「もう…なんなのよ、この人達。二人揃って悪人面して…」
目と目で通じあっているっぽぃギルベルトと香を遠目で見ながら、フランシスは肩を落とした。
トーニョに言うべきか言わないべきか…フランは悩んで結局お茶を淹れなおすと言ってカップを回収すると、キッチンへ。
ケトルを火にかけ、お湯をわかしながら、こっそりリビングの様子を伺うが、どうやら皆明日の計画について話し合っていてこちらには全く注意をむけていなさそうだ。
そこでフランはこっそりジーンズの後ろポケットから携帯を取り出すと、短縮を押した。
しかし、
『あ~、なんか食欲出そうなモンでも出来た?でも悪いなぁ、あーちゃん寝てもうてん。明日まで持つ?』
と、携帯に出たアントーニョの第一声で、フランはがっくり力が抜ける。
まあ…今は確かにアントーニョの優先順位はアーサーなのはしかたないのか、と、気を取り直して、フランは
「そうじゃなくて…実は話しておきたい事が…」
と切り出すが、それをアントーニョはいきなり
「あ~ええわ。聞かんとくわ」
と、遮る。
へ?と思わず間抜けな言葉を返すフランにアントーニョは
「ギルちゃんにはギルちゃんの考え方あるんやろし、それ俺が聞いてもうたら、あーちゃんも知っとる事になるから。
俺までは別にええねんけど、あーちゃんに関しては、いざとなったら知らんかったで通せる方が色々都合ええ事もあるやろしな。
御旗は綺麗にしとかなあかんやろ。
ギルちゃんはその辺も考えて、いざという時に自分と香で泥かぶるつもりで行動しとるんやと思うで?
せやから聞かんとくし、言わんといて」
なんなんだろう、これは…と、フランは呆然とする。
なんで全員何かわかりあっているの?なに?わからないお兄さんがおかしいの?
というか…KYなトーニョまでわかる事がお兄さんにわからないって何??
切れた携帯を手に呆然としていたフランはケトルにお湯が沸いたピーピーと言う音で我に返った。
なんとなく…なんとなくだが少し寂しい。
今まで数々のと言って良い数の事件に巻き込まれてきたが、ここまでお互い干渉し合わない別行動は初めてかもしれない。
…というか…自分だけ一人な気がする。
そんな疎外感にさいなまれながらフランがカップを洗っていると、ポケットに戻した携帯が振動した。
「はい?」
と何も考えずに出ると、フラン?と少しかすれた声で名を呼ばれた。
その声にフランはなんだかホッとして
「なあに?起きたの?何か食べられそうなモノある?何でも作ったげるよ?」
と、なるべく柔らかい声で聞くと、電話の向こうでアーサーが
『………プリン…』
と、消え入りそうな声で言った。
「プリン?」
フランが聞き返すと、電話の向こうで
『ごめんっ…こんな皆大変な時に…やっぱりいいっ…』
と慌てた声。
それにフランの方も慌てた声で言う。
「ああ、違うのっ。ごめんねっ。声小さかったから聞き返しただけなの。
うん…なんていうか…作らせて?
お兄さん今ちょっとへこんでてさ…アーサーにリクエストもらえて嬉しいよ?
待っててねっ、とびきり美味しいの作って持っていくからっ」
なんだかホッとして泣きそうだった。
『フラン…大丈夫か?何かあったのか?』
と、電話の向こうで心配そうな声がするのに、少し心が癒された。
「うん、大丈夫。みんな忙しくてお兄さん寂しいな~って思ってただけだから。
ほら、お兄さん荒事苦手だからさ、出来る事なくて…」
『そんなことないぞっ。フランが家の事やってくれるからみんな安心してそれぞれやるべき事できるんだし…。
この前フランが作ってくれた出来たての熱いプリンホント美味しかったからっ…』
「うん、ありがと。すぐ作って行くから待っててね」
電話を切った時には沈んだ気持ちは浮上していた。
ああ…こんなんだから諦めきれないんだよねぇ…。
アーサーの方は無意識なんだろうが、非常にタイミングよく自分が必要とされているという旨を伝えてくれる。
そして…それが社交辞令とかではなく本当にそう思っている事なのだとわかってしまうのがアーサーなのだ。
美味しいの作っちゃいますかっ。
フランは鼻歌交じりで冷蔵庫から卵と牛乳を取りだすと、ボールを出して材料を放り込んだ。
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