親分Sの自覚
――あかんっ!むっちゃかわええっっ!!!!
イギリスといると自分のSっ気を嫌でも自覚させられる。
イギリスに渡した飲み物に睡眠薬を入れたのは、寝過ごさせて今日中に帰れなくするためだ。
数百年前、上司の婚姻中も散々逃げられたのだ。
そしてその後、国家間の関係が悪くなってた頃はとにかくとして、互いにEUに所属するようになってからも、スルリスルリと逃げられ続けている。
今日、このチャンスを逃せばまた逃げられて、今度は捕まえられないかもしれない。
もしかしたら捕まえる気満々のオーラがにじみ出てしまっていて、それで逃げられているのかもしれないが、スペインとて別に追い詰めたいわけではないのだ。
自分の腕の中に収まってくれるなら、大切に大切に可愛がってやる気は多分にある。
睡眠薬が効いてコテンと眠ってしまって体全体を無防備に自分に預けているイギリスは可愛い。
ベッドに運んだものの、下ろすのがもったいないくらいだった。
それでも少しでも体制が楽になるようにとベッドに下ろして薄いブランケットをかけてやり、額にお休みのキスを送って、しかし、離れるのがもったいなくて、そのまま見た目に反して柔らかいぴょんぴょん跳ねた金色の髪を撫で付けてやりながら、寝顔を堪能する。
数時間もそんな風に過ごして、やがて夕食の準備にキッチンへと戻った。
睡眠薬が切れた時に目を離していると逃げられるのかもしれないので、薬が聞いている間に食事を作らなければならない。
少し疲れが溜まっているようなので、胃に優しいモノが良いかとトマトリゾットを始めとして食べやすい物を作りながらスペインは考えた。
今日は良いとして…明日以降どう引きとめようか…。
おそらく…というか、今日わざわざ来た目的は、フランスとの賭けに負けた罰ゲームか何かの告白だろう。
Noと言えばイギリスの事だ、フランスを殴って終わらせれば良いとばかりに即ネタばらしをして諦めて帰ってしまう。
が、Yesと言ってもそれはそれで上手にスペインの側の気持ちも冗談にして、ネタばらしをして帰る気がする…いや、気がするではなく、絶対にそうだ。
引きつけておくためには結論を出してはいけない…。
変化を嫌うイギリスがそれを変化だと感じないくらいゆっくり時間をかけて慣らさせなければ…。
食事の準備だけして、スペインはイギリスを寝かせた客室に戻った。
そしてまたその髪の感触を堪能する。
幼い頃には当たり前に触れさせてくれたのに、今ではこんなふうに眠っている時でなければ近寄るだけでも難しい。
本当は髪を撫でるだけじゃなく、抱きしめてその細い体中の感触を確かめたい。
素直になれないその硬い仮面を自らの手でジワリジワリとはがして、中の柔らかい部分を堪能したい。
それはこの上なく魅惑的な甘露であるに違いない。
しかしそれは完全にイギリスが手の内に落ちてきてからだ。
焦ってはいけない。
オレンジに染まっていた空が、いつの間にか濃紺へと色を変えていた。
欲しかったモノがこうして手の内にあるスペインの浮かれた気分のせいだろうか…今日はいつもにもまして、星がキラキラと輝いている気がする。
――そのうち小舟でも用意して海に夜のピクニック言うのもええなぁ…
一時期お互い船の上を棲家としていた時代。
夜になるとどこかで同じ星を見ているのだろうかと、その頃、敵としていたこの子を想った。
いつかまた国情が変わって寄り添えるようになった時、こんな星空を一緒に見られたら……そんな願いも今後によっては叶わない夢ではない。
――可愛え可愛えイングラテーラ、早く親分の手の内に落ちて来たって?
もう何百年もの間唱え続けたその言葉を、スペインはまた心の中で静かに唱えた。
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