昔から可愛いかったが、あそこまで可愛らしく育ってしまったら本当に危ない。
他に取られる。
とりあえず付き合えたなら、自分以外とホラー映画を見るのは禁止にしよう。
あれは真面目にやばい。
自分じゃなければそのままの流れで頂かれかねない。
…というか、あのまま可愛らしく怯えて涙目になっていたイギリスをそのまま宥めがてらベッドに直行出来たらどんなに良かっただろうか…。
ああ…あかん。
一回抜いてからやないと寝られへんやん。
スペインがトイレに行こうとドアノブに手をかけた瞬間、自室のドアがノックされる。
――こんな時間に?
と、思いつつもドアを開けて廊下に出ようとした瞬間、白い塊にぶつかった。
「あぶなっ!!」
跳ね飛ばされて後ろに倒れかかるその手を慌てて掴んで引き寄せると、イギリスがポフン!と胸の中に収まった。
同じシャンプーを使っているはずなのに、それにうっすら混じる甘い薔薇の香り。
背はおそらく数センチくらいしか違わなさそうだが、その割に小さく感じるのは細いからだろうか。
少なくとも肩幅や腰回りなど、成人というには頼りない、少年のような細さである。
「どないしたん?」
もうあかん…。
なんでぬいぐるみを手に訪ねてくるん?
しかもこれがえらい似合うとるって、あかんやろっ。
23歳としては絶対にあかんわ。
かわええ…可愛すぎやっ!
と、内心はワタワタとしながらも表面上は平静を装って聞くと、じわぁっとまた大きなグリーンアイに涙が溜まっていく。
涙目の上目遣いでぬいぐるみをギュッと握りしめて震えているその様子に、スペインの親分ゲージが最高値を突き抜けて振りきれた。
あっか~~~~ん!!!!!!
思わず抱きしめようとしたその瞬間、ポスッ!と顔の前に茶色の塊が突きつけられた。
「…???」
「こいつがっ!!ここで寝たいって言うからっ!一緒に来てやったんだっ!」
…………。
わかった…自分、親分を萌え殺しに来とるんやな…。
素直に言えないまではロマーノもよくあったが、この返しは……ありえへん。
23歳嘘やろ?
なんなん?!
これが大英帝国の本気かいな。
本気で萌え殺そうしとるん?!
黙っているとやばい。
本気で姫抱きにしてベッドにお持ち帰りしたいと訴える腕を理性で押さえつけているため、プルプル震える。
とにかく何か流れを変えなければ…と、思って聞く。
「…え~っと…クマが?」
別に馬鹿にしているとか意地悪しているとかでは決して無い。
もう何かしゃべって気を紛らわせないと危ないレベルで親分スイッチが連打されているだけだ。
しかし悲観主義者のイギリスにはそうは取れなかったらしい。
泣きだした。
ああ、そうだ。ぬいぐるみを抱きしめてヒックヒックとしゃくりをあげだしたのだ。
あかん…ほんまあかん…と思っていると、さらに追い打ち…
――ホラー映画っ…見てっ……一人…になったら……怖くなってきて……
嗚咽をもらしながら一生懸命訴えるその可愛らしさに負けた。
完敗だ。
もういい。自分の方がなりふりかまわず愛を乞えばいいのだ。
懇願でも土下座でもなんでもしてやる。
この瞬間、一瞬でもこの子が完全に自分のものではないという事実に耐えられない。焦燥感で気が狂いそうだ。
「も~、なんなん。あかんわ。こんなんもう放っておけへんやん。
自分可愛らしすぎや。」
スペインはクマのぬいぐるみごとイギリスを抱きしめて後ろのドアを閉めた。
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