それからはすごい騒ぎだった…。
結局千秋はあの時小五郎から聞いた事、アゾットの日記などの事を言って詰め寄って、最終的にスミスから騙してた事、そのまま跡取りを殺させるように千秋をしむけた事などの証言を引き出す事に成功していたらしい。
それは隠しマイクを通して雑誌社のテープへと録音されていた。
表向きにはスミス個人が私怨で殺害をもくろんだという事で発表されスミスは刑務所。
アントーニョの代わりに刺された高校生は命を取り留めたとのことで、千秋はヴァルガス財閥の尽力もあって執行猶予つきで解放された。
千秋が連れて来た雑誌社というのは本当に小さな会社で大人の事情を覆すほどの力はなく、結局スミス個人の逮捕くらいにしか影響を及ぼす事はなかったし、それで全てが終わるはずだったのだが…
「香…自分何しとるん?」
事情聴取やら怪我した香のつきそいやらなんやかんやで大変なところに、さらにマスコミに追い回されてもうクタクタになってそれでもなんとか周りの協力で全部を巻いてカークランド家に戻れた頃にはもう日付はとうに変わっていた。
そこでアーサーにめでたく事件解決の報告を済まして、そのままアーサーを抱き枕に爆睡。
目が覚めて空腹に気づき、こちらはすでに起きて食事の支度を終えていたフランが作った食事を取りながらPCを覗いていたアントーニョは、珍しく動揺して口にしていたコーヒーを吹き出しそうになり、慌てて飲み込もうとしてむせた。
そして前述の言葉だ。
「何って?」
結局捻挫ということで足に包帯を巻いたまま帰宅した香が小首をかしげると、アントーニョは自分が見ていたノートPCをくるりと香の方に向けた。
「あっ…忘れてた。」
テヘッと舌を出す香に、自分なぁ…と、拳を握り締めるアントーニョ。
「どうしたんだよ?」
と、そこで間に入るようにディスプレイを覗きこむギルベルトは、あっちゃあ…と、眉間に手を当てた。
「ワリイ…バタバタしてて忘れてた。俺も連絡取るって話は聞いてたんだけど…」
そう…ティモシーから電話あって離席した時、香はギルベルトとの計画通り電話をかけていたのだ……。
ディスプレイに映し出されているのはオンラインゲーム、レジェンド・オブ・イルヴィスの公式サイトの開発通信。
新人Xの日記だ。
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** 新人Xの突撃隊日記 **
それはある日の午後…なんと“あの”ベスト・オブ・アタッカーのカオルさんから直々にうちの開発部に電話がかかってきたのでした。
しかも…あろうことに僕をご指名!
びっくりです!先輩達を差し置いてなんで僕を?!と思ってると、カオルさんいわく密かにこの新人Xの開発部日記を毎回楽しみに読んで下さってるとの事。
もう本気でびっくりです。
一応IDなどをお聞きしたらたしかに本物!
驚いたのはそれだけじゃないっ…カオルさんは例の跡取り様をご存知との事でした。
知りたければ来いと言われ、場所を指定されました。
これはもう行くっきゃありませんっ!
仕事?!そんなもん先輩にっ…なんて言える立場じゃない下っ端なんですが、心優しき(?)先輩達は、
「行って来い!絶対にカメラに収めてこいよっ!できればインタビューを!!」
と、どこから出して来たのかしっかりビデオカメラまでっ。
こうして僕は開発部全員の好奇心を背負ってバイクに飛び乗ったのでした。
僕が教えられた箱根の某所につくと、そこには何故か先客が…。
僕と同じ様にカメラを抱えて隠れてます。
もしかして僕と同様に跡取り様情報を得た方々?!
まあ、僕もコソコソその方々の後方でカメラの準備。
そして待つ事数分…いきなり前方の建物から煙が…
なに?どうなってんの、これ?
まさか跡取り様があの中にいらしたりしませんよね?!!
と、焦る僕。
と、そのとき…
キキ~!とタイヤをきしませて建物の前に止まる車っ!
そして…跡取り様きましたっ~~~!!!
車から飛び出て来たのはイケメン達です!!
その中でも一際目を引いたのが、黒髪のくせっ毛に褐色の肌、そして緑の眼のあの方ですよっ。
最近この人の名前を騙って刺されちゃった高校生がいましたが、これは絶対に本物ですっ。
ああ、これ本物だ~って僕感動しちゃいましたもんっ。
レジェンド・オブ・イルヴィスのトーニョさんっ。
やっぱりこの人が跡取り様だったのか~と納得の僕。
続いて銀色の髪に実に珍しい紅い瞳…。
これは…もしかしてマリアさん?
ネットゲームではオンライン上のキャラの性別と実際の性別が違うなんて事はよくあることだから、これもも間違い無いだろうな~と。
女性でもクールビューティなんですけど、男性になると人好きのするトーニョさんとは別のタイプの…クール系イケメンです。
ちょっとビジュアル系バンドとか組んだら似合うかな~なんて思いました。
そして次は茶色がかった髪をした人懐っこい感じの男性。
こちらの方はちょっと僕にはわかりませんでした。
あの方々であといないのはフランさんなんですけど、どう見ても違う感じです。
一人だけリアルと似てないキャラを作ったという可能性もなきにしもあらずですが…。
最後に車から出てきたのは小柄な黒髪の男性。
こちらもすぐわかりましたっ。カオルさんです。
あのネット上でのキャラほどじゃないけど、やっぱり小柄なんですね~。
「遅かったわっ!!カオル、乗り込むでっ!!」
舌打ちをして助手席から出て来たカオルさんに声をかけると、ヒラリと身を翻して建物内へ向かうトーニョさん。
そして残ったマリアさんはもう一人の男性に
「シドニーっ!一応車で待機しとけっ!!あと消防車と警察に連絡!!」
と、指示を出し、自分も二人の後を追って燃え盛る建物の中に…。
追いかけていきたいとこなんですが、そこまではさすがに…なので、しかたなく車近くで待機する僕。
そうしてる間にもだんだん広まる炎。
大丈夫なんだろうか…といい加減不安になって来た頃、煙に包まれ始めた玄関から女性を抱きかかえたマリアさんがでていらっしゃいましたっ!
続いてトーニョさんは年配の男性を軽々抱え上げて出てきます。
イケメン達の救出劇っ!
もう本当に映画の1シーンみたいです!!
すごくカッコイイですっ!
男の僕が見ても惚れぼれしますっ!
カオルさんは一向に出て来ませんが、お二人がたまに携帯で連絡してるので、おそらく中で要救助者を探している模様。
そのうちなんとフランさん登場っ!
フランさんも本当にあのまんまですっ!
「なんでお前がここにいんだよっ?!護衛はどうしたっ?!」
と、それを見てマリアさんが言うと、
「あ~、ティモシーがついてるから大丈夫っ。
お兄さんこれをトーニョにお守りに届けろって言われて配達人なんだけど、現在」
と、フランさんは上着の内ポケットからペンダントを取り出しました。
あれって絶対にアレですよねっ!アリスさんからですよねっ!
アリスさんお留守番なのか~と少し残念でしたが、まあ勇敢そうな青年3人、間違ってもこんな危ない場所にお姫様を連れてきたりはしなさそうですよね、確かに。
トーニョさんはフランさんの手からペンダントを受け取って自分の首にかけると、
「香、スミス確保したからもうええで~。撤収や」
と、携帯に向かって話してます。
スミス氏…は誰かは知りませんが、とりあえず救助は無事終わりかと思われました…が!カオルさんが中で怪我をして動けなくなったようですっ!
マリアさんとフランさんの顔色が変わる。
おそらくもう放っておいてくれと言ってるんであろうカオルさんに助けに行くから場所を教えろとトーニョさんの携帯を奪って言うマリアさん。
炎はもうかなり建物内をまわっていて、助けになんて行ったら二次被害の可能性も充分高い。
それゆえ、おそらく場所を教えないらしいカオルさんにトーニョさんがまたマリアさんの手から携帯を奪って言いました。
「使い捨てるための部下なんぞ要らんわっ!
斬り捨てられるほど根性のない部下も要らん!
足使えなくてもはいつくばってでもすがり付く根性見せたりっ!
そしたら俺は意地でも引きずって行ったるっ!」
もう僕惚れちゃいましたっ!
本当にカッコいいですっ!!
言葉だけでなく、もうボロボロになったカーテンらしき布をを水に濡らしてかぶると、また炎の中に飛び込んでいくトーニョさん。
僕ももう夢中でした。一緒について行っちゃいましたっ!
必死に跡を追う僕に途中で気付いたトーニョさん。
「自分何してるん?さっさと逃げ?」
と出口の方を指差されます。
「僕、逃げませんっ!行けば何かお役に立てる事あると思いますっ!!」
もうなんていうか…ヒーローみたいな方々につられて自分も映画の主人公にでもなった気分でした。
一瞬迷って
「勝手にせえ!」
と、再度歩を進めるトーニョさん。
一瞬の沈黙のあと
「やばいと思ったら、自分の命優先させるんやで?」
とボソリとおっしゃいました。
もう…なんていうか…カッコいいって言葉はこの人のためにあるんじゃないかと思いましたっ!
その後どうやらトーニョさんが救出のため戻ってしまった事を知ったカオルさんは仕方なく場所を教えて来たようで、無事カオルさん発見。
カオルさんは僕とトーニョさんを見比べてポツリと
「え~っと…新しい…従者?」
と苦笑い。
なんかこんな時なのに、カオルさんらしすぎて笑っちゃいました。
その後僕に足を怪我して歩けないカオルさんを背負うように指示すると、トーニョさんはだいぶ燃えてしまって進めなくなった建物内で、時折自分が先に行って状態を確認しながら、進まれます。
しかし出口への道はもう完全に火の海になっていて、僕ここで死ぬのかなって少し覚悟を決めちゃいました。
「もう…出られそうにないですね。でも僕本望です」
思わず口にする僕に、トーニョさんは
「弱音吐くんやないっ!最後の最後まであがかなあかんっ!」
とおっしゃりながら、あたりを調べていらっしゃいます。
なんていうか…本当にこのかた高校生なんでしょうか……
本気で本当の勇者様みたいです。
「よしっ!ここやっ!!」
煙だらけの部屋で何やら壁を調べてらしたトーニョさんはそうつぶやかれると、何やら構えて大きく息を吸い込み、気合いと共に蹴りをいれられました。
バリバリっと音をたてて文字通り木っ端みじんとなる壁。
「さすが非常識代表のトーニョ。なんて非常識な脱出法…」
と僕の頭の後ろでつぶやくカオルさんに
「ん~、鍵かかってたんやけどこのキッチンの勝手口のドア木だったからな。
ま、常識の範囲内ってことでええやん。」
と、ニカっと太陽のような明るい笑顔を浮かべるトーニョさん。
先に僕達を外に出して、後から外に出ていらっしゃいました。
ひとまず息をつく僕達。
「で?自分、どこの誰?」
カオルさんを降ろしてへたり込む僕に、トーニョさんが聞いていらしたので、とりあえず開発部の新人であることと名前をお伝えすると、
「そうか。助かったわ」
と、ポンと僕の肩を叩かれました。
そして携帯を取り出して電話。
「あ~、じいちゃん?俺や。開発部のXってやつな、服とビデオカメラ弁償してやったって。ま、あと出来れば金一封な。
…ん?…カオルの…いや、俺の恩人や」
もう…感動でしたっ!
トーニョさんもマリアさんもカオルさんもカッコ良かったし、その時の経験は一生忘れられない宝物です!
なんていうか…ほんっきで自分が映画の中に入り込んだ様な、素晴らしい体験でした!
追記:翌日…我社の会長様の直々のお使いの方が、開発部の僕の元へ服&カメラ代と金一封を持って来て下さいました。
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