「ギルっ!デートしねえっ?!」
電話をひっつかむとバッと立ち上がってリビングを出ていき、そのまましばらくした後、リビングにまた舞い戻った香の第一声がそれだった。
てっきりその手の冗談は苦手なので怒るか戸惑うかするかと思っていたが、ギルは
「ダブルデートか?」
とガタっと椅子を立ち上がった。
驚くフランとアーサー。
そんな中でアントーニョだけが
「いってら~。メシ要らんのやったら電話一本くらいは寄越すんやで~」
と、ヘラヘラ笑いながら手を振る。
「うんっ。できる限り夕飯までには帰って来たいとは思うんだけど…
無理な場合はTELするね~」
とそれを受けてさっさと部屋を出ようとする香に、さすがにちょっと待ったがかかる。
「二人で何企んでるんだ?シドニーとティモシーも一緒か?」
アーサーが尋ねると、香は困ったような視線をギルベルトに向け、視線を向けられたギルベルトは今度はアントーニョに視線を送る。
その視線の先をたどって、アーサーは
「…トーニョ…まさかお前まで何か隠してるのか…?」
と、目をうるませた。
動揺する香とギルベルト。
しかしアントーニョは慣れたもので
「親分なぁんも隠してへんよ~。このところずっとあ~ちゃんと一緒におったやん」
と、チュッと額にくちづけを落とす。
「じゃあ…なんでギルがお前見るんだよ?」
額を手で押さえて上目遣いに睨むアーサーの言葉にも動揺すること無く
「さあ?ギルちゃん、なんなん?」
と、シレっとギルベルトに振った。
(俺かよ……)
と、対処を振られたギルベルトは内心舌打ちする。
どう考えてもアーサーの事をより解かっているアントーニョの方が適任だと思うのだが…。
時間もないのにさあどうしよう?と思っていると、思わぬ方向から声がかかった。
「あのさ、アーサーもカミングアウトしたことだしさ、いい加減みんな秘密主義やめない?こんな時だからこそ、信用って大事だよ?」
それまで黙っていたフランが珍しく真面目な顔でそういうのに、ギルベルトは一瞬迷って、香とアントーニョに視線をやるが、どちらからも特に言葉がないので、小さく息をはきだした。
「あ~…つまりな、一昨日前のゲームで死んだエドガーの弟からメッセもらったんだけどな、どうやら副社長に騙されてるみてえだったから会って訂正するついでに、もう一人騙されてるショウの彼女だった千秋って女にも会って伝えたわけだ。
この女が今回のネトゲでイブキャラ使ってて、トーニョもどきを刺した張本人な。
で、俺らはそれ以上何かできるわけじゃねえし、でも女の方は思い込みと性格激しそうだからな、一応シドニーに様子見させてんの。
で、それとは別に副社長に何か動きあるんじゃねえかと、こっちはティモシーにみはらせてる。
で、今の電話はティモシーからで、副社長のスミスが出社せず自前の箱根の別宅に向かったって情報だったんで、念のためシドニーに千秋の方の様子も確認してみたら、同じく出かけそうな雰囲気だって言うから、俺らも向かうかと…」
あ~あ、言っちゃったという表情の香。
そこでアーサーから入って欲しくないツッコミが入った。
「それ…千秋さんて女性が危険じゃないのか?シドニーに止めさせたほうが良くないか?」
その言葉に今度こそギルベルトは眉尻を下げて視線でアントーニョに助けを求める。
「あ~でもな、あ~ちゃん、考えてみ?」
とアントーニョはアーサーの肩を抱き寄せた。
「相手が嫌や、ほっといて言うたら終わりやで?
下手に強引に出れば変質者として逮捕されて終わりや。
そしたら誰がその子守ったるん?
それやったら危なくなるまで見張っておいて、危ななったら助けに入る方が確実やろ?」
まあ…そう言われればそんな気がする。
「そっか…そうだよな…」
アーサーは納得して、そして今度は
「じゃ、俺も行く」
と言い出した。
あちゃ~と言う顔をする香とギルベルト。
アントーニョは
「あかん。あ~ちゃん熱下がったばかりやん」
と、それはきっぱり却下する。
「でも…っ!」
食い下がろうとするアーサーに、アントーニョはやはりきっぱり断言する。
「あかん。病人のあ~ちゃんおるとギルちゃんも香も気になってちゃんと動けへんやん。みんなよぉ知らん女の子よりあ~ちゃんのほうが大事なんやから」
そして困った顔をするアーサーの額に自分の額をコツンとぶつけた。
「代わりに親分が行ったるから、フランとおとなしゅう留守番しとって?
絶対にあ~ちゃんが望まん結末にはせえへんから、俺の事信じたって?」
と、にっこり言われれば、アーサーもうなづくしかない。
「ちゃんと連絡はいれろよ。」
と渋々うなづくと、
「もちろんや。俺かてあ~ちゃん残してくの心配やしな。
まだ無理したらあかんで?何かあったらあとでフランどつくからな。」
と答えるトーニョに、
「ええ?俺?俺なのぉ?!」
と自分を指差すフラン。
「当たり前やん。あ~ちゃんどつくなんて真似絶対に出来へんし。
フランなら遠慮のうどつけるから。」
「ひどいっ!ちょっとはお兄さんを愛してよっ!みんな愛が足りないよっ」
と、お約束のごとくヨヨとハンカチを出して泣き崩れる真似をするフランに、笑う香、肩をすくめるギルベルト。
アーサーももう形式美的なやりとりに苦笑する。
「ということでな、ティモシーは家に戻したって。
念のためあ~ちゃんの護衛につけたいから。
フランそういう時は役に立たへんし」
とのアントーニョの要望で、副社長に付いているティモシーが戻って香、ギルベルト、アントーニョの3人が千秋を追うシドニーと合流することになった。
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