自分ではそんな経験はないから、過去、まだ素直で可愛かった頃の新大陸の子ども達の行動を真似てみようと思いたってあれこれ行動していた。
あの子たちはこぞって自分と一緒に寝たがった。
とは言ってもイギリスは幼児ではないのだから、何もないのに一緒に寝てくれは、さすがにただの怪しい男か嫌がらせだ。
だからイギリスは考えた。
今はもう可愛いとは言いがたいが、未だにアメリカはホラー映画を見た時だけは怖がってイギリスと一緒に寝たがる。
それが使えないかと…。
ということでホラー映画鑑賞会。
「ホラー映画?ええけど?」
見たいと言うとスペインは、唐突やなとは言ったが拒否することもなく、二人でリビングで並んで観る事になった。
正直…イギリスはその手のものはそれほど苦手でもない。
…というか、一人で観るほど好きなわけではないし、いつもは大抵アメリカに付き合わされて、隣で盛大に怖がるアメリカ鑑賞会になっている。
そこで、ああ、これも甘えるネタにはなるか…と、そういう時のアメリカを思い出してみるが、盛大に泣きながら抱きつくなんて芸当はとてもできそうにない。
それでもこれがチャンスとばかりに、隣に座るスペインのシャツの袖をギュッと握ってみる。
「どうしたん?」
と、笑顔で聞かれて言葉に詰まった。
駄目だ…羞恥が先立ってアレを真似する事はできない。
抱きつくのが無理ならせめて盛大に怖がるフリをしなければと思うのだが、出来ない。
本当に…何故仕事を離れた途端、こんなに根性なしになるんだろうか…。
情けなさにジワリと涙が浮かんで来た時、スペインが苦笑してイギリスの頭を引き寄せた。
「もう遅いし、そろそろ寝よか~。」
ワシャワシャとそのまま頭を撫でると、スペインはDVDを消して立ち上がった。
今だっ!
そう思うものの、タイミングが掴めない。
アメリカですら出来るのに、何故自分はこうなのだろうか…。
ガッカリとして部屋に戻って寝間着に着替えた時、ちょうど携帯が鳴る。
日本だ。
あまりに良いタイミングなので、空気が読めるというのは、まさかこんな離れていても読めたりしてるんだろうか…と、半ば感心しながら電話にでると、
『いかがですか?スペインさんとは上手くいっていらっしゃいますか?』
と、まさに今話したかった事を聞かれて、今日一日色々頑張った事を報告しながら、最後にホラー映画でアメリカの真似をしようとして失敗に終わった話をすると、日本は穏やかな声で
『本当に頑張りましたね。』
と、労ってくれる。
そのいたわりの言葉にホッとした。
「ああ…。でも結局最後失敗しちまったから…」
と、少し泣き言を言ってみると、電話の向こうで優しく微笑む気配。
『大丈夫。イギリスさんは失敗なんかしてませんよ。
なんならこれからだって行ってみれば良いじゃないですか。
部屋に戻って一人になったら怖くなったから…というのもありですよ』
などとアドバイスをくれた。
ああ、そういうやり方もあるんだな、さすが日本だ。
と、なんだか希望が見えてきた気がして礼を言うと、日本はやっぱり優しい声で
『私も少しでも大切なお友達のイギリスさんのお役に立てれば嬉しいです。
いつもイギリスさんには萌えを提供していただいてますから。
爺の萌えのためにも頑張って下さいね』
と、謎の言葉を残して通話を終えた。
日本はとても素晴らしい友人だが、たまに謎の言葉を使う。
“萌え”もその一つだ。
意味を聞いたら、いつもの穏やかな笑みを浮かべて、
『説明が難しいんですけどね…素敵なモノなどを見た時に感じる、好意的な感情の一種です。』
と、教えてくれた。
ようは…自分は日本の目には素敵なモノとして映っているということか、と、とりあえず細かいことはさておいて、嬉しくなったのはよく覚えている。
ともあれ、せっかく日本が授けてくれた作戦だ。
最善を尽くさなければならない。
こうしてイギリスは意を決して枕を手にベッドから抜け出ようとしたが、ふとこのところいつも一緒のティディベアをいつものように抱えていることにきづく。
「…お前も…一人ぼっちは寂しいよな?」
と、この時点で枕を諦めティディを同伴することに。
廊下に出て隣のスペインの部屋をノックすると、当たり前だがスペインが顔を出した。
そして
「どないしたん?」
目を丸くする。
そこでイギリスはハッとした。
夜…いくらなんでもぬいぐるみを抱いて他人の部屋を訪ねて一緒に寝てくれはない。
さすがに引く…。
せめて枕をチョイスするべきだっただろ。
何故この時まで気づかなかったんだ、自分…。
ウッと言葉につまり、せっかく日本が授けてくれた作戦だったのに失敗したことに意気消沈する。
ごめん、日本…。やっぱり俺はダメな奴だ…。
ジワリと涙が溢れてきて、日本の優しい笑みを思い浮かべる。
大切な友人のお役に立てれば…そう言って策を授けてくれた日本の労を無駄にしてたまるかっ!
ティディベアを持ってきた事をなんとか正当化するのだっ!…と、何故か目的が大幅にずれてきた事に動揺したイギリスは気づかず、
「こいつがっ!!」
と、グイっとティディベアをスペインに押し付けた。
「ここで寝たいって言うからっ!一緒に来てやったんだっ!」
「…え~っと…クマが?」
さすがに呆れた声で返されて、イギリスは泣きたくなった。
…というか、泣いた。
ホントは何を言うべきだったんだ?
頭の中でぐるぐる回る。
ああ、そうだ。
ホラー映画を見て一人になったら怖くなってきて…って言おうと思って…
もうどうせ呆れられてるなら言ってしまえと泣きながら言うと、スペインにグイッと腕を引っ張られて胸元引き寄せられる。
「も~、なんなん。あかんわ。こんなんもう放っておけへんやん。
自分可愛らしすぎや。」
そのまま後ろでドアを閉められ、促されるままベッドに腰をかけた。
「なぁ、自分もう親分のお宝ちゃんになり?」
その前に膝立ちになって笑みを浮かべて言うスペインに、
「わけわかんねえ…」
と、ティディベアに涙で濡れた顔をこすりつけながら言うと、スペインは
「ああ、そうやね。こういう事は最初くらいはちゃんとせなあかんか。」
と苦笑して、すぐ笑みを消した。
そして…
――親分のモンになったって?
という冒頭に戻るわけだ。
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