人魚島殺人事件 後編_6

「今回起こった事件は4件。
一件はアーサーに向かってガラスの短剣が落ちてきた事、一件は淡路さん殺害、一件は水野さん殺害。
そして…もう一件は表沙汰にはなっていませんが斉藤さん拉致です。

まず最初に起こったのは斉藤さんの拉致です。

これは俺達が最初にリビングで顔見せをして古手川さんの言葉に斉藤さんが怒って退室してから、俺達採寸組以外がリビングに戻るまでの間のタイミングで起こっています。

斉藤さんが腹を立てて一人退室したのを見て、真犯人は今後起こす事件を、動機もあり性格的にもいかにもそういう事件を起こしやすそうな激しやすい性格の斉藤さんの仕業にしようと、斉藤さんを誘拐し、その携帯電話を奪取します。

次に起こったのがアーサーの頭上にガラスの短剣が落ちてきた事件。
これは唯一真犯人が全く関与していない事件です。

しかしこの事件の犯人はこの事件を真犯人に目撃されたため、今後斉藤さんを装った真犯人に脅迫され続ける事になります。

ちなみに…この事件の犯人からはすでに俺の方にメールで申告がきています。
犯人は実は小手川さんとは幼馴染で、古手川さんがそれまでは特定の恋人を作らず一人の相手と長くつき合う事もしなかったので、恋人と言う形ではなくともずっと親しい付き合いであることを嬉しく思っていたのが、その古手川さんがここにきてアーサーに特別な執着を持ち始めたのを知って、別に殺人とかではなく軽い嫉妬心からの嫌がらせのつもりで短剣を落としました。

普通ならそこでアーサーに若干ひやりと嫌な思いをさせて終了というはずだったのですが、それをたまたま庭に出ていた真犯人に目撃されていた事から悲劇が始まります。

真犯人はまず他の人に、短剣を落とした犯人は”オレンジ色”の物を身につけていたように見えたと嘘の証言をして、いかにもその犯行は斉藤さんが起こしたものであるかのように印象づけました。

しかし…斉藤さんは俺達が最初に到着した時点ですでにオレンジ色の上着を脱いでいたんです。

なので、もし斉藤さんがあのタイミングで短剣を落とすとしたら、外に行く時に来ていた上着を室内に入って脱いで、何故か部屋に戻ってどこかに行くのでもないのにわざわざまた上着を着直して短剣を落として…などという行動を取った事になります。
これは本当に斉藤さんが短剣を落とした犯人だとしたら明らかに不自然な行動です。

で、ここから真犯人は斉藤さんが生きているという事をアピールするために、仲の良かった水野さんと淡路さんに、自分はアーサーやロヴィに悪意を持っていて、すでに短剣を落とすと言う嫌がらせをしていて、今後も嫌がらせをするつもりだから協力するようにというメールを送っています。

淡路さんは…斉藤さんと親しかったから何か気付いたのかもしれません。
動機についてはわかりませんが、真犯人は次に淡路さんを殺そうと画策します。
まず淡路さんを呼び出して、おそらくロヴィーノに体格が似ているので試着して欲しいとでも言ったのでしょう。
撮影でロヴィが着る服を着せ、ロヴィの髪に似せたカツラをつけさせ、これも衣装の一部だからと仮面をつけさせ、撮影と同じ場所で見たいからとプールサイドで待つ様に言います。
そしてその一方で短剣の犯人にメールを送りました。

内容は

これからロヴィをプールサイドに呼び出すので、後ろからこっそり突き落として欲しい。
突き落として即逃げればバレないし、ちょっとした嫌がらせをしたいだけだ

という事です。

犯人にしてみたら今度はアーサーから小手川のターゲットが移り始めている”嫌いなロヴィーノ”にちょっと嫌がらせ程度に思って、短剣の件について脅された事もあり、軽い気持ちで実行して逃げたのですが、実際はそこにいたのは”泳げない”淡路さんで…溺死。

ここで誰かに相談できれば良かったんですが、思いもかけない自体に犯人は動揺します。
そこにまた斉藤さんを装った真犯人からのメール。

今回の事は完全に過失だった。犯人が淡路さんとほぼ接触がなく、過失だったという事を証言してやるから、もう一度だけロヴィーノに対する嫌がらせに協力するように。

という内容でした。


今回は本当に簡単な事で、下剤の入っているリンゴジュースをテーブルに置いてあるので、何も知らない水野さんあたりをそそのかしてそれをロヴィーノさんに持って行かせろというだけでした。

このみんながリビングにいるように言われている中で腹を下せば恥をかくだろうからといわれて、犯人は一人で所在ない水野さんに同じく一人だったロヴィーノに飲み物でも持って行くように勧め、水野さんは薬入りりんごジュースをロヴィーノの元に持って行きますが、今回もここでアクシデント。

リンゴアレルギーだったロヴィーノはそれを飲めず、ミネラルウォータで和解の乾杯をするロヴィーノと一緒に、その実は毒薬入りだったジュースを飲んで水野さん死亡というわけです。


で、まあまず斉藤さんが拉致られていたというのは、ロヴィーノが以前アントーニョの行動を誤解して正面の空き部屋に入った時見た夢、あれは実は夢ではなくて、暗い部屋で壁にかけられていた仮面をお化けと勘違いしたわけなんですが、その際聞いたうめき声。
これは当然仮面からもれていた物ではなく、隣の部屋に拉致されていた斉藤さんがだしていた物だったんです。

ロヴィーノから夢の話を聞いた時、真犯人は念のためと慌てて斉藤さんを拉致していた一番端の空き部屋のクローゼットから斉藤さんを移動させました。
もしかしたらこの時点で斉藤さんは殺害されているのかもしれませんが…。

とりあえず空き部屋のクローゼットからは斉藤さんの物と思われる毛髪が見つかっています。
これは警察がきたら鑑定してもらいます。

斉藤さんが自主的に隠れていたとしたらうめき声を上げたりはしないでしょうから、まあ猿ぐつわでもはめられて拉致されていたと判断するのが妥当でしょう。

という事で…短剣を落としたのは平井さん。
ご本人からメールを頂きました。

真犯人は…今の説明を聞いて頂けばお分かりかと思います。

短剣が落とされた時に”オレンジ色の何か”が見えたと発言し、ロヴィーノから空き部屋のお化けの話を聞いて即空き部屋に向かった人物です…
たぶん…今身体検査をすれば斉藤さんの携帯が出てくると思いますが…」

シン…とする中、一斉に視線が一人に向けられた。

「何故…?」
みんなが唖然とする中、一番信じられない様な顔をしているのは狙われた当人のロヴィーノだ。

「あ~あ、やだなっ。本人だけじゃなくてダチも嫌な奴だったかっ」

あっさり言って松坂がポケットから派手な色の携帯を取り出すとテーブルの上に放り投げる。
斉藤の携帯らしい。

「ホントに…金あって顔良くって…その上運まで良いって最悪だなっ。
そのくせ、さも自分はたいした人間じゃねえ、金持ちの爺と自分は別だからってやたら主張するってマジ嫌味だぜっ」
松坂の言葉にロヴィーノは無言で青くなった。

「単にダチで見栄え良い奴いねえ?って話しただけで、家にうなるほどお金ある恵まれたおぼっちゃまが、親亡くした可哀想な孤児に上から目線で別荘まで提供してくれるような金持ちの友達集めてやって、さぞや気持ち良かっただろうよ」

「…わりい…そんなつもりじゃなかったんだ…」
うつむいて消え入りそうな声で言うロヴィーノ。

「おかげでこっちは犯罪者だしっ」
その言葉にアントーニョが激怒して立ち上がりかけるが、それを慌ててフランとアーサーが制する。

「わりい…、あと任せた。ちょっと俺、顔でも洗ってくる…」
ガタンと立ち上がってそのまま部屋を出て行くロヴィーノをギルベルトが黙って立ち上がって追った。




「ホントに…ロヴィを殺したかったのか?」
アーサーもうつむいて言った。

友人と思ってた奴が実は…というのは、身につまされる…。
自分の時は和樹が死んでしまって直接聞けなかったが…聞いてみたくなって松坂に聞いてみた。

「人付き合い下手だし空気読めないから…嫌な思いさせてるのはわかるけど…
それを指摘するでもなく離れるでもなく、殺したくなるものなのか?
…俺達は…どうすれば良かったんだ?」

「別に…俺、あんたの事まで殺したいとか言ってないけど?」
「…俺も…同じ事あったんで…
相手が事故で死んでしまってからそれ知って本人にはきけなかったから…どういう心境なのかと…」

「…傷ついた?」
「俺が?」
「うん」
「当時は…死にたくなったけど…」

「でも…立ち直ってるんだよね?」
「…まあトーニョのおかげで…」
「じゃ、ロヴィもきっと大丈夫」

不思議なやりとりだ…とアーサーは思った。
ロヴィーノがいなくなった途端、刺々しかった松坂の声音も普通になる。

何かがおかしい…とアーサーは違和感を覚えた。
まだみんな何かを見落としている気がする…大切な何かを…





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