「…気ぃついたみたいやな。よお寝れたか?」
自分に注意を向けたくて、その瞳に自分の姿を映したくて、汗で額に張り付いた前髪をソっと払ってやりながらそう声をかけると、スペインを映したその瞳にかすかに怯えたような色が宿った。
何故?こんなに愛おしく思っているのに何故通じない?
そんな苛立ちがないとは言わないが、そんな思いもぶつけてしまえば追い詰める事はわかっている。
だからスペインは敢えてそういう方向に話を持っていくことを避けた。
「おはようさん。何か食べれそうか?」
と、話をそらすと、それと同時にもう夜で飛行機がなく帰れない、泊まっていくしかないのだと言い含める。
そしてイギリスが不承不承納得したところで、いったんキッチンに戻り食事を運んできた。
客室は二階であることだし、よもや窓から逃げるなどということはないだろうが、なんとなく気が急いて急いで部屋に戻ると、イギリスは困ったように眉尻を下げて、ぺたんとベッドに座り込んでいた。
その途方にくれたような様子が可愛らしい。
パクンパクンと黙々とスプーンを動かす仕草も、もきゅもきゅと頬張る様子も可愛らしくて、見ているだけで楽しい。
食事を終えてデザートを口した瞬間、わずかにほころぶ口元。
甘いモノが好きらしい。
丸いグリーンの目がキラキラ輝いてる。
まるで膝の上でお菓子を食べていたあの幼い子どもの日々に戻ったように…。
食事中はその可愛らしい様子を堪能して、イギリスが食事を終えた頃、本題に入る。
ここからが重要だ。
「で、自分、結局何しにきたん?」
と、実はわかっているのだが聞いてみると、イギリスはひどく動揺して視線を彷徨わせる。
そのおどおどとした様子も可愛らしい。
めっちゃ守ってやりたい感じである。
怖がらんでもええから…と言ってやりたい。
しかしここはジッと我慢だ。
「なんでもねえよ。ちょっと観光に来ただけだ。」
と、もう明らかにちゃうやろ?
なんでスペイン観光で貧血で倒れるまでうちの前におんねんっ…と、突っ込みたくなるような嘘しか付けないその不器用さも本当に可愛くて可愛くて仕方ない。
泣きそうなその顔にドキドキする。
かわええ、かわええ、めっちゃかわええっ!!
ジワリと目尻に溜まり始めた涙がコロンと落ちないかと、ワクワクとした気持ちが沸き起こっているような気がするのは、気のせいではないはずだ。
決して虐めたいわけではないが、可愛い子は笑ったり泣いたりと、表情が変わるとより可愛いと思う。
――何ごまかしとるん?いくらなんでもそれはないやろ
――ごまかさなあかんような事しとったん?
――…言いたないん?
と、ここまで問い詰めてみると、まんまるの目から涙がコロンとこぼれ落ちて、妙な満足感がスペインの心に広がる。
そしてついに…ふるふると涙目の上目遣いで、
「告白しにきただけだっ!ばかあぁ!!!!」
とやられた瞬間、本気で鼻血が吹き出すかと思った。
ああ、認めよう。自分は紛れもなくSかもしれない。
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