食事が終わってアントーニョにデザートを口に運ばれているアーサーに水野がクスリと笑う。
「あ~、なんていうか、そうだね、保護者と庇護者って感じだよな」
と、それを受けて笑う綾瀬。
「だね。でもホントはロヴィーノ君が一番若いんだよね?」
とさらに水野が言った時、それまで黙っていたアルフレッドが唐突に…本当に唐突に口を開いた。
「水野さんてさ、どうしてロヴィーノの事が嫌いなの?」
いきなりのその発言に、ギルベルトとフランシスがほぼ同時に口に含んでいたコーヒーを吹き出してむせる。
別に怒っているでもなくからかってるでもない、子供の無邪気な好奇心を思わせる様な、素朴な疑問と言った感じの声音だ。
「え?あ、あの…別に…」
焦る水野。
他もポカ~ンとしている。
「若いって発言がイコール嫌っているって謎な発想だと思うけど?」
そこで淡路が口をはさむと、アルフレッドは
「そうじゃなくて…」
と首を横に振った。
「言葉じゃなくて嫌ってる雰囲気が…えーっとね、つまり…たとえば淡路さんも俺の事好きじゃないと思うんだけど、それよりもっと強い敵意みたいなものを感じるんだよね。
生理的にとか言うのを超えたかんじだし、何かあったのかと…」
「これほどまでに空気読まない男もすごいな」
ギルベルトが感心してつぶやく。
「うん。お兄さんそういう意味でトーニョ超える人間に初めて出会ったよ」
と、それにフランシスが答えた。
「お前ホントにそんなとんでもない事考えてるのかっ!最低だなっ!!」
シンとする中古手川が非難に声を荒げ、水野が真っ青になって震えるが、それにもアルフレッドは
「でも…誰しも好き嫌いってあると思うんだぞ。
古手川さんだって俺の事嫌いみたいだし」
と他人事のような口調で返す。
それに言葉を詰まらせる古手川。
いや…それについてはお前は十分嫌われるような発言繰り返してると思うぞ…と、ギルベルトは小さく首を横に振った。
「すごいな、アルフレッド。
もしかしてここにいる全員のそれぞれの感情の流れわかってたり?」
そこでフランシスが口を開いた。
「ありえないけど、そんなんだったらめっちゃ便利だよなっ」
綾瀬はノホホン組らしい。
フランシスの言葉に少しはしゃぐ。
少なくとも…綾瀬は誰に対してもことさら隠さなければならないような感情を持っていないらしい…と、ギルベルトは思った。
逆に今青くなって考え込んでいる面々は要チェックということだ。
その時…隣で倒れ込む気配がして、アントーニョは慌ててアーサーの体を支えた。
「あーちゃん?!!」
焦るアントーニョにアーサーは
「…ああ、悪い。大丈夫だ」
と、答えるが、やはりまだ顔色が悪い。
「大丈夫って顔色してへんでっ。とりあえず休んどき」
と、アントーニョはまたひょいっとアーサーを抱え上げる。
そして
「とりあえず上に寝かせてくるからっ!」
と、そのままダイニングを出て行った。
急に慌ただしくなる室内。
「お兄さんも何か雑用あるようなら猫の手になってくるっ」
とフランシスも立ち上がってアントーニョを追った。
「俺はここで明日以降のスケジュールの相談しとく」
ギルベルトはつとめて冷静にそう言ってまた椅子に座り直す。
「高田さんもできればこのままお願いします」
ギルベルトは高田に声をかけた。
何にかわからないが…なんとなく高田が酷く苛立っている気がする、と感じたからだ。
そういう人間を一人でフラフラさせておくと面倒な事が起こる確率が高い、とギルベルトは思う。
高田は一瞬不満げな顔をしたが、渋々ギルベルトの指示に従った。
そして…水野は動揺していた。
もし自分に思っただけで相手を傷つける能力があったとしても、今回の事は確実に自分ではないと思う。
ギルベルトが心惹かれる人間がみんないなくなれば…と漠然と思ってはいたが、今その筆頭なのはアーサーではなくてロヴィーノだ。
それも何故ロヴィーノを嫌っているのか?とアルフレッドに聞かれた瞬間、驚きと動揺でそれまで色々な相手に持っていたはずの敵意などふっとんでしまった。
ただ自分の敵意を知られたのがひたすら怖かった。
なのに…自分が相手に敵意を持っていると指摘されたすぐ後にこんな自体になって、あの皆に愛されている少年が倒れた原因のような形になっている事がひどく恐ろしい。
世界中を敵に回してしまった感じだ。
震えが止まらない。
この状況で自分を救えるのはまぎれもなく少年だけだ…。
水野は救いを求めてフラフラと立ち上がった。
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