしにつぶやくと、アーサーはぷくりと膨れた。
「俺、歩けるぞっ!荷物だって持てるっ!」
「いや、歩けるのは知っとるけど街は人が仰山おるからな。
こんなにちっちゃいと手もつなげへんしはぐれてまうし…」
さすがに手伝いと言える量の荷物は持てないだろうということは、もう敢えて指摘はしない。
そんなことを言おうものなら拗ねるか意地になるか泣くかするのが子どもであるということは、経験上わかっている。
「俺を誰だと思ってるんだ、赤鬼様なんだぞっ!
赤鬼はな、鬼の中でも上位種なんだ。
大きくなるなんて朝飯前だっ!」
と、アーサーは何やら小さな杖のような物を出して一振り。
ぽわんと言う音と共に煙に包まれ、やがて薄れていったその煙の中には、年の頃にしたら5つくらいのアーサーをそのまま人間の子どもの大きさにした子どもが得意げに立っていた。
どうだ!と言わんばかりのそのドヤ顔に、アントーニョは驚きつつも内心ため息をつく。
(…いや…確かに大きゅうなった…なったけどな…。やっぱり子どもなんやな)
と、そんなアントーニョの内心も知らず、アーサーは
「これで手をつなげるだろ」
と、それでもまた少し不安げな顔でアントーニョを見上げてきた。
ああ、もうそんな縋るような目で見られたら、本気で置いていけるはずもなく、
「そうやね。明日は一緒に行こか~」
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