ワラワラとたくさんいる保護国の子ども達にローマが持ってきてくれる美味しいお菓子や綺麗な着物。
スペインはそれを子ども達が奪い合っていても参加せず、むしろ最終的にローマが分けてくれた分で不満な子が泣きだすと、いつも
――おっちゃん、あの子に俺の分あげたって。
と、自分の分を譲ってやるのが常だった。
“スペインは欲がない優しい奴”と、その当時は皆が思っていて、そういう称賛が羨ましかったフランスはいつもそれが不満だった。
かと言って綺麗な服も美味しい食べ物も与えられないのが嫌で、いつもスペインがあんなにいい奴じゃなければいいのに…と、思っていたのだが、今考えればあれは、“本当に欲しい物を手に入れるための布石”でしかなかったんじゃないだろうかと思う。
ゴクゴクたまに…本当に数十回に一回くらい、スペインが何か手にしたいと主張する事があったのだが、その時は大抵
「おうっ、お前はいつも他の奴に譲ってやってるからな。
たまには聞いてやらねえとな。
良いよな?皆」
と、ローマが言い、子ども達はそれが心の底からであるか、渋々であるかは別にして、ほとんどの時は譲られているのだから、と、それを了承して、求めた物はスペインの手に渡る。
思えばこうしていつもスペインは自分が欲しいと主張するものは必ず手にしてきた気がした。
偶然…というにはそれはあまりに高い、ほぼ100%に近い確率で…その時は気にも留めていなかったが、あの無欲にみせていた態度は実は欲しい物を確実に手に入れるための手段だったのではないか…と、空恐ろしくなった。
KY…と思われていた悪友は実はAKYだった…という衝撃の事実。
そうだとすれば、今回のこれもスペインに上手く乗せられて使われた可能性が高い。
ああ、そう言えばスペインは昔々はひどくイングランドを欲しがっていた。
あれもスペインが覇権を手にした頃はすでにイングランドはフランスの支配下を出ていたから無関係でいられたが、あの頃まだイングランドがフランスの手の内にあったら、今頃自分は地図上から消されて生きてないかもしれない。
――お兄さん、ぴ~んちだったのねっ!
と、一人心の中で呟いてみるものの、今の状況を見ると必ずしもピンチを脱出したとは言えない気がしてきた。
今回フランスにイギリスに対して罰ゲームを仕掛けるようにさせたのは、十中八九、イギリスを手にしたかったスペインがそう誘導したのだろう。
そしてめでたく(?)イギリスを手に入れた…と思いきや、イギリスがなんだかフランスにコンタクトを取ろうとしているところをみると、まだ両思いとまでは行ってないのか?
「ねえ、坊ちゃん。」
スペインが戻ってくる前に状況を確認しておかないと、真面目にまずい。
たぶん…スペインのトイレというのは文字通りというわけではなく、さっきのイギリスの痴態にあてられて抜きにいったということだろうから、時間は若干あるはず。
そう思ってフランスが声をかけると、
「おまっ!起きてたのかっ!!」
と、真っ赤な顔をしたイギリスが戻ってくる。
「忘れろっ!さっきの忘れろっ!なんなら記憶喪失になるの手伝ってやるからっ!!」
と、コブシを鳴らすのはお願いだから止めて下さい。
色々な意味でお兄さんのHPはすでに0で…これから次第ではスペインにマイナスにまでえぐり取られるかもしれないのに…と心のなかで涙しながら、
「さっきの?お嫁さんがどうのってやつ?
そう、お兄さんそれ聞きたいんだけど。
一体お前たちどうなってんのよ?
気がついたらお兄さん縛られててお前しかいないしっ」
と、さりげなく、今目を覚ました事を主張してみると、先ほどのスペインのモノに比べればまだ可愛いが、それでも殺意を撒き散らかしていたイギリスは、今度はへにょんと眉尻をさげた。
「その…気づいたら結婚してたっつ~か……あいつがどうしても結婚したいって言うから仕方なくだな…あ、もちろん流されたとかじゃなくて、わざとなんだからなっ!」
いやいやイギリスさん、それ言うとお前が結婚したかったって事になるから。
と、どことなく力のないツンデレに、それでも縛られていて抵抗ができない手前、心のなかでだけツッコミを入れてみる。
「うん、まあいいや。もうその辺りは聞かない事にする。
ね、でさ、なんでお前、いきなりお兄さんの所へ来てるわけ?」
「………どうしても知りたいなら教えてやる……」
「いや…お兄さんの拘束解いて黙って帰ってくれるならそれはそれで……」
「教えてやる」
ダン!と、顔スレスレに振り下ろされた足に、フランスは、
「…はい。…すっごく知りたいです。」
と、コクコクうなづいた。
「いいか、よく聞け。お前のせいだからな?!
責任取れとはもう言わねえが、スペインには絶対に言うな。
言ったら殺すっ!」
「…言うなって何を?責任とか…なんなん?」
と、いきなりドアの方から聞こえてきた声に、イギリスがぴき~んと硬直した。
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