スペインの知るイギリスは、出会いたての小さな子どもの頃ですら常に外敵に晒されていたため、ここまで寛いで無防備な姿をみせる事はなかった。
ほわん、と、花でも散らしてそうな空気をまとうその姿は、外から攻撃をされたりしなければ持っていた、妖精と森の国イギリスの本来の姿だったのかもしれない。
そう考えると本当に惜しい事をしたと思う。
無理でもなんでもフランスより早くこの子を連れ去って自国で育ててやれば良かった。
もちろんフランスのように召使としてこき使うのではなく、手中の珠のように大事に大事に…例え自分が常に戦場で飢えながら野宿をしていても、この子だけは安全な城で薔薇でも育てさせながら暮らさせてやったのに…。
そうしたらもっと早く長くこんな可愛らしい様子を見られたかもしれない。
何もかも全て自分の手ずから教えてやって、自分の手の内で平和に暮らすのに必要な事以外は一切教えない。
唯一大事な宝物として自邸という大きな宝箱の中にしまいこんで自分だけが思い切り愛でるなどと言う事も可能だったかもしれないのに…。
そうこうしているうちに次の食事、スペインではメインの昼食コミーダの準備に取りかかる時間になって、スペインが長年愛用している分厚い黒いエプロンを身につけると、ツンツンとその裾を引っ張られる。
――…見てていいか?…邪魔…しないから……
普段素直に感情を出すタイプではないのに、精一杯と言った感じに恥ずかしそうに頬を染めて、クルンとまるく澄んだキャンディのようなグリーンアイで若干上目遣いに見上げられれば、否と言えるはずはない。
もしかして…こいつは自分を萌え殺すつもりでやってるのか…と一瞬思って、そんな考えを強引に頭の中から追い払う。
「ええよ。いい子にしとってな?」
と、なんとか笑みを浮かべると、ほわんと緊張を解いてホッとした笑みを浮かべられる。
そのまま親鳥のあとに付いて歩くヒヨコのように、キッチンへ向かうスペインのエプロンを掴んだまま付いてくる様子に、一瞬本気で天国が見えた気がした。
心臓がもう肌を突き破って飛び出して行きそうだ。
――あかん…こいつホンマにあかんわ……
今回は自分で外堀を埋めて仕掛けておいたのだから本来は全てが想定の範囲内、余裕を持って対処できるはずなのだが、イギリス相手だと計略に乗せたつもりが気づけば振り回されている気がする。
襲いたい…でもそんな自分も含めて全てから守って慈しんでやりたい…
相反する2つの感情の間でスペインは頭を抱えた。
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