ゲームスタート
「で？ひとの家の前で何しとったん？」
どうやら畑帰りらしく、そのままヒョイッとイギリスを抱え上げて家に入ったスペインはイギリスを居間のソファにおろしてそう言うと、クルリと反転、キッチンに行って冷たいミネラルウォータを入れてきてくれる。
コトリと目の前に置かれるグラス。
「とりあえず水分補給しとき。」
と、促されるが、イギリスは今それどころではない。
自分を嫌っているはずのこの男に告白してOKの返事を貰って来なければならないのだ。
タラリタラリと額を伝う嫌な汗。
「イギリス？大丈夫なん？病院行くか？」
思いがけず近くで声がして、ふと人の気配に気付いて意識が現実に戻ると、ほんの10cmくらいしか離れていないあたりに整った褐色の顔。
あ…意外にこいつまつげ長え…と、また現実逃避をしかけたところで、頬に触れる手の感触にびっくりして飛び退いた。
…と言っても後ろは背もたれなので、せいぜい身をのけぞらせたというのが正しいが。
「なんや、ちゃんと意識はっきりしとるな？じゃ、飲んでおき。」
と、差し出されるグラスをなんとか両手で支え持つと、イギリスは促されるまま中身を飲み干す…が、緊張しすぎて盛大にむせた。
「あ～、もう自分今日はどないしてん。大丈夫か？」
大きな手が背中をさすって、もう片方はタオルを口元へ持ってくる。
「しゃあないな。病院行くほどやないんやったら、うちで少し休んで行き。
今客室用意してくるさかい、そのまま横になっとってな。
寝てもうたら運んでやるわ。」
スペインは当たり前にそう言うと、手にしたタオルをイギリスに握らせて、部屋を出て行った。
どうも調子が狂う…というか、変だ。
こいつ俺の事嫌いじゃなかったっけ？と、ふと考えてみる。
いつもなら……いつも…なら？？…あれ？
そう言えば随分長い間、仕事以外での交流がない気がする。
何故だ？
口すらきかないほど険悪だったから…というわけでもなく、口をきくきっかけがなかった…もしくは自分の方が逃げていた…というのが正しい。
ではいつから？
他国が思っているのと違い、実はアルマダよりはるか前からだ。
まだチビの頃…フランスの家で出会った頃には懐いていた記憶があるが、アルマダの頃は揉めるも何も、もうスペイン関係の事にはイギリス個人…というか、アーサー個人は交流を持っていなかった気がする。
あれ…？？
思い出せない記憶を辿ろうとすると、さきほどまで暑い中にいたせいで疲れたのか、眠気が襲ってきた。
スペインには寝ておけと言われたが、まさかこんな親しいわけでもない相手の家で寝るわけには行かない。
必死に意識を保とうとするが、瞼が重く重くなっていく。
とうとう瞼が開けなくなった時、ふいに身体が宙に浮いた。
正確には横抱きに抱き上げられたというのが正しい。
ふわりと香る太陽の匂い。
楽しげな鼻歌が耳をくすぐる。
嫌い…と言うのはもしかしたらイギリスの思い込みで、そこまではいかないのかもしれないが、急に親しくもない人間が転がり込んできて、あまつさえ眠ってしまったのには違いないのに、何故こんなに機嫌がいいのだろう…と、イギリスはもうだいぶ働かなくなった頭で思った。
ゆらゆら揺れる身体。
階段をのぼる気配。
ピタリと揺れが止まったかと思えば、どうやらイギリスを抱えたまま器用にドアノブを開けたらしい。
居間よりもさらにひんやりと涼しい部屋の中へと入ったようだ。
そこでソっとお日様の匂いのするシーツの上へ降ろされて、上から薄いブランケットをかけられる。
――おやすみ。イングラテラ…
柔らかい声とともに額に触れた柔らかいモノが何かなどと確認する気も起こらないまま、イギリスの意識は眠りの中へと落ちていった。
Before <<< >>> Next
0 件のコメント :
コメントを投稿