迷探偵最初の推理
「とりあえず…淡路さんの時と違って殺人事件確定なので、警察がくるまで現場維持ということで、みなさん部屋の物に手を触れない様に速やかにダイニングへと移動願います」
ギルベルトが指示をすると、
「なんで…高校生が仕切ってるんだ…」
と古手川が不満げな顔をする。
それに対してアーサーが青い顔をしながらも言った。
「ここの家主として…ギルに一任します。
まあ一応補足しておくと…ギルは警察関係の親の家で育ってて、去年の夏の連続高校生殺人事件の犯人を素手で確保した他、その後俺達も一緒だったのも含めて5件の殺人事件を全て解決してみせたという、スーパー高校生なわけで…。
ま、犯人がまだ特定されていない以上、自分が次の犠牲者になる可能性が皆無ではないという現状で、死にたくないなら指示に従っておいた方が賢明だと思います」
アーサーの言葉に
「どうせ狙われてるのはロヴィーノ君で…犯人は斎藤あたりなんだろ、どうせ。
そうまで言うなら斎藤の居場所みつけろよっ」
それでも少し不満げな古手川に、ギルベルトは小さくため息をついた。
「もう少し確定できる物が見つかるまで黙っておこうと思いましたが…今回の一連の事件の犯人は斉藤さんではありません。
下手をすると斉藤さんが最初の犠牲者になっている可能性もあります」
ギルベルトの言葉にその場にいる全員が驚きの声をあげた。
「ちょっと待った…それどういうことだ?!どこまで状況掴んでるんだ?」
高田が目を見開いて聞くと、ギルベルトは
「まだ推測の域をでないんだけどな…」
と苦笑する。
「詳しくはまだ言えませんが、これは最初に拉致した斉藤さんの犯行に見せかけた真犯人の犯行の可能性が非常に高いんです」
「真犯人は…もうわかってるの?」
「まあ…状況的には。ただ状況証拠だけなので物証は警察が来てから協力を求めてということで…」
ギルベルトは肩をすくめた。
「でも一つだけ重要なポイントを。
斉藤さんが拉致されたタイミングは最初にリビングで集合したあとくらいで…その後水野さんの所に斉藤さんからメールが来てるんですが、これを打ったのはおそらく拉致した斉藤さんから携帯を奪った真犯人。
ということで…その後真犯人は携帯メールを他にも送って撹乱している可能性があります。
もしかしたら淡路さんの不可解な死もそれが原因かもしれないんですが、淡路さんの携帯がみつからないのですでに犯人に処分されている可能性もありますし、警察に通話記録を調べてもらう予定です。
他にも何か送られてる方がいらしたら危険なので申告して下さい。
直接言いに来にくかったらメールか電話でどうぞ」
と、ギルベルトはその後自分のメルアドと携帯番号を明かす。
もちろん、極々プライベート用のとは別に用意した物だ。
ダイニングに移ってそれぞれテーブルを囲んで座ると、即ギルベルトの携帯にメールが届いた。
アントーニョからだ…。
『もしかして揺さぶりかけてたりするん?それとも本当に犯人割れてるん?』
ギルベルトはそれにメールで返す。
『俺的に犯人はほぼ確定。ただ実行するに当たって利用されてる人物がいると思うんでメール待ち』
二人でこそこそメールのやり取りをしている中で、目的の人物からのメールが届いた。
熟読するギルベルト。
『確定だ』
とまたアントーニョにメール。
『了解や』
とアントーニョからメールが返ってくると、ギルベルトはくしゃくしゃと頭をかいた。
ああ、嫌だな…とギルベルトは思う。
いつもいつも思うのだが…真実は必ずしも正義とは限らない。
日本国の法を遵守するという意味では正しい事なのかもしれないが、加害者と被害者はいつも紙一重で、被害者は法的には一方的に被害者として扱われるのだが、加害者には加害者の思いもある場合もある。
警察でもない自分がそれを暴いていいものなのか、それが傲慢な自己満足じゃないと言いきれるのか、正直自信がない。
それでも…法を曲げて暴力で解決というのが正しいとは思えない以上、信念に基づいてそれを法にゆだねるべく犯罪を明らかにする、というのが自分にとっての正義ではある。
「ギル、俺は信念に基づいて行動するギルが好きだぞ?」
何故かアントーニョの元から駆け寄ってきたアーサーが、そんな言葉でギルベルトのその迷いを断ち切って後押ししてくれる。
「うん…さんきゅ。いつも頼む」
その言葉にアーサーだけじゃなく、それを追ってきたアントーニョとフラン、そしてロヴィーノは小指をたてた。
「ギル、信念に基づき事件を解明しろ。できなければ…」
アーサーがまずいつものセリフ。
そこでいったん言葉を切ってギルベルトを見上げて…そして天使の微笑み。
「針千本だっ~」
と、それを合図に一同声を揃えて言った。
「よしっ、さんきゅー」
小さく息を吐き出して気合いを入れると、ギルベルトは仲間たちにふっきれた笑顔を向けた。
「物証は警察が来てからということで、先に今回の一連の事件のあらましについて説明します。
興味がない場合は余計な事を言わず黙って寝てて下さい。
質問や意義は説明が終わってから受け付けますので、とりあえずは途中で口をはさまず静聴願います」
自分の中で一連の事件の時系列についての整理を終えてギルベルトはとりあえず説明を始める事にする。
そしてギルベルトの宣言に全員が神妙にうなづいた。
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