オンラインゲーム殺人事件再びっ2章_5

ストーカーパニック


最近アーサーのキャラ、アリスにはいつもトーニョがついていて、まあそれだけならいつもの事なのだが、何故かそこにしばしばカオルが加わっているのが不思議だ。


(ね、最近やけに3人一緒にいない?)
と、フランはこそりとギルベルトに振ってみるが

(あ~、そうなのか?トーニョが奴の事を気にいってたみたいだし、それでじゃね?
今次のミッションの下見中だからまたな~)
と、軽く流される。

確かに紹介したのは自分なのだが、なんとなく面白くないフラン。

取り残されてる感になんとなく野良パーティに入る気もせず、仕方なしに街を歩いていると、

「よ、フランじゃん。そっち大変だな」
といきなり声をかけられた。


「あ、シドニー」
ボ~っとしていたので目の前にいるのにも気づかなかった。

「今日は…一人なんだね」

フランが言うと、シドニーからいきなりパーティの誘い。
受けてみるとティモシーの名前も表示される。

『お~、フラン。この前ぶりっ!まいどっ!』
『やほっ。今日は二人なんだ?』

たぶん離れた所にいるんだろう、姿は見えないティモシー。

フランの言葉に
『正確には…最近は、だなw』
と、言う。


あ~確かに最近カオルはトーニョ達と一緒だもんねぇ…と、

『ごめんね…俺がうちのギルメンと引き合わせちゃったからだね…』

おそらく自分と同じ疎外感を感じているであろうと、相変わらずフレンドリーな雰囲気の二人に思わず謝ると、シドニーが商店街の方にフランをうながした。

そのまま合成屋に入って行くと、ティモシーがいる。

『この前のPTで拾ったもんプラス栽培の収穫で合成してもらったんよ。
なんだか支援魔法の効果UPとからしいからフランにやる~』

言ってティモシーがトレードしてくれたのはエンチャンタ専用装備。
今つけてるのより数段性能が上だ。


『ありがと~』
素直に礼を言って受け取っておく。

良い奴らだよな~と、普段の悪友の扱いが冷たいだけに、しみじみ思う。

『いやいや、迷惑料の前払い?ww』

ニカっと笑うティモシーの頭をペチコンとはたいて

『前払いちゃうだろっ!すでに迷惑かけとるわっ!』
とシドニーが突っ込みをいれた。

相変わらずな二人…。
だがそこでふとわき起こる疑問。

もしかして…本題はそっちか?

『迷惑って?』
フランが聞き返すとまずシドニーが口を開く。

『ベンの事。そっちすごい騒ぎになってるんだってな。迷惑かけてすまん』

『あ~…この前のカオルとベンいれたパーティ?』

『んにゃ、その後も』
『その後?』

フランが不思議に思って二人を見上げると、二人は顔を見合わせた。
ティモシーが口を開く。

『えっと…今それでカオルがそっち行ってると思うんだけど…』

へ?

『なんだか…姫様本当にリアル若い女の子なんだって?
んで、ベンが舞い上がっちゃって追っかけ回してて姫様にしつこくウィス送ったり姫彼に嫌がらせウィス送ったりしてるんで、カオルが焦ってて…』

ええ??

『ベン、がきんちょだからなぁ。
姫様お守りプレイはあくまでプレイっていう感覚がなかったみたいで…』

シドニーがそう付け足してポリポリ頭をかく。
色々突っ込みたい…突っ込みたいわけだが…

『アリスが若い女の子なんて発言いつしたっけ?』

まずはそこからだ。

少なくとも自分はそこまで言った記憶はないのだが…そう思ってると、

『トーニョとリアル恋人同士って言ってたじゃん?』
と、シドニー。

『で、トーニョが恋人守るのは当然~とかも言ってたし、あれ男女逆って事ねえよな?
なんか姫様って使ってるキャラだけじゃなくて雰囲気も可愛いしさ。』

『あ~うん。リアルでも可愛いよ。
あのキャラはそもそもトーニョがアリスに似せて作ってるしね。
お兄さんも実は狙ってるモン』

と、思わずうなづきかけて、フランはハッとする。
そして…自己突っ込みを入れる前に、シドニーのため息混じりの突っ込みが入る。

『フラン…それ間違っても他に言うなよ?姫様のstkrこれ以上増やしたくなければな…』
『うん。うっかりしてました。マジこれ秘密ね。お兄さんトーニョに殺されるかも…』

色々な意味で青くなるフラン。

『了解、了解』
にひひっと笑うシドニー。

『でもマジ姫様美少女なんだ~。あのキャラに似てるってかなりレベル高くね?』

『彼氏必死になるのわかるね~。でもそれベンにばれないようにしないとね』
と、ティモシーがうなづきつつ言うのに、フランもぶんぶん首を縦に振った。


まずアーサーの容姿が可愛いって事が知れた時点でstkr増やすな的な意味でアントーニョに、アリスの容姿に似てると知れた時点で正体ばれるようなリアルに抵触するような事しやがって的な意味合いでギルベルトに殺される気がする…。

そして…自分の容姿の女装姿だと言う事を晒しやがって的な意味合いでアーサーに泣かれて、アーサーを泣かした事でアントーニョとギルベルト二人からふるぼっこだ。

とりあえず…紹介してしまったのは自分なので半分は自分の責任だが、半分は恋人発言をしたアントーニョの責任だよね…と、フランは思う。

普通どう見ても男のトーニョの恋人=若い女の子と思われてもしかたがない。
まあ…そう思われている間はアーサーの身元はばれないという利点はあるのだが…。


とりあえず…事情を聞いてみるか…と、フランはゲームの時間が終わってPCを落とすと、部屋を出た。

そしてアーサーとアントーニョがいる部屋へ。


「聞きたい事あるから入るよ~」
と、悪友の気楽さで言うと同時にドアを開け、固まる。


ベッドラックの上にはまだ電源を落としてないPC二台。

それは良いとして…ベッドの上に押し倒されてるアーサーと押し倒しているらしいアントーニョ。

ドアの所に立ちすくむフランにきづいて
「トーニョどけっ!」
と、頬を赤く染めて涙目で訴えるアーサー。

中途半端にはずされているパジャマのボタンがなかなか艶めかしい。


ていうか…この子童顔のくせにこの色気ってなに?
うん…なんか当分のおかず決まった気がします。お兄さん。
と、思ってると、いきなりスッと下がる室温。


「フラン…自分今すぐ記憶消したらなあかんな?」
むくりと身を起して、凍りつきそうな笑みで言うアントーニョ。

「え?ええ??お兄さん何にも見てませんっ!
PCの電源落としてないな~とか思ってただけでっ」
ずりずり後ずさりをするフラン。

「トーニョ…フラン何か話あるって言ってたぞ?」
と、そこでアントーニョのTシャツの裾をクイクイとひっぱるアーサーの言葉でどうやら命拾いしたらしい。

うんうんと思い切りうなづいて、フランは
「ベンがストーカー化してるって小耳にはさんだから、それについて聞こうと思って!」
と、慌てて言った。


「あ~、あのアホの事かぁ…」
アントーニョはついたままのPCから、スクリーンショットを取ったログをざ~っと見せる。

「これ?」
「そそ。あのアホのログ」

チャットウィンドウを最大限に広げてスクリーンショットを取っていたらしい。
そこにはウィスを示すオレンジの文字がざ~っと表示されていた。

アタッカーのくせに盾からタゲ取って…という以前エドァルドが言ってたような批判から始まってリアルのアントーニョの事まで、騙したんだろうとか脅したんだろうとか言うのが発展して、まあ無理矢理乱暴でもして言う事聞かせてるんじゃないかというきわどい中傷までなかなかすごい事になっている。

最終的にアリスを解放しないなら警察に訴えてやるとかもうやばいな、こいつとフランは苦笑した。

しかしアントーニョはそれを全てスルーしてるぽい。


「なんでここまで言われて言い返さないの?」
と思わずきくフラン。

決して気の長い方ではないアントーニョにしては、この対応は不思議だ。

それに軽く肩をすくめて
「一応カオルが色々動いてくれてるみたいやねん。
そしたらまあ下手に動いて邪魔しないほうがええやろ」

と言うアントーニョに、フランが

「でもさ、このログ運営に送りつけて垢バン(=アカウント停止)で解決じゃないの?」
ともっともな提案をした。

それに対してアントーニョは、ん~…と少し考え込む。

「それも考えたんやけどな…結局別のアカウント取るだけやないか?
そうすると、や、こちらからはそいつってわからないキャラで何か企まれる事になるやん。その方がやばい気するし。」

なるほど…。

これまでの経験もあって、ちょっとその辺に関しては慎重になっているらしい。


「ま、俺は別にええんやけどなっ。」
アントーニョが気楽な口調で言ったあと、

「あ~ちゃんがキモい思いしてて可哀想やねん」
と、苦笑しつつ、今度はアーサーのPCのログを開いた。


「うああ~キッモ~~~!!!」
フランの第一声。

「バラの花を敷き詰めたベッドで抱きたいって……どの面さげていってるわけ??
そんなセリフ真顔で言って良いのはお兄さんくらいの美形だけだよね!」

とフランが言うのに、自分かて気持ち悪いわっとすかさずアントーニョから突っ込みがはいる。

まあなんというか…そんな感じのセクハラ発言やもっと具体的なきわどいのも盛りだくさん、ウィスだけじゃなくてメッセまであふれている。

「リアルで体温感じたいとかもうある意味名言だね……。」
としみじみ言うと、

「実は男相手にこのセリフ吐いてたとか何かで知ったらショックだろうな…」
と、アーサーはうんざりした顔で吐きだした。


「いや…あーちゃんホンマ危ないで。男かて襲われかねへん。」
「うん…なんていうか…可愛いもんね」

「可愛くないっ!」
と、赤くなってぷぅっと膨れる様子は十分すぎるほど可愛いと思う。


「まあ結局な、カオルがこれ以上あーちゃんにつきまとうなら運営元に通報するてメール送ったらしいねん。
あとは俺がいつもリアルで隣におる事も言っといてもろたから、明日からはおさまると思うんやけど…」

もうええやろ、帰ってんか?と、アントーニョの目が怖くなり始めたので、フランは命惜しさに撤退する事にした。


そしてフランがパタンとドアを閉めると、アントーニョはベッドから飛び降りて即効ガチャっと鍵をかけた。

「男だって事だけでもばらそうか…」
PCの電源を落としながらため息をつくアーサー。

「無駄や。今さら信じへんて」
アントーニョもベッドに戻って自分のPCの電源を落とす。

「顔晒せれば一発なのにな…」
「あかん」

そんな事をしたらこんなに可愛いのだから、かえって付きまとわれる…という言葉は口にしたら口論になりかねないので、のみこんでおく。

なにせ自分だって元々は異性愛者なのに一発で落ちてしまったのだ。
ギルベルトだってそうだ。

本人は全く無自覚だが、アーサーは性別を超えて何か惹きつけるものがあるのだ。

それでなくても男子校の海陽学園で今まで無事だったのは、故早川和樹が全てからきっちりガードしていたからだと思う。

「あーちゃん」
と声をかけると、自分をとらえる大きなペリドットの瞳。

「続き…させたって?」
と笑みを向けると

「でも…フランやギルいるし…」
と、困ったように泳ぐ視線。

羞恥のため薔薇色に染まる頬。
うつむいて伏し目がちになると強調される驚くほど長い金色のまつげ。

ぎゅっと握りこんだ自分より若干小さく華奢な手が少し震えているのに気がついて、アントーニョがその手を取ってちゅっと口づけると、もういっぱいいっぱいだというような少し潤んだ大きな丸い目が、訴えるようにアントーニョに向けられた。

「そんな目したら逆効果やで?」

苦笑しつつそう言うと、アントーニョはそのままその手を引っ張って身体ごと引き寄せ、細い体をそのまま自分の腕の中におさめる。

アーサーはろくな抵抗もなくおさまってしまってから、ハッと気づいたように、慌ててワタワタと抵抗を始めるが、単純な力比べならアントーニョにかなうはずもなく…。

ほんま…護身術習っとっても、勉強できても、それ活用する術持っとらんから頼りないんやなぁ…。

と、しみじみ思うアントーニョ。

そんな空気がなんとなく外に漏れ出ているから、自分やギルベルトのようなタイプの人間は引き寄せられてしまうのだ。

頭も運動神経も良くて、その気になれば(料理以外)なんでもできるはずなのに、守ってやりたい…そんな庇護欲を強烈に引き出すのは、そんな理由なのだろうとアントーニョは思った。


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