オンラインゲーム殺人事件再びっ2章_6

陰謀


今日は内輪話も多くなるからとトーニョ、フラン、ギル、アーサー、カオルで野良補充なしでの5人PT。

それでも相変わらず全開なカオルと、そのカオルにタゲを奪われない様に火力重視装備らしいトーニョ、そして絶妙のタイミングで敵を釣ってくるギル、もといマリアのおかげで普通の野良パーティよりは遥かに稼げている気がする。


『そいえばさ、今日の開発通信みた?』
景気良く攻撃魔法をぶっ放しながらカオルが口を開いた。

『ここ数日公式どころやなかったわ。』
と、トーニョのもっともな答え。

開発通信というのは公式HPの1コーナーで文字通りこのゲームの開発チームからのお知らせとか雑談とか諸々が乗っているのだ。

『あ~そうだよね。でもさ、今日面白かったよw』

『何が?』

タゲ維持に必死で余裕なくなってきてるらしく、普段口数が多いトーニョにしては珍しく、返答が短い。

まあ…ぶっちゃけあれだけヘイト稼ぐ間もなくガンガン攻撃魔法ぶちかます魔導師がいて敵のタゲ維持するのは並大抵の苦労じゃない。
撃つ方は気楽なのだが…。

『なんとね、ここの運営チームの会社の大手取引先の跡取り様もこのゲームやってんだってよww』

カオルの言葉にフランは飲んでいたミネラルウォータを吹き出した。

トーニョもゲーム内では下手に反応できずに無言を通しているが、リアルで
運営、何考えとんねんっ!
と叫んでいる。

『そうなのか?どんな奴だって?』
そこでマリアが今タゲ維持でテンパッてるトーニョの代わりに聞く。

カオルは意外に勘がいいので、ホントにうかつに反応できない。

『それがさ、開発陣もあったことないらしいんだけど、頭良くて運動神経良くて名門高校の生徒会長やってるような超出来過ぎな…なんと高校生らしいっ。』

そこまでリアルが漏れている事に青くなるアーサー。

万が一…こんな少女キャラを使って遊んでいる事がリアル周りに漏れたとしたら……


「大丈夫、いざとなったらキャラ変わったるから、あーちゃんはなんも心配せんでええで」
と、それに気付いたアントーニョが声をかけるのに、泣きそうな顔をむける。

「大丈夫、ばらさへんかったらええねん。そない泣きそうな顔せんでもええから」
と、アントーニョはちゅっと軽くアーサーに口づけた。

そんな会話を交わしている間にもカオルのおしゃべりは続く。

『んで、俺さ、それ聞いてもしかしてトーニョ?って思ったんだけどっ(^o^)』

『なんでやねん』

どうやらよもやその跡取り様が少女キャラを使っているという発想はなかったらしいカオルに心底ほっとしながら言うアントーニョ。

『だってさ、こんだけ基本能力無視して色々工夫してタゲ維持する盾なんていなくね?
発想自体が違うしっ』

というカオルに、ザン!と対峙する敵を斬り捨てて、トーニョの一言。

『俺がそんな権限ある立場なら間違いなくどこぞの特攻野郎の魔法のリキャスト倍にしてるわっ

『あははっ、でも余裕でタゲ維持してんじゃんwもっとリキャ短くてもおっけぃっぽいくね?w』

『ざけんなやっ!自分はポンポン魔法撃つ合間に雑談できるほど余裕かもしれへんけど、こっちは必死やっ!』

と、アントーニョはさりげなく話題をそらすのに成功しているようだ。


カオルも本気で追求したいわけでもなくて、単なる雑談だったらしく

『いやいや、マジそのくらいすごいってっ。
俺さ、このゲームでタゲ動かさない盾って初めてみたよ?w
それだけじゃなくて被ダメ最小限に抑えてるっぽいしさっ。
あれっしょ、その時のヘイトの乗り具合ですごぃマメに装備かえてるっしょ。
被ダメが本気でヘイト稼いでるぽい時と通常時ですげえ違うし。
俺これだけ上手い奴って会った事ないよ?w』

と、話を綺麗にそらされてくれるが、そこまで細かく見てるカオルに少し警戒を強める一同。



しかしそこで
『そそ、あと同じく公式のイベント情報でさ、面白いイベントあったよw』
『へ~、どんな?』
と、話題が移ってホッとしたマリアがまたそれに反応する。

『ユーザー投票でさ、あなたが選ぶベスト○○みたいなやつw』

『ほ~~』

『覚えてる限りでは…盾、アタッカー、…ヒーローなんてのもあったな』

『命知らずの特攻野郎って項目あったら間違いなく1位取れるやん、カオル』
そこでトーニョがつっこみをいれると、

『うわあ♪そんなに褒められると照れちゃうなっ(^o^)』
とカオル。

もちろんそれにも
褒めてへんわぁ~っ!!!
とトーニョがつっこむのはお約束。



カオルがいるとトーニョと共に漫才コンビのようなノリになってパーティ自体が明るい雰囲気になる。

勘の良さに警戒はしなければならないのだが、なんとなく憎めず、また遠ざけられないのはそのへんの理由だ。


そして0時。
4人はたいていその時間にはログアウトしてて、その日も0時落ち。
結局ベンのウィスも来ず、なかなか平和に終わったのだった。



その後アントーニョとアーサーは一緒に公式HPをのぞいてみる。

まずは開発通信をクリック。

カオルが言ってた記事は新人が自分視点で開発部や今回のゲームの様子について語っているブログみたいな物だ。

その中で先輩の雑談として跡取り様の話が出て来てる。

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** 新人Xの開発部日記 **

それは昨日の出来事である。ユーザー情報の管理をしているA先輩がボ~っと画面を見ながら
「跡取り様、どの人かなぁ…」
とつぶやいた。

跡取り様?なんなんだ?

僕が不思議に思って聞くと、隣のベテランB先輩が
「なんだ、お前知らんのか?あ~新人だもんな」
納得したようにうなづく。

その言葉に狭い室内の数人の先輩達がよってきて、その謎の人物について説明してくれた。

これは開発部では公認の秘密とのことだが、どうやらうちのゲームをうちの会社の大手取引先の跡取り様がプレイなさってるらしい。

「ということは…特別仕様のキャラだったりするんですねっ。」
と言う僕に呆れた目を向ける先輩達。

「お前な、特別仕様のキャラなんか作ってたら俺らにわからんわけなかろうがっ。」

はい、お説ごもっともでございます。

そして、お前は余計な突っ込み入れずに黙って聞いとれ、と、みんなにこづかれながらかしこまる僕。

「他と全く同じ条件で普通のプレイヤーとしてプレイなさってるらしいぞ。
清廉潔白を絵に描いたような方で、特別扱いなんかした日にはキャラデリしかねないからソッとしておいてやってくれと、会長様直々のご命令らしい。」

「そもそも頭脳明晰にして容姿端麗、運動神経も並みじゃないと言うスーパー高校生らしいから、特別扱いするまでもないらしい」 

「昨年の高校生連続殺人の犯人を素手で取り押さえたスーパーヒーローらしいぞ」

などなど、知らなかったのは俺だけかというくらい、色々な逸話の出てくる跡取り様。


なかにはあまりに出来すぎてて本当にそれ高校生かよ?というような逸話もちらほら。

そのくせ本社の方々ですらその姿を拝見した事のある人がほぼいないと言う、謎の人物…。

ほとんどイルヴィス王国内都市伝説と言った感じだが、もし実在の人物ならぜひお会いしてみたいものだ…。

プレイヤーの皆さん、もしかしたら今あなたのパーティにいる人が実は跡取り様の世を忍ぶ仮の姿かも?
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「なんやギルちゃんと混同されてんなぁ…」
アントーニョの言葉にアーサーがうなづいた。

「まあ…混同されてた方が正体ばれにくいやろから好都合やし、そもそも開発にもほんま正確なところは伝わってへんてことわかったから、一安心やな」
と、アントーニョが笑顔でアーサーの頭をなでる。

「ま、もうひとつの方見てみよか。」
ホッとしたところでアントーニョがそう言いつつイベント情報をクリックした。



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☆☆ 第一回あなたが選ぶベスト○○コンテスト ☆☆

レジェンド・オブ・イルヴィスをプレイ中の皆様、お待たせしましたっ。
予告通りユーザー参加型イベント第一弾、あなたが選ぶベスト○○コンテストを実施いたしますっ!

みんなでパーティーを組んでいた時、「あの人上手いな」「あの人可愛いな」そんな事を思ったことはありませんか?

そんなあなたの熱い思いを票にしてぶつけて下さい!

参加方法は簡単ですっ。

投票したい項目をクリックし、投票したい相手のキャラ名とジョブ、そのキャラについて思う事を明記して、投票ボタンをクリックするだけです!
※同じキャラによる同一項目の複数投票は不可とさせて頂きます。

投票実施期間3/22~3/24 結果発表 3/25
下の各項目をいますぐクリック☆

○ ベストオブヒーロー:
おお~この人って勇者っぽい!カッコいい!そんな男キャラがいたら即投票!
○ ベストオブヒロイン:
あなたの萌えキャラを教えて下さい!可愛い綺麗そんな女の子にぜひ投票しましょう。
○ ベストオブ盾キャラ:
この人がいれば魔王の攻撃も跳ね返してくれるに違いない!そんな盾役に出会ったあなたは迷わずクリック!
○ ベストオブアタッカー:
一騎当千!イルヴィスの闇を振り払えるその一撃!そんな一撃を持ったキャラにぜひ一票
○ ベストオブヒーラー:
この人に癒されたい!乾ききった身も心も癒してくれるその人を教えて下さい。

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「面白そうな企画ではあるな」
アーサーが目を輝かせた。

確かに自分がたまたま入った野良PTとかに有名人とか、結構楽しい気がする。
面白いプレイヤーのキャラクター性はMMOの醍醐味ではあるし。

「自分がさ、物語の登場人物やアイドルとかと行動する感じだよなっ」

アーサーが言うと、

「ん~、俺はあーちゃんおればもう他はアイドルもヒロインもいらんわ」

と、アントーニョは興味なさげに言うと、アーサーの手からマウスを取り上げ、ノートPCのふたをパタンと閉じた。


どんなアイドルもヒロインも、この目の前の恋人の可愛らしさに勝るものはないと断言できる。
あとは自分がその可愛らしい恋人にふさわしい人間になるだけだ。

それがなかなか難しいわけだが……。



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