全員ダイニングに集まり席につくと古手川が不機嫌にテーブルに肘をついてうんざりした顔をする。
それに事件を起こした松坂当人もうんざりしたように同じくテーブルに肘をついた。
「なんだ?大事なお友達の命狙った挙げ句に暴言吐いた殺人犯を集団で罵りたくでもなったか?」
それにアントーニョが立ち上がりかけるが、それをアーサーが制する。
「暴言…はそうかもしれねえが、命は狙ってないよな?松坂」
ギルベルトは静かにそう始めた。
その言葉に周りがざわめく。
「はあ?何言ってんだよ?毒盛ったのも斉藤装って平井焚き付けたのも全部俺だぞ?
それはさっきお前自身が暴いた事だろうがっ。おかしいんじゃねえの?」
吐き捨てる様に言う松坂に、ギルベルトはうつむき加減に息を吐き出した。
「やった事は確かだ。でも俺は動機を見誤ってた。
今回殺されたのは斉藤さん、淡路さん、水野さんの3人。
そして…松坂、お前が殺したかったのはまさにこの3人だったんだな」
ギルベルトの言葉に松坂は一瞬言葉に詰まった。
そしてすぐ
「何言ってるんだかわかんねえよ」
と答える。
「警察の鑑識の結果…水野さんが死亡した毒物は一本しかないリンゴジュースから発見された」
「それが何だよ?」
「他にも飲み物がたくさんあったにもかかわらず、松坂、お前は唯一ロヴィーノが飲めない飲み物に毒物をいれているんだ」
松坂の顔色が少し変わる。
「食事の時…アーサーがアレルギーについて自己申告するよう申し出た時、松坂、お前はロヴィーノにもアレルギーがある事を口にしてたよな。
という事は…お前はロヴィーノが”りんごジュース”を飲めない事も当然知ってるはずだ。
それをわざわざ水野さんの側において、彼にロヴィーノの元へ持って行く様に指示したよな?
ご丁寧に、全員がそれぞれ固まって離れた所にいて、ロヴィーノが一人の時に、リンゴジュースを飲めないロヴィーノの元に水野さんを送り込んだんだ。
当然…それは水野さんしか飲めないので水野さんが飲むだろうという事を見越してな。」
そこでギルベルトはいったん言葉を切って、チラリと大学生組の方に目をやった。
「松坂は始めからロヴィーノではなく水野さんを殺すつもりだった。
そう考えると他の二人の殺人も、偶然ではなく必然だったとわかってきた。
小手川の事でアーサーに嫌がらせをしていた平井さんに、いかにも今度は小手川のタゲが移ったロヴィーノに嫌がらせをするのにちょっと協力するだけとそそのかして、実は淡路さんと水野さんを殺す手伝いをさせてたんだ。
淡路さんがロヴィーノのような格好をしていたのも、おそらく淡路さんを溺死させる手伝いと思ったらいくらなんでも躊躇するであろう平井さんに”泳げるロヴィーノをプールに突き落として脅す”だけの手伝いと思わせて協力させるためだったんだ。
水野さんの時も”水野さんを毒殺する”手伝いは躊躇しても、”ロヴィーノに下剤を盛る”程度なら平井さんもやるだろうという計算の元で計画してたんだな」
「馬鹿馬鹿しい。お前、推理オタクか。考えすぎだ!殺す動機も隠す動機もないだろっ!」
松坂がソッポをむくと、ギルベルトはまたチラリと大学生組に目を向ける。
「殺す動機は…1年前の斉藤さんが冤罪でとある人物を陥れた事件じゃないか?」
「…なんで…お前がそんな事知ってんだ…」
「最初は水野さんにそういう事があったって聞いたんだ。
斉藤さんに脅されて嘘をついて証人になったが今でも怖いと言ってたんだ、水野さん。
で、さっき念のためにと警察のトーリスさんに詳細を調べてもらったんだが…
冤罪で陥れられた人物…歯科医の松坂雄一さん。
その後自殺してんな…」
「ほんっとに嫌な男だな、お前…」
松坂の言葉にギルベルトはため息をつく。
「その言葉…事件に関わるたび言われてるんだけど」
「確かにな…斉藤、淡路、水野の3人のおかげでうちの家はめちゃくちゃにされたんだ。
父が優先席の前で携帯かけてる斉藤に注意しただけでな。
痴漢の冤罪着せただけでなくて、それを実名入りでネットに流したんだぞ?あいつ。
おかげで父は周りの目に耐えられなくなって自殺。
俺らは代々住んでた土地を離れて引っ越しを余儀なくされ、俺と弟はそんな不名誉な死に方をした一族の恥の息子ということで迷惑顔の伯父にひきとられた。
そんな風に他人の家をめちゃくちゃにしておいて、あいつらそんなことすっかり忘れて普通に生きてるんだぜ?
俺が自分達にめちゃくちゃにされた家の人間だとも知らずに。
…で、許せなかった。これでいいか?」
「まだ…隠していた動機について語ってねえけど…」
「でしゃばりは嫌われるぞっ!」
「自分でもそう思う…。
でも皆と事件を解明しないと針千本飲むって約束しちまったから…死活問題なので進めるぞ。
斉藤さんを一番端の部屋から自室までの移動…。
斉藤さんの遺体には室内は引きずった跡があるのに、廊下にひきずった痕跡がないらしいんだが…ということは廊下だけ担いで運んだってことだだよな?
小柄で軽い水野さんならとにかくとして大柄な斉藤さんを、おそらく殺害後運んで自室に隠して…その後客室に上がってきた人物と普通に戻ってくるってタイミング的に難しいと思うんだが…。
それが隠してた動機か?」
「何言ってるのか…」
「もうやめよう、松坂君」
松坂の言葉を高田がさえぎった。
「やっぱり…運んだのはあなたなのか?」
驚きもせずギルベルトは高田に目をむけた。
「うん」
「動機は…弟さんに対するいじめです?」
ギルベルトの言葉に高田は本当に驚いたように目を丸くする。
「よく…そこまで調べ上げたな」
「いえ…憶測です。
綾瀬さんから弟さんがいるって聞いて…水野さんからは昔やっぱり斉藤さんに脅されて一緒に無視した子が学校に来なくなって最終的に学校をやめてしまったと聞いていたのでもしかしたらと思って。
アーサーに個人的興味を持っている様子もないのに、水野さんがアーサーに悪意を向けていた時、随分水野さんを睨んでたし…。
あの3人が誰かをいじめるという図を激しく憎悪したんだな」
「ほんと…伊達に天才扱いされてないね」
高田は笑った。
穏やかな笑顔だった。
「ご明察の通り。
俺が上に上がって行ったら丁度松坂君が端の空き部屋のドアを開けて顔を出したところでね…。
空き部屋から松坂さんの部屋まで遺体を運ぶのに協力したよ。
あの時点で色々を明らかにしていれば残りの2件は起こらなかったのかもしれないけど…ごめん、俺は起これば良いと期待して放置した。
弟はいまだ対人恐怖症で、高認だけは取って大学受験資格は取らせたから、一緒に通ってやれればって思って俺も一年遅らせて一緒に大学通い始めたけど初日からもうダメでね…今俺一人で通ってる訳なんだけど…。
人一人の人生をそんな風に変えておいて、本人達は大学生活エンジョイしてるんだよね…。
弟の事も松坂君のお父さんの事もあって…それでもまだ懲りてなくてアーサー君に敵意向けていて、最初はアーサー君に弟みたいな思いさせないように脅すだけにしておこうと思ったんだけどね…
彼らは生きてる限りろくな事はしないと思えてきちゃったんだ…。
遺体を運ぶの手伝って他二人も見殺しにしたのは後悔してないよ。
これで新たな犠牲者は出ない」
「だしてんのに気付かないだけだろうがっ!」
その時いきなりギルベルトが声を荒げた。
それまであくまでよそ行きの丁寧な態度を崩さなかったギルベルトの急変に、フランシスとアントーニョをのぞく周り中があんぐりと口を開けて惚けた。
「あんたは弟がいじめられたとか言ったが、あんたもイジメ推奨してんだろっ!
つか、斉藤よりえげつねえぞ!
やつらはあんたの弟にとっちゃ所詮ただのクラスメートだろうがっ。
それでもそこまで堪えてんのに、クラスメートどころか数少ない友人に影で殺したいほど嫌われてたなんて言われて平気だと思うのかっ、ロヴィーノがっ!
知ってて言わせておくお前も同罪だっ!」
うあ…滅多に本気で怒らないギルちゃんがキレてるよ…とフランシスは驚いて目を見開いた。
「だな…。巻き込んで不愉快な思いさせて本当に悪かったよ、ロヴィーノ君」
高田は立ち上がって神妙な顔でロヴィーノにそう言うと頭を下げた。
それを見てギルベルトは今度は松坂に目をやる。
その視線にきづいて松坂はにやりと笑みを浮かべた。
「まあ…一応ごめん、とは言っておくけど…。
ロヴィは大丈夫だと思ってたんだ。
絶対に誰かが一緒にいてくれるだろうなって。
俺もそうだったけど…愛想ないから不特定多数によってこられたりはしないけど、誠実だから…それを求めてわかる奴は寄ってくる」
「松坂……」
その言葉にロヴィーノは驚いて松坂に視線を向けた。
それに気づいた松坂が続ける。
「俺もそうだけどさ、大勢に囲まれてても必ずしも全員が心許せる開いてな訳じゃない。
ていうか、そんな相手はレアで…。
ロヴィは俺が善意で一人のお前といてやってるって思ってたみたいだけど、それ逆。
大勢に囲まれているからこいつといれば外れないって理由で俺と居るやつがほとんどで、俺が何かもっと立場が強い奴に嫌われるような事したりしたら皆離れていくのわかってたからさ、一人くらいは俺自身といたいって思ってくれる奴と居たかった。
お前といる時が一番気負いなくホッと出来た。
お前はお前が思ってるよりずっと良い奴だし、好かれる要素持ってるんだぜ?」
そこで大方の現場検分も終わった警察に松坂と高田、それに平井が連れて行かれた。
「帰り支度…しないとな…」
さすがに殺人事件まで起きると当分ここは使えない。
アーサーが言って立ち上がるとまずダイニングを出て行った。
アントーニョも当然それに続き、さらに古手川、綾瀬、アルフレッドと続き、ギルベルトはダイニングで同席していたトーリスと共に、別室で何か話をしている。
そんな中でフランシスは一人そ~っと抜け出した。
「あ…ロヴィーノも…なんだ?」
まだ警察が慌ただしく行き交う中、リビングの入り口あたりでそ~っと手を合わせるロヴィーノに並んで手を合わせながらフランシスは声をかけた。
「寂しくて怖いままだったから…つらかったよな…」
「水野さん?」
「ああ…」
ロヴィーノは自分が座を勧めた時の水野の嬉しそうな顔を思い出した。
松坂にああ言われてみれば、確かに自分は一人とは言えない。
たとえ一番じゃないにしてもアントーニョは未だ言えば助けてはくれるだろうし、アーサーもフランシスも…なによりギルベルトがいる。
自分がもし本当に一人ぼっちで水野の立場だとしたら、斉藤の言う事を拒絶できたか自信がない…。
だからこそ他人事とは思えないわけで…。
「斉藤さんとかはとにかくとして…誰でも水野さんになっちゃう可能性はあるよな…」
思わず口をついて出るロヴィーノの言葉にフランシスは
「お前さんには皆がいるでしょ?ならないよ」
と、ポンと軽くその肩を叩いて、みんなの方へとうながした。
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