「アーサー、やっぱりトーニョ達追う?」
ティモシーが戻ると同時にアントーニョ達3人が出かけて1時間ほど経過。
ソファの上で膝を抱えてうずくまるアーサーをフランとティモシーはしばらく困った顔で見ていたが、耐えられなくなったのはフランの方だった。
「あの…姫様、どうしてもなら俺場所は知ってますけど…」
と、ティモシーもとうとうそう言い出すが、アーサーは頑なに首を振る。
こうして二人困った顔を見合わせてため息をついた。
「あ…でも場所知ってるなら…」
二人してどうしたものかと相談していた時、アーサーが不意に顔をあげた。
「なんです?」
と、アーサーからの反応にホッとした顔を見せるティモシー。
これ、と、アーサーが首から外したのは小さいが高価そうな十字架のペンダント。
「トーニョに届けてくれないか?
とても大事なものだから…絶対に自分で返しに来いって…」
とそれを差し出されてティモシーはちょっと困った顔をする。
「一応俺は姫様に万が一の事があったら大変だから護衛についてるんで…。
副社長が出かけてたとしても副社長の手先が何か仕掛けてきたらフランじゃ防げないっていうから…」
「あ、じゃあそれお兄さんが届けてあげるよっ。
ティモシー場所教えてよ、タクシーで向かうからっ。」
と、それでアーサーの気が少しでも晴れるならと、フランが請け負う。
こうしてフランはアーサーからペンダントを預かって、ティモシーに教わった副社長の別荘へ行った3人をタクシーで追った。
「何…これ…」
フランがついた時にはすでにすごい事になってた。
目の前で炎上する建物。
人だかり…というほどではないが、数人の大人。
なんでこの人達カメラ回してるわけ??と目をぱちくりするフランの目の前の集団の中心には若い女性。
おそらくそれが例の女性なのだろうと当たりをつけて、フランは
「千秋さんですよね?」
と、車から飛び降りるとカメラと彼女の間に割って入った。
「え?ええ。あのっ???」
初対面の人間にいきなり名前を呼ばれて戸惑う女性に、フランは持ち前の人当たりの良さを発揮して、穏やかに自分の身分と目的を告げた。
「あ…じゃああなたフランさんなのね」
と、彼女の方は生前ショウがゲームをやっていた横で見ていたらしく、その時のフランのキャラの面影を実際のフランに認めたらしい。
「このたびは…本当にご迷惑を…」
と、涙ながらに深々と頭を下げる。
「いやいや、俺は全然迷惑かけられてないから。ね、顔をあげて?」
とフランは涙のうかぶ千秋の目尻に白いハンカチを当てるとそれを彼女に握らせ、にっこり微笑んだ。
「それより…今どうなっているのか教えてもらえます?この人達は?」
フランがカメラを回している面々に目を向けて言うと、千秋は説明をする。
「私が呼んだの。どうしてもスミスがやってきた事を公にしたくて…。
あれから知り合いのつてを辿ってマスコミ関係に声かけまくって、信じてくれる所探してね…。
ようやく一社雑誌社にきてもらえて…隠しマイクを身につけてスミスに接触して、証言引き出そうとして…」
「殺されかけたり?」
フランが聞くと、千秋はうんうんと苦笑した。
「ショウが死んでから死ぬのなんて全然怖くないって思ってたんだけど…いざそうなってみると怖いものなのね」
「そこで…まだそれが怖いって思ってくれてて良かったです…」
なんだかホッとしてフランがそう言うと、千秋はまた、迷惑かけてごめんなさい、と、シャクリをあげた。
「んで…この状況は?」
そこで少し遠慮がちにフランは建物に目をやって再び質問する。
「…あ……」
千秋もそこで建物に目を向けた。
「逃げるためにライターで雑誌に火をつけたら、あちこちに燃えひろがっちゃって…」
うあああ……なんてことをっ!とびびるフラン。
「よく…無事外に出られましたね……」
一番炎の中心にいたはずだし…と思っていると、千秋はあっさりと
「ええ。もう駄目かと思ったわ。でもね、そこで銀髪に紅眼の勇者様が登場して…」
……
「悔しいけど格好良かったわ。……ショウの次に…」
脱力するフラン。
「お前ら、ざけんなっ!!手伝え!!!」
そこでまたアクション映画さながらに誰かを抱えて建物から出て来たギルベルト。
カメラを回してる人間たちに向かって叫ぶが、
「えと…俺ら取材で…そもそも火ん中入るなんて無理です」
と彼らはきっぱり。
そこでまた怒鳴りかけて、ギルはようやくフランに気付いた。
「なんでお前がここにいんだよっ?!護衛はどうしたっ?!」
「あ~、ティモシーがついてるから大丈夫っ。
お兄さんこれをトーニョにお守りに届けろって言われて配達人なんだけど、現在」
フランが上着のボタン付きの内ポケットに厳重に保管していたペンダントをちらつかせると、後ろからヒョイッと手が伸びてきてそれを取った。
「あ~、これ兄ちゃんにもろうた大切なやつやん。
フランなんかに預けたらあかんわ」
と失礼な発言をするのは、抱えていた老人をシドニーが見張っていたらしき二人の男の隣に降ろして駆け寄ってきたらしきアントーニョ。
それを自分の首にしっかりかけると、ジーンズのポケットから携帯を出した。
「香、スミス確保したからもうええで~。撤収や。」
アントーニョの言葉に
「トーニョ、ごめ~ん。俺リタイアっ」
と、電話の向こうで香の笑い声。
「ああ?」
眉をひそめるアントーニョ。
「足くじいちゃったっ。もうマジ勘弁っ」
ケラケラ笑い続ける香にアントーニョはため息。
そこでアントーニョから携帯を奪い取ったギルベルトが大きく息を吸い込んで
「ふざけんなっ!!殴りに行ってやるから場所教えろっ!!」
と電話に向かってどなりつけた。
「いや、マジ無理っ。頭無事なら世の中機能するから手足は放置でっ」
え……
その香の言葉で、ようやく事態の深刻さを理解したフラン。
ギルベルトもシドニーもとっくに顔面蒼白になっている。
アントーニョは言葉のないギルベルトからもう一度携帯を奪い返すとまたため息。
「香、自分アホちゃう?手足もげたら充分痛いわ。さっさと場所教え」
「いやまじで…」
「だ~か~ら~。あーちゃんの手足やったら勝手にもげたらあかんて言うてるやろ!
根性でぶら下がりっ」
怒鳴ってアントーニョは
「フラン!とりあえずこれそこの水道で水につけたって!」
と、かぶってた布切れをフランに投げてよこし、フランが慌ててそれを受け取って水道に走る。
どうやらひっぺがしたカーテンらしい。
「マジだめっ!俺場所なんて教えないよっ?シドニーも部下なら止めろよっ?!」
電話の向こうで香の焦る声。迷って戸惑うシドニー。
「使い捨てるための部下なんぞ要らんわっ!
斬り捨てられるほど根性のない部下も要らん!
足使えなくてもはいつくばってでもすがり付く根性見せたりっ!
そしたら俺は意地でも引きずって行ったるっ!」
「もう…嫌だなぁ、トーニョに何かある方が問題でしょうがっ。
ちゃんと考えなよっ。これだから脳筋は…シドニー、姫様に電話しちゃいなさいっ。」
香の苦笑まじりの言葉。その言葉にアントーニョは
「甘いわ。あ~ちゃんやったらこう言うで?」
と言って、そこで一瞬言葉を切る。
そして
「一緒に戻ってこなかったら針千本だぞ?」
フランとギルベルトが例の言葉を言うと笑ってうなづいた。
「んじゃ、もうひとっ走りして手足拾ってくるわっ」
アントーニョはフランからびしょびしょの布を受け取ると、それをかぶってまた炎の中に戻って行った。
「僕も行きますっ!」
何故かカメラ小僧の一人がそれに続く。
なんなんだ?
結局…一部木造だった事が幸いしたらしい…。
壁蹴破ってなんて非常識な方法ででてきた事に呆れたため息をこぼすフランとギルベルト。
たぶん先に道を切り開いて進んだのであろうアントーニョの後ろには香を背負った謎のカメラ小僧。
3人が出て来た頃ようやくパトカーやら消防車やら救急車やらが到着。
その騒ぎにまぎれるように消えていた。
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