オンラインゲーム殺人事件再びっ6章_8

「ギルっ!ホントにキャラのままなんだねっ!」

探偵なりきりの割に危機感がないのは兄弟共通らしい。

翌日呼び出しにあっさり応じて吉祥寺の駅ビル内のカフェレストランまで普通に…ギルベルトの感覚だとノコノコと出てきたのは、前回の事件で殺されたウィザードのエドガー事、芳賀耕助の弟、小五郎だ。

小柄な体躯に童顔で、さらに大きな眼鏡。
探偵と言うよりは、その助手の頭でっかちの少年か何かが似合いそうだ。

そんな内心を押し隠しながら、ギルベルトは7カ月前、事件の際に父親から見せてもらった某資料を特別に借りてこっそりコピーを取って、小五郎の前に差し出した。



「これは警察の内部資料だから、絶対に他言無用だぞ。
お前だから信用して見せてやるけどな」

と、言葉を添えると、小五郎は嬉しさを隠しきれないように大きくうなづいて、それに目を通し始めた。


事件の黒幕で、最終的に実行犯のイヴと揉めて殺された、アゾットこと早川和樹があの事件の発端から裏側まで全部書き遺した日記だ。


「…これは……」
小五郎が唸る。

「見ての通りだ。カークランドは事件に全く関与してない。
お前にカークランドの副社長が色々吹き込んだのは、遺族の恨みをカークランドの社長兄弟に向けて、社長失脚、会社乗っ取りをたくらんでいるせいだ」

「まさか…あのスミス氏が…」
小五郎は半信半疑といった感じに目を見張るが、ギルベルトはそこで、ハ~っとわざとらしくため息をついた。

「よもや“あの”エドガーの弟があんな男の猿芝居に本気でひっかかっているとは思えないが…実際にお前と同じようにデマを吹き込まれて本気にしてカークランドの弟だと思った相手を刺した馬鹿がいる」

「あ、もしかして、あの二日前の高校生が刺されたっていうニュース?!
あれやっぱりそうだったのかっ!」

僕はそうだと思ってたんだけどねっと、小五郎が慌ててそう付け加えるのにギルベルトはうなづいた。

「ああ。で、これも“お前を信用して言うんだが”これからそのベルセルクのショウの恋人だった女に会う手筈をつけたんだ」

「僕も会うよっ!」
勢い込んで言う小五郎にギルベルトは内心にやりと笑みを浮かべる。

「でもお前もカークランドがやばいと思ってるんだろ?」
と、わざと言ってやると、小五郎は

「まさかっ!僕はスミスの言う事は怪しいと思ってたんだけどねっ。
ギルの話でようやく謎が解けたよ!
幸い兄は自分に似ているキャラを作ってて、僕は兄によく似てるって言われるから兄弟だってすぐわかるだろうし、そうしたら同じ境遇だっていうのもわかってもらえると思うっ!
ぜひ協力させてくれよっ!」

と詰め寄る小五郎に、ギルベルトは

「ああ、絶対にそう言ってくれると思ってたぜ。さすが耕助の弟だよなっ」
とうなづいて見せた。



こうして小五郎に協力を求める事に成功したギルベルトは、そのまま同じ場所で待ち合わせ予定のショウの恋人、千秋と言う女性を待つ事にする。

「一応万が一お前が本当に騙されてて協力してもらえない可能性もあったんで、呼び出すときに女性名、表向きはただの被害者になっているアゾットこと早川和樹の姉の名前を使ったんで、まず相手に信じて話を聞いてもらうとこから始めないとならないんだ。
でもカークランド側の俺の話じゃ聞いてもらえねえと思うから、悪いんだがお前が梓を呼び出したって形を取ってもらえるか?
呼び出すのに女性名を使ったのは、自分の顔を見てもらえば兄のキャラとそっくりだから信じてもらえるとは思ったが、男性名だと見る以前に来てもらえないと思ったからってことで」

重要な役だが頼めるか?ときくギルベルトに小五郎は真面目な顔をしようとしつつも嬉しさを隠しきれない様子で大きくうなづいた。


こうして待つ事1時間。
待ち合わせ時間のちょうど10分前に千秋らしき女性が現れた。

身長160cm、髪はセミロング、白いシャツにジーンズ、手には指定されたPCの雑誌を持っている。

「じゃ、頼んだぞ」
と、とりあえず前回の事件の時に自分とアントーニョが連絡を取り合う時に使ったように、小五郎の携帯と自分の携帯を通話状態にした状態であちらの話が聞こえるようにして、小五郎をまず一人で行かせる。


「あの…失礼ですが…僕、8か月前に兄を亡くした芳賀小五郎と言います。
兄は自分に似たキャラを作っていて僕たち兄弟はよく似てるって言われるんで、顔見れば納得して頂けると思うんですが…」

いきなりそんな風に始める小五郎に千秋は目を丸くするが、どうやら小五郎の小柄さや童顔が警戒心を薄める役割を果たしてくれたらしい。

「あの…もしかして私を呼び出したのって…」

と、千秋の方から切り出すのに、小五郎は
「はい。僕です。
ごめんなさい。どうしてもお話したい事があったんですが、男の名前だと来て頂けないと思って…。
でもホントに重要なお話で、あの事件の遺族皆に知っておいて欲しかったんですっ。
嘘ついて本当にごめんなさいっ!」
と、ペコリと頭をさげた。

生きていれば高校3年生になるエドガーの弟と言う事は…まだ高校になりたてくらいだろう。
その幼さのおかげで千秋はあっさり信じてくれたようだ。

「とりあえずはお話聞かせて頂けますか?」
と、小五郎に席を進めた。

その後は小五郎はギルベルトが預けていたアゾットの日記をそのまま千秋に差し出す。

「これは…早川梓さんの弟さん、ゲーム内でアゾットというキャラを使ってた早川和樹さんの日記のコピーです」

千秋は
「…拝見します…」
と、その日記を受け取って黙って目を通し始めた。

「…これは……」

読み進めていくうち顔色が変わって行く。
最終的に全部に目を通して冊子を閉じた千秋に、小五郎は

「これが真実です」
と言った。

「たぶん…千秋さんがスミスから聞かされた話と違ってて驚かれてるんだと思いますが…」

小五郎の言葉に千秋は本当に驚いた様に

「どうしてスミスさんの事を?」
と小五郎を見た。

そこで小五郎は
「僕にも同じデマを流しましたからね、彼は」
と眼鏡に手をやり、まあ僕は怪しいと思って疑ってたんですが…とにやりと笑みを浮かべる。

こいつノリノリだなぁ…と、ギルベルトは少し離れた席でそのやりとりを携帯からイヤホンで聞きつつも、生温かい目で見守った。

その後小五郎はギルベルトが説明したように何故スミスがデマを流したかを千秋に説明して

「信じてもらえるかどうかわからないけど…本当にこれが僕の知りうる限りの真実です。
正義のために亡くなった兄に誓って本当の事です

と、これはドヤ顔ではなく、しごく真面目な顔でそうしめくくった。

そんな小五郎の言葉に千秋はいきなり笑い出した。
そして手で顔を覆う。

「何…やってたんでしょうね…私…」
指の間から涙がこぼれ落ちた。

「信じて…もらえるんですか?」

8か月間信じ続けた事と正反対の事をあっさり肯定するような千秋の言葉に小五郎が聞くと

「信じるしか…ないでしょう?
証拠も状況も…本当にその通りなんですもの…」
と千秋はつぶやいた。

「刺したのが私ってわかってるなら、なおさら小五郎君には危険を犯してまで私に会いにくる理由なんてないでしょうし…」
そこまで言って少し間を置き、千秋は小さくつぶやく。

「このままスミスと接触持ってると千秋さん下手すると口封じにスミスに殺されるかもってとても心配してます。その意味でも自首して下さい」

少し千秋が落ち着いて来たところで小五郎が言うと、千秋は
「ありがとう」

と少し微笑んだ。


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