感傷的になるなんてガラにもねえけどなっと、ローマは頭を掻いた。
「まあでもお前は腹決めたんなら、お前の思う通りにやれ。
ただ…たぶんな、あいつに似てるとしたら、人一倍寂しがり屋だからな。
それだけは覚えておいてやれ」
せやからできるだけ一緒におれるようにあーちゃんの兄ちゃんに認めて欲しいねん。
今でも可能な限り一緒におれるように月の半分くらいはあーちゃん家泊まっとるんやけど、できればず~っと一緒におれたらなぁと。
もしあかん言われても高校卒業したら一緒に住むつもりやけどな。
去年の事件のゲームの時にもろうた賞金、そうなった時の家賃のために使わんと取ってあるな」
「そこまで考えてんのか、お前」
目を丸くするローマにアントーニョは、当たり前やんと答える。
「別にあーちゃん自身は贅沢とかもせえへんし、俺も普通に家事もできるから、あかん言われたらそれはそれで最低限の生活費くらいはなんとかするけど、たった一人の兄ちゃんともめたら、あーちゃん可哀想やん。
援助一切せえへんて言われたらなんとかあーちゃんと二人で生活してくし、仕事手伝われへんならあかん言われたら、死に物狂いで勉強して手伝えるくらいの知識は身につけるさかいな、俺に嫌み言おうが、俺だけの時に『認めへんわ、このドアホ』って言おうがかまへんのやけど、あーちゃんにそれ言わんといて欲しいねん」
「…それで自分だけで先に許可取りにきたってわけか」
「普通反対されるやろ?
そんなゴタゴタあーちゃんに見せて心細い思いさせたくないわ。
あの子めっちゃ神経繊細にできとるんや。
あーちゃんの兄ちゃんかて怒ってどなって嫌みの10や20言って…それでもどうにもならん思うたら、結局渋々でも諦めるしかないやん?
結果同じならその経過をあーちゃんに見せるのは嫌やねん」
「骨の一本やそこら折られるかもしれねえぞ?」
「せやったら余計やわ。
あーちゃん見てへんかったら、普通にでかけて転んで折った言えるやん」
「…引く気はねえんだな」
最終的にローマはそう言うと、今度は懐から一枚の写真を出してアントーニョに渡した。
「スコット・カークランド。30歳。
幼稚舎から高校まで海陽学園。その後東大経済学部に進学と同時に祖父の会社で修業を始め、卒業後、そのままその会社に入社。
3年前に祖父個オリビエ・カークランドの他界によって、若干27歳でカークランド財閥社長の地位につく…と、まあ超エリートだ。
18歳の時に両親が事故で他界。すでに大学生と会社員の二足のわらじをはいていたため、当時5歳の弟の世話は使用人に任せざるをえなかったが、その身辺にはかなり心を砕いていた。
アーサーにとって奴が唯一の肉親なら、奴にとってもアーサーが唯一の肉親、最愛の弟だ」
手ごわいと思えよ?と言うローマの横でアントーニョは写真を凝視する。
「なあ…あーちゃんの兄ちゃん、結構容態良くないん?」
写真からようやく目を放してアントーニョはローマに視線を向けた。
「あ~…そうだなぁ。手術の成功する確率は5分。
それでも無理すると再発する可能性あるから、社長業みてえなハードな仕事に復帰は無理だな。
ま、個人資産だけでも普通に暮らしていけるから、今後はもう少し軽い仕事につくか趣味にいそしむかになるな。
まあ…十代後半から三十になるまで人の倍働いてきたからな、少し早い引退だと思えばいいんじゃねえかと思うんだが…」
「ふ~ん。兄ちゃんはあーちゃんが会社継いで欲しいて思うてるん?」
「だから今こうなってんだろ?」
「もし…他にあーちゃんが普通に幸せに暮らしていける選択あったとしても?」
「あ~そういう話はしてねえけど…アーサーは継ぎたくねえって言ってるのか?」
「いや、おっちゃんが送りこんどる香から兄ちゃんが病気やって聞いた時点であーちゃんそれどころじゃなくなってしもてん。
せやからとりあえず寝かしつけたった後に、即おっちゃんのとこ電話して、とりあえず兄ちゃんに万が一があってもあーちゃんを一人にせえへんでええようになっとるでって手筈ちゃんと整えとるからって言うてやりとうて、お願いしたんや」
「あ~、香たどりついてたかぁ…」
そこで初めてローマは知ったようだ。
「知らんかったん?てっきり見張っとるかと思うててんけど…」
とアントーニョが言うと、ローマは少し眉をしかめた。
「俺が見張ってると言う事は、逆に副社長のスミスにばれる可能性も高くなるって事だからな。あっちの配下は見張ってるが、香達は放置してた」
「あ~…確かにホンマはあちらさんも勝負ちゃんとする気あらへんもんな」
「なんだ、気付いてたのか。」
意外そうな顔でローマは片方の眉をあげる。
「そりゃ気付くわ。
幸いあちらさんがカークランドの跡取りを殺させようとしとる副社長達と直接の関わりのない第三者は、あーちゃんやなくて俺が跡取りやと思うとるから。
これ香達にも言うてへんし、おっちゃんも秘密にしたってな」
「香達も…気付いてねえのか」
あいつ頭はいいはずなんだけどなぁと首をひねるローマにアントーニョは暴露する。
「えとな、ゲームやる時にあーちゃんの正体バレんようにって事やったから女キャラ作ってアリスって名前にしたんやけど、顔はあーちゃん似に作ったから、香達あーちゃんの事ホンマにアリスっていう女の子やって思うてんねん。
みんなにそれで通しとるから、あーちゃんの事ほんま知っとるんは、兄ちゃんとおっちゃんくらいやな。
今カークランド家におるのは香達正体不明の男3人とフランシス、ギルベルト、アントーニョ、それにアリスっていう女の子ってわけや」
「…もしかして…それ見こして香達を家にいれてんのか?」
「あ~信用はしとるし誰でもええわけやないで?
まあ…知らん奴らの目が、跡取りが俺やないって気付いた時にその正体不明の3人に行けばええな~って思うてるんは否定せえへんけど。
香達かてホンマもんの跡取りがいなくなるんやったら、身代りにされても本望ちゃう?」
「まあそれはそうなんだが…お前がそういう画策するタイプだとは思わなかったから驚いた。
どっちかっていうと直情型っつ~か、策めぐらしたり罠はったりとかしねえで正面から向かっていく奴だった気がしてたから…」
4年前…孫ロヴィーノを助けた時の事を思い起こして言うローマに、アントーニョは強い視線をむけた。
「絶対に守らなあかんもんがある時は手段なんて構ってられへん。
何を捨てても何を犠牲にしても誰を敵に回してもあーちゃんの事は守ったるって決めたんや。
おっちゃんかてあーちゃんに危害加えるてわかったら容赦せえへんで」
「お~、怖いな。それは気をつけねえとな」
ローマがおどけてそう言った時、豪邸の門をくぐった車が、ス~ッとその玄関先に止まった。
「つきました。お降り下さい」
と、運転手がドアを開け、アントーニョとローマが降りると、また車は走り去っていく。
「さ、ついたぞ。覚悟決めろよ?」
ローマに促されたアントーニョは、屋敷の中へと一歩足を踏みいれた。
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