アーサーはちょっと苦笑して水野に椅子を勧めた。
アーサー自身はそのままベッドに半身を起こして何故か自分もベッドにペタンと足を伸ばして座ったアントーニョに後ろから抱え込まれている。
「えと…それで?もしかしてロヴィの事とかです?」
聞かれて水野がどう切り出して良いものか迷っていると、アーサーの方からそう切り出す。
「ああ、それもだけど…。ごめん。俺、君達にひどいこと思ってた…」
水野が言うと、アーサーは大きな目をきょとんと見開く。
そこで水野は少し迷って、それでもそれまで思っていた事を打ち明ける。
全てを話し終えると、水野は
「つまり…たんなる焼きもちなんだ。
何もかも持ってる君やロヴィーノ君が、ギルベルト君に優しくされてたから…。
君達ががいなければ…とかちょっと思っちゃって」
と締めくくった。
「何もかも持ってる…傍から見るとそう見えるんですね…」
まるで他人事のように心底感心して言うアーサー。
「実は俺…トーニョと出会うまで恋人はおろか友達と呼べるような人間すらいなかったんですよ」
少し昔を懐かしんで微笑むアーサーに水野は目を丸くする。
「むしろ他人から遠巻きにされて…唯一の友人と思ってた相手は俺のこと実は嫌いで陥れようとしてて…それ知った時には絶望して死にたくなりました。
トーニョが止めてくれなければ、俺はその時死んで今頃土の下です」
伏し目がちに語るその横顔は綺麗で…でもなんとなく儚く見える。
ああ…守ってあげたくなる人ってこういう人の事を言うんだ…
水野はいつもの悲しい気分ではなく穏やか気分でそう思った。
優しくて儚くて綺麗で…でもなんとなく許容されている気がする。
みんなが側に来て大切にしたいと思うのがわかる気がした。
そんな風に水野が久々に落ち着いた気持ちで思っていると、横からアントーニョが口をはさんだ。
「さっきリビングで水野さんも誰かに…すごく…殺意を感じるくらい強い敵対心をもたれてはったよね?
あーちゃんに救って欲しいって、それです?」
アントーニョのその発言に水野は驚いてぽか~んと口を開いてほうけた。
ギルベルトと言いアントーニョと言い、本当に彼らは普通の高校生からかけ離れている気がする。
言って良いのか悪いのかわからない…が、言ってしまいたくなって水野は口を開いた。
「実は…殺意かどうかわからないけど、高田にはなんだか何も接触してないのにすごく嫌われてるみたいで、すごい目で睨まれてるんだ」
「そうなん?」
やっぱりきょとんと首をかしげるアントーニョ。
事実をありのままに感じて受け入れる…が、それ以上何か行動しようとか探ろうとかそういう気はないらしい。
とてもつかみどころがなくて不思議な青年だ。
「俺…誰といればいいのかな?」
それでも…もう他に聞ける相手がいない。
すがるような気持ちで水野が聞くと、アントーニョはにっこり
「えっと…綾瀬さんあたりがええんやない?
今の時点で強く誰かを嫌ったり強く誰かに嫌われたりしてないから平和やと思うで?」
と断言した。
(なるほど…)
黙ってはいるがフランシスも会話をしっかり聞いている。
これまでの色々な情報から分析すると、絶対的に安全なのは綾瀬のようだ。
そして、空気の読めるフランシスにとっては水野の心の変化は手に取る様にわかる。
非常に内向的で…おそらくいじめられっ子気質の水野はいつも味方を求めている。
強い奴の側にいればいじめられない、それはもう自衛のための本能のようなもので…今まではその集団の中での扱いが悪かろうと”孤立”して不特定多数にいじめられないために、自分を殺して集団の一員であろうとしていた。
それで強くて他から自分を守れる、しかも自分に優しい態度で接してくれるギルベルトの存在が好ましく思えた。
しかしギルベルトには好きな奴がいるらしい。
そいつがいなければいいのに…と思うのはまあ普通の流れで…。
ところがギルベルトだけじゃなく皆から愛されているらしいアーサーへの悪意を知られてアーサー本人より周りが自分に悪意を向けてきた事に怯える。
この自体を収拾できるのは当のアーサーだけと、すがるような思いでアーサーに謝罪にきた。
というところか。
とりあえず…相手の悪意がなくなっているのが確認できたところで、そろそろ切り上げさせておくか。
出ないときりがない。
「え~っと…そろそろ話は終わった?」
フランシスは言って、腰をかけていた椅子から立ち上がった。
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