人魚島殺人事件 後編_1

溺死した人魚


「大丈夫かっ?!フラン」

とりあえずギルベルトはすぐ降りてきた。
そして廊下にへたり込んだままのフランシスの腕を取って立ち上がらせる。

「俺は大丈夫…だけど……」
声が震える。

それでもまだ話せるだけマシなのだろうか…。
他の…綾瀬、松坂、アルフレッド、高田は、皆一様に顔を青くしたまま硬直していた。



ギルベルトはフランの視線を追ってプールの方へと目を向けると、ポケットからビニールの手袋を取り出した。

「ここで待ってろ。様子見てくる」
というギルベルトに
「一人じゃ危ないよ」
と、高田が言うが、いたずらの可能性も否めない。
また、本当の遺体だとしたら犯人が近くに潜んでいる可能性もある。

後者なら他のフォローをいれる余裕はないし、一人の方がまだ安全だとギルベルトが説明をすると、他のメンバーは不可解な顔をするが、フランシスが

「こいつ…親警察関係者で、護身術完璧なだけじゃなくて、何度も事件に巻き込まれて慣れてるんで…」
と言うと、驚きはするが納得して見送ってくれた。


窓から外に出ると、芝生の上に飛び降り、すぐ目の前のプールへと足を運ぶ。

プール中央にゆったりとしたブルーの上着を着た人間が浮いている。
その顔はマスクに覆われていてわからないが、髪は少し長めの茶色で身長はロヴィーノくらい。
さきほどまで一緒だったギルベルトでなければ、一瞬ロヴィーノかと勘違いしそうだ。
髪型は違うが身長からすると斉藤か淡路あたりか…。

「とりあえず…このままだと誰だかもどんな状態だかもわからないな。引き上げるか」
ギルベルトは一人そう言って上着を脱ぎ、携帯と共にプールサイドのテーブルに置くと、プールに飛び込む。
そして水の上に浮く人物を抱えてまた泳いでプールサイドに戻り、それを引き上げた。

ギルベルトはプールから上がると、上着のポケットから手袋をだす。

それを手袋をはめながら
「最近…遠出すると事件に出会わないで終わる気がしなくなってきたな」
とやはり最近多くなってきた大きすぎる独り言を言って、仮面を取る。

「淡路さん…」
長めの茶髪はカツラだった。
脈と呼吸を調べたが死亡している。

「フラン、警察に連絡を」
叫ぶギルベルトの言葉にフランシスが警察に連絡をする。

「離島だから到着まで1時間くらいかかるって」
フランシスが通報を終えると、遺体を調べていたギルベルトは
「とりあえず遺体を保存するためシート用意するように言ってくれ」
とフランシスに言った。

それに対してフランシスは呼び鈴を鳴らしてメイドに用意してくれるよう依頼する。



「じゃ、戻る前にいったん情報整理するか」
プールサイドの椅子に腰をかけるギルベルトに
「着替えないでいいのか?」
とどうやら降りてきたらしいロヴィーノが離れた廊下から声をかけるが、
「とりあえず…戻ると色々聞かれるんだろ?どうせ。
与える情報と隠す情報の整理をしてからにする」
と、苦笑するギルベルトに、ロヴィーノが走り寄ってきて、部屋からもってきたらしいミネラルウォータのペットボトルを投げてよこして、自分もギルベルトの横に座った。

ギルベルトはダンケと礼を述べると、
「ちょっと大きな独り言だから、ひっかかる事があってもスルーしてくれな」
と、キュっとキャップを開けて水を一口口に含んでから、少し考え込んだ。

「とりあえず…死亡したのは淡路さん。
死亡原因は外傷もねえし溺死と思われる。
他殺か自殺か事故死かは今の時点では判断つきかねるな。
気になるところは…死亡時の服装か。
このブルーの上着は撮影用衣装?あとはマスクとカツラだな。
何故こんな物身につけた状態で死んでいたのか…」

「これ、サイズからすると俺用のだよな?」
ロヴィーノの言葉にギルベルトがうなづいた。

「カツラも…そうなんだが…まるでお前にみせかけるためみたいな格好だよな…仮面で顔隠して」
「で?お前の意見としては?どういう事だと思う?」
「わかるか。これだけで」
ギルベルトはム~っと考え込んだ。

「しっかりしろよ、迷探偵」
「ちょっと黙っててくれ、今情報整理してるから」
ギルベルトは最初からの情報を並べてみた。

「危害…という意味では前回アーサーにガラスの短剣落とした奴がいたよな。
で、水野さんの所に斉藤さんの携帯から来たメールによるとその犯人は斉藤さん。
でも肝心の斉藤さんは行方不明…と」

「犯人斉藤説?」
「いや…犯人は斉藤さんじゃない気がする…。
少なくとも今回の殺人については。
前回の短剣も…実はお前も斎藤さんだと思ってるんだよな?」
ギルベルトはそこでロヴィーノに振った。

「違うのか?」
「あ~、まあなぁ。確証ないんだけどな」
「どういうことだ?」
そこでロヴィーノが聞くと、ギルベルトはちょっと考えをまとめるように黙り込んだ。

「え~っと…つまりだ…、松坂はオレンジ色の何か見たって言ってただろ。
それで皆が斉藤さんの上着を連想したと思うんだが、もしそれが本当に斉藤さんの上着だったとしたら、斉藤さんに罪を着せたい誰かなのかなと…」
ロヴィーノの不思議そうな様子に、ギルベルトが続ける。

「最初に全員がリビング集まってた時って斉藤さん上着脱いでたんだよ。
それから外に一旦出たとかじゃない限り、斉藤さんが本当に部屋から何か落とそうとするためだけならわざわざ上着をまた着たりしないと思うんだよな」
「あ~、なるほどな」
ロヴィーノは納得した。

「まあじゃあそれはおいておいて、今回のはどう見る?」
ロヴィーノが少し難しい顔でギルベルトに視線を送った。

「犯人が誰かというのはおいておいて、犯人の意図として考えられるのは2通り。
一つは犯人は淡路さんを殺したくて殺した。
もう一つのパターンは、犯人が殺したかったのは実はお前。
で、何故かお前に変装したような淡路さんを間違って殺した」

「後者は…無理がないか?確かに遠目には似てるし夜なら間違う事あるかもだが…プール突き落としたくらいじゃ死なねえのわかるだろ。
かといって睡眠薬なんて飲ましたら運ぶ時に俺じゃないってわかるだろうし」
ギルベルトの言葉にロヴィーノが意義を唱えた。

「ん~、でもな、淡路さんのこの格好ってなんか気にならねえ?」
ギルベルトが言うと、
「まあな~」
とロヴィーノも眉間にしわを寄せる。

「とりあえず…俺ら5人以外には今回はまだ事故死か他殺かわからないって事で情報流すのはやめておこう。基本的には警察に任せるって感じで」
ギルベルトは最終的にそう言った。

「一応…今集まってるメンバー以外も起こした方がいいか?」
ロヴィーノがそこで聞く。

「ん~そうだな…警察来たらどうせ事情聴取だろうし。起きてた方がいいかもな」
そう言いつつギルベルトは立ち上がった。
それに釣られるようにロヴィーノも立ち上がり、淡路の遺体をそこに残して館に戻る。



廊下に戻ると、そこには高田と綾瀬とアルフレッド、水野とフラン、アントーニョ、アーサーが待っていた。

「あれ?松坂は?」
ロヴィーノが松坂がいない事に気付いて聞くと、アルフレッドが
「ああ、他起こしてくるって2Fに行ってる」
と、答える。

「で?どうだったの?」
フランシスの言葉にロヴィーノはチラリとギルベルトに目をやり、ギルベルトがうなづくとまたフランシスに視線を戻す。

「ああ、淡路さんが…な、死んでた。溺死らしい」
ロヴィーノの言葉にみなが小さく悲鳴を漏らした。

「淡路…確かに泳げないくせに…どうして…」
水野が真っ青な顔で大きな目をさらに大きく見開いて言う。

「あ~行きの船でそんな事言ってたね…」
高田がやはり青い顔でうなづいた。

という事は…自分達5人以外は全員その事を知っていたということか…。
と、ギルベルトとロヴィーノは互いにアイコンタクトを送る。

そこでロヴィーノがハッと何か思い出したようにギルベルトの袖をひっぱった。
ツンツンとシャツの袖を引っ張られて、ギルベルトはロヴィーノに視線を向ける。

「…あのな…今回の事に関係あるかわかんねえけど、ちょっと思い出したんで、お前にだけ話したい事が…」
ロヴィーノがコソっとギルベルトにささやいた。

「わかった」
ギルベルトも小声で返すと、フランシスを手招きで呼び寄せる。


そして
「わりい、俺ちょっと確認したい事があるから、ここ頼むわ」
と言って手をあげた。

「了解。んじゃ、全員リビングかな」
フランシスが了承と共にそう言うと、全員がリビングへと移動して行く。


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