マーメイド殺害
「結局さ、恋愛ってどこまで相手を許容できるかだと思うんだよね」
と、語る高田。
夜中のリビング。
なんとなく手持ち無沙汰組が集まってワインやジュースを飲みながらの雑談中。
未成年なので酒は飲めないものの、その手の話が大好きなフランシスもそこに加わっている。
「う~ん、俺はちょっと違うかな。
許容できるから恋愛できるじゃなくて、愛してたら他だと気に障る事でも愛しくなっちゃうんですよね」
と、フランシスも愛を語る。
「俺は…逆にある程度きちんとしてない相手は対象範囲外かな…。
相手に対してもきちんと恥ずかしくない人間でありたいし、相手もそうあって欲しい。
自分にとって尊敬できる人間であることが、まずそういう対象に見る最低限だな」
松坂は几帳面な彼らしい恋愛観を語った。
「なんか…みんな堅くない?
恋愛なんてさ、条件とかで始まるんじゃなくて、落ちるものっていうか…なんとなく始まる気がすんのは俺だけ?」
3人それぞれの恋愛観に綾瀬が苦笑する。
「あ~、それはそうなんですけどね。俺も感情先行型です」
と、それにフランシスが同意すれば、今度はアルフレッドが
「あー、感情先行は同意なんだけど、なんとなくなんて始まりじゃない気がするんだぞ。
いきなりぱーっと視界がひらけるっていうか…運命の相手との出会いっていうのは、もっとドラマチックなものさっ」
と、実に超感情型の彼らしい主張をし、
「あー、確かにね。非日常だと心開きやすいってあるよね」
と、それにもフランシスは同意する。
しかし松坂はそこで
「吊り橋効果で都合よく勘違いしてるだけって事もあるけどな」
と、シニカルな笑みを浮かべた。
「その他、夏の海とかだとなんとなくそんな気分になって、でも街に帰ったらがっかりとかな」
と、高田はそちらに同意して笑う。
「そう言えば…海といえば、この別荘ってこんなに海近くてプライベートビーチまであるのに、海と逆側にはプールもあるんだな」
そう言う松坂の言葉に、アルフレッドが目を輝かせた。
「cooool!!それはいいんだぞっ!
ね、みんなでこのままスイミングってどうだい?」
「おいおいおいおい…勘弁してくれよ、アル。
今何時だと思ってるんだよ」
友人だけあってアルフレッドのこんなフリーダムな提案にも慣れているのだろう。
松坂は呆れたように肩をすくめて拒否するが、アルフレッドはぷくりと頬を膨らませる。
「まだ10時じゃないかっ。全然ありな時間じゃないかい?
海はさすがに危ないけどプールだぞ?」
「はいはいはい、もうお前は言い出すと聞かないからな。
俺は付き合ってやるけど、他には薦めんなよ?
特に大学生組は酒入ってるから、マジ洒落になんねぇ」
なんだか我儘な弟をなだめるような口調でそう言って、松坂は立ち上がった。
「フランシスはどうする?」
と、おそらくそのままプールサイドでパンツだけになって泳ぐつもりらしく、特に着替えを取りに行く様子もなく一応、とばかりに唯一あと酒の入ってないフランシスに聞いてくるアルフレッドだが、フランシスが苦笑して、
「俺はこの時間だと髪の手入れが大変になっちゃうから」
と、少し長めの自分の髪に手をやると、
「付き合い悪いんだぞ」
と、子どものように口を尖らせた。
「じゃ、お兄さん達はプールサイドに酒宴場所を移しますか」
そんなやりとりにクスクス笑いながら綾瀬が高田の分と2脚のワイングラスとワインのボトルを手に取ると、
「若者を肴に昔話でもしようかね」
と、高田も笑ってツマミの皿を手に立ち上がる。
と、その時、一足早くリビングを出たアルフレッドの悲鳴に、大学生組とフランシスは驚いて各自手にしたものをテーブルに戻して廊下へ飛び出した。
「どうしたんだっ?!!」
と、聞く高田に、大きく目を見開いたまま硬直していた松坂が、震える指先でプールサイドへ出るガラスのドアを指さす。
そこで残りの3人がその指先を視線で追うと……
窓から見えるプールの水面に揺らぐ茶色の髪。
顔は仮面に覆われていて見えない。
「ギルちゃん!!人が死んでる!!」
フランシスはほとんど条件反射でギルベルトに電話をかけた。
他の4名は一気に酔いが醒めた様子でただ青くなる。
フランシスはついでアントーニョの携帯にも電話をした。
アントーニョに伝わればアーサーにも伝わるだろう。
そして…最後の1人に電話をかけようとして指を止めて、もう一度プールを凝視する。
細身の身体…日に焼けた手足…そして……少し長めの茶色の髪……
その特徴を持つのは、ここにいる中ではただ一人……
――…嘘だろ………
フランシスはへなへなと力なくその場にしゃがみこんだ。
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