オンラインゲーム殺人事件再びっ7章_1

「ね、千秋ちゃんについてるシドニーはとにかく、ティモシーはどこ行ったの?」

事件に関わるのは無理だから家事にいそしもうと開き直ったのか、スコーンにプティフール数種、フィンガーサンドイッチを3段のトレイにしたモノを用意して設置しながらフランが聞く。

「ああ?なんだ?茶菓子の用意の関係か?」
ギルベルトの言葉にフランは

「ううん。これはアリス専用。
熱下がったから降りてきてお茶にするって言うから。
あの子こういうの好きだしね~」
と、楽しそうにセッティングしていく。

それを見て香が
「みんな姫様の事好きなんだねぇ…」
と、しみじみとため息をついた。

「ギルが一人で泥かぶろうとすんのも、フランが料理やお菓子に丹精込めるのも、根本はトーニョが姫様かばってお守りしようとしてんのと一緒だよね。
ま、俺もギルと一緒にやってんだから他人の事言えないけどさっ」

愛だよねっ、愛っ、と、言いつつトレイのサンドイッチに伸ばした香の手は、フランにピシャっと軽くはたかれ

「同じモノ皿に用意してあるから、そっち食べて」
と、阻止される。


「まあ…トーニョに先越されてアリスがトーニョ選んじゃってから会ったから手出せないんだけどね。
もしアリスがお兄さん選んでくれるなら喜んでおっけぃしちゃうよ」

と、キッチンから普通の皿に盛りつけられたサンドイッチやプティフールを取ってきて香に差し出すフランに、香はふ~んとうなづいてそれに手を伸ばして口に放り込む。

「結局さ…俺らトーニョが側近に選んでくれたらトーニョの下につくことになるんだけどさ、実際は姫様の御旗の元、実動部隊のトーニョの下でギルと一緒に働くってイメージだよな」
と、相変わらず鋭い香にフランはぎくりとする。

「う~ん、トーニョとは同列だな。
感覚的に大まかな方向性を見出す右脳みたいなのがトーニョで論理的に動きを決めて行く左脳が俺様。
アリスは…ハート?全部の原動力」
そこで口をはさむギルベルトに、香は、ああ、なるほどね、とうなづいた。

「ようは…姫様はカリスマって事だよね。
で、その下に役割は違っても平等に3角形ね」
「そそ。俺ら3人お互いに信用はしててもそれぞれお互いの下につく気はねえよ」

「じゃ、俺らもそこにいれてもらうか~。
学校は今更行けないけど、その分皆が学校で関われない時間、会社見張ってられるし」
「だな~。じゃ、6角形か」
「いいね~。ヘキサゴン。なんか怪獣ぽくね?」
「いいじゃねえかっ。怪獣大いに結構!」

ぎゃははっと盛り上がる二人。
なんのかんの言って気が合うらしい。

とりあえず二人の分のお茶を注ぎながらも、フランは少し寂しい気持ちもぬぐえないが、今唯一の肉親を失うかもしれなくて孤独に怯えるアーサーのためにはこの賑やかさも良い事なのかもしれないと考え直す。

丁度その賑やかさにつられてか、
「なんだか楽しそうだな」
と、アーサーがアントーニョと一緒に2階から降りてきた。

「おはよう、お茶の用意出来てるけど…」
と、アーサーを席に促すフランに礼を言うと、アーサーは当たり前に椅子を引くアントーニョにも礼を言って椅子に座る。
そして、周りを見回してコクリと首を傾けた。

「シドニーとティモシーは?」
と、最終的に香に目を止めると香は

「あ~、バイトっ!俺は夏休み」
とシラっと嘘を付く。

そっか…とアーサーが目に見えて肩を落としたので、香は不思議そうに言った。


「えっと…姫様、もしかしてあいつらに用だった?」
「ああ…。3人に言っておきたい事があったんだけど…」

「いいよ~。俺ら一心同体だからっ。俺が聞けば他の二人にも伝わるし、気にせず言って?」
香が言うと、アーサーは少し迷った様子でアントーニョを振り返る。

「ええんやない?それで」
アントーニョがそう言うと、アーサーはうなづいて、再度香を振り返った。

「あの…実は…香達には言いそびれちゃったんだけど…」
きゅっと膝の上で拳を作ってうつむくアーサーに、香はあっさり
姫様が実は跡取り様だとか、そういう事?」
と、口にした。

ええっ?!!なぜそれっ?!!

アーサーとアントーニョ、フランはもちろん、ギルベルトも驚きの表情を浮かべるが、香は、あ~やっぱりそうか~と、一人納得している。

「あのさ~、すごく失礼な事聞いて良い?」
そこで香は初めて少し困った顔をした。

「あ、ああ、もちろん」

「姫様さ…どっち?もしかして男だったりする?」

ああ、そっちはバレてなかったのか…と、4人が4人とも思う。

「えとな…堪忍な~。あ~ちゃんの正体バレんようにせなあかんかったんで、俺とフランが悪乗りして女キャラに作ってもうてん。
で、その流れで香達に会うたから、なんとなく…
な。せやけど、そっちはバレてへんのに、なんであ~ちゃんが跡取りやって思ってん?」

気まずそうなアーサーに変わってアントーニョが答えを引き受けて言うと、香はあっさり言う。

「ん~、ジジイの想い人のカークランドの先代社長に激似てたから?つかマジ本人?
んで、まあ血筋はそうかな~って思って…。
性別は先代も若かりし頃は女の子みたいな顔してたし、もしかして姫様もそうなのかな~と。
で、ようは…ジジイの想いが半世紀くらい経て実った感じっつ~こと?」

香の言葉にアントーニョはローマが見せてくれたアーサーの祖父の若かりし頃の写真を思い出す。
そう言えばアーサーに瓜二つだった。

「ま、確かに似とるけど…ジジイは関係ないやろ?あ~ちゃんに会っとるわけやなし」
そう言うアントーニョに香は

「あ~、ジジイじゃなくてトーニョ。
ジジイの孫なんしょ?ジジイの昔の写真に気味悪いくらいソックリだしっ。
で、孫の代でめでたく一緒にいられるようになったのかな~と」
と、驚くべき発言をする。

「嘘やろ~?俺あんなジジイに似とらへんで」
思わず言うアントーニョ。

しかし香がスカイプで全員に送った写真を開いてみると、

「確かに…トーニョって歳を取ったらこんな感じかも…」
と、フランが、

「あ~、骨格とか顔立ちとか似てるよな、確かに」
と、ギルベルトが言う。

「トーニョ…両親ともお祖父さんて健在なのか?」

そこでアーサーが聞くと、アントーニョは携帯を手に物も言わずに立ち上がった。


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