「あ~ちゃん、どないしたん?!」
アントーニョが部屋に戻るとアーサーはすでに起きてベッドの上にぺたりと座り込んで泣いていた。
「俺…面倒くさいだろ。嫌になったんなら…別に離れてもいいぞ。
女じゃねえんだから…手出したからって責任取る必要なんてないんだし…」
と、かすれた声で言う。
そんな言葉とは裏腹に顔からは血の気が引いていて、室温は適温に保たれているはずなのにひどく震えている。
アントーニョは自分もベッドに座りこむとそんなアーサーを
「寒いん?震えてるやん。」
と抱きしめて片手でブランケットを引き寄せると震える身体を包み込んだ。
「熱は…ないなぁ」
と、こつんと額を当てると、それまでされるがままになっていたアーサーがそこで初めて
「構うなよ」
とアントーニョを押しのけようとしたが、力ではアントーニョには敵わずかえって強く抱き寄せられる。
「暴れんといてや。話さなあかんことあるし…」
とのアントーニョの言葉にアーサーは一瞬ビクっとして次に
「放せ!聞きたくないっ!黙って出てけっ!」
と更に暴れるが、しっかり抱き寄せるアントーニョの腕はびくともしない。
かえって
「あ~、もうしゃあないなぁ」
と、後ろへと押し倒され、ボスン!とベッドのスプリングへ沈められた。
これまで何度も繰り返されてきたアーサーの後ろ向きな誤解による落ち込み。
もともとが悲観的な性格なところに、最初の事件で唯一の友人だと思っていた人間が実は自分を陥れようとしていたと知って、かなりトラウマになっている。
それを払拭するがごとく、元々かなりストレートなアントーニョは常にも増してストレートに愛情を伝えてきて、最近はだいぶそこまで落ち込む事も少なくなっていたが、自分が一人になるかもしれないと非常に不安だったところに、目が覚めたら一人だったということがかなり堪えたらしい。
こうなると少し落ち着いてもらわないと話にならない。
「ちょお話したい言うてるやん。黙っとこか」
と、アントーニョはそのままつぶさない程度に少し体重をかけてアーサーを押さえこむと、深く口づけを交わす。
「んん~っ!!!」
押しのけようとするアーサーの両手を片手でつかんで頭の上で拘束し、もう片方の手で逃れようとするアーサーの頭を拘束した。
そのまま舌を差し入れて深い口づけを続け、やがてどちらのモノともわからない、飲み込み損ねた唾液がアーサーの口の端から伝う頃になると、すっかり力が抜け落ちたのか、いつのまにかアーサーの抵抗がやんだので、アントーニョはゆっくりとアーサーの手と頭を拘束していた手を放して、その代わりにアーサーの金色の髪を優しく梳いた。
「言うたやん。あーちゃんが嫌やって言うてももう放したらへんて。
あんな、さっきあーちゃんの兄ちゃんにあーちゃんとの仲認めて下さいって言うてきてん。
でな、ちゃんと許可もろうてきたんや。せやから今日からずぅっと一緒やで?
家ではもちろん、学校もローマ爺のコネであーちゃんとこに転校させてもらえる事になったから一緒や」
「一緒……」
思わぬ言葉にアーサーは驚いて目を見開いた。
「そ、一緒やで。ずっと一緒に生きて行くんや。もう誰にも邪魔させへん」
アーサーの少し吊り目がちの大きな瞳の端からつ~っと涙がこぼれおちるのを、アントーニョは少し目を細めて笑うと、ちゅっと唇を寄せて吸い取る。
「…っ…おれっ…目っ覚めたら、トーニョいなくてっ…に…さんいなくなってっ…俺にトーニョしかいなくなるからっ…面倒になったかと思ってっ…」
ヒックヒックしゃくりをあげながらそう訴えるアーサーにアントーニョは苦笑する。
「んなわけないやん。それも前に言うたやろ?
あーちゃんが完全に俺だけのモンになるんやったら大歓迎やって。
俺はあーちゃんが思ってるよりずっと独占欲強い男なんやで?」
コツンと額と額を押しあててそう言ったあと、アントーニョはさらに
「これからもずっと俺だけのあーちゃんでおってな」
と、続けて軽く触れるだけの口づけをおとした。
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