「どうしようか…」
少し困った顔のロヴィーノにギルベルトが耳打ちする。
「あ、そうだな」
ロヴィーノはギルベルトに答えて、水野に駆け寄った。
「水野さん、ちょっと」
いきなり側に来られた事で、水野がビクンと身をすくめる。
その様子にロヴィーノはちょっと困った顔をした。
それにギルベルトが苦笑する。
そしてギルベルトも駆け寄ってくると、水野に向かってにっこり話しかけた。
「お忙しいところ申し訳ありません、水野さん。少しだけ今お時間よろしいですか?」
「あ、はい」
ギルベルトの言葉に水野はちょっとホッとしたように力を抜く。
ロヴィーノがそれを見て少しだけ複雑な表情を浮かべた。
そのロヴィーノに対してもギルベルトは振り返ると少し笑いかけて
「あとで説明する」
とフォローをいれると、また水野を振り返った。
「えとですね、実は夕食の時間ということを全員に知らせて回っているんですけど、斉藤さんだけ自室にもいないらしく、連絡が取れなくて係の方が困ってるらしいんです。
それで、もしご存知でしたら斉藤さんの携帯電話の番号を教えてもらえないかと思いまして。
もし番号を教えるのが差し支えあるという事でしたら、水野さんの方で番号を回してもらって通話終了後履歴を削除という形を取って頂いても構わないんですが、お願い出来ないでしょうか?」
「あ、はい。わかりました」
水野は差し出された携帯を受けとって番号を押して、ギルベルトに返す。
それを耳に当ててコール音5回。
電話は留守電に変わった。
ギルベルトは電話を切って首を横に振る。
「どうしようか?」
ロヴィーノが少し眉をひそめるのを軽く制して、ギルベルトはまず水野に
「ご協力ありがとうございます。お手数おかけしました。
今かけてみたのですが斉藤さんが出られずに留守電に変わってしまったので、一応許可もらってない電話番号ですし今はいったん履歴を削除させてもらいますが、このまま斉藤さんの行方がわからないようならまた電話をかけて頂く様お願いする事もあるかと思います。その時はお手数ですけど、宜しくお願いします」
と、笑顔で礼を言って頭を下げた。
「あ、はい。わかりました」
水野もそれに応えて軽く会釈をする。
「助かります。ありがとう」
とギルベルトはにこりとそう言うと、軽くロヴィーノの腕をとって部屋の隅へと移動する。
「とりあえず…もう食事で俺らが席つかないとみんな食えないし、聞きたい事は山とあるのはわかるけど、詳しい説明は後で部屋ででもしてやるよ。今は一番大事な一つだけ。
お前より水野さんに対する対応を優先したのは親しさの違いだ。
親しい相手ほどフォローが遅れてもそれまでの人間関係を考慮にいれて許容してもらえるという認識の上で俺は行動してるから」
「お前…大人だな…」
ロヴィーノは素直に感心して言った。
確かに聞きたい事は山とあったが…絶対的に必要で絶対的にして欲しかった説明は今ギルベルトが言った一点だけな気がする。
自分と対峙していても他の人間の事も視野にいれ、それでいて自分との人間関係が致命的にならない程度のフォローはいれる…その気の使い方は自分と一歳違いの人間のそれではないと思った。
少なくとも今まで自分の周りの学生にはそんなことまでできる人間はいなかった。
至れり尽くせりとかなわけでもないのに心地よい、絶妙な気の使われ方だと思う。
こうしてリビング組はダイニングに移動し、自室組も続々と降りてきてダイニングの席につく。
もちろんそこには斉藤の姿だけない。
自室のある2Fからアントーニョを伴って降りてきたアーサーは一つ空席になっている斉藤の席を凝視した。
「斉藤さん…探さなくていいのか?」
斉藤の席から視線をギルベルトに移して聞くアーサーに、ギルベルトが答える前に古手川が答えた。
「どうせすねてどこかに隠れてるんだろう。
心配して探したりすると図に乗るタイプだ。
一食や二食抜いた所で死にやしないし、普段からダイエットと称して栄養補助食品とか持ち歩いてるから、案外どこかに隠れて食ってる可能性もある」
好意的見方とは言えないが、確かにパッと見そういう印象がなかったとは言えない。
「まあ…島だから勝手には帰れないし窓から抜け出たとかじゃない限り玄関からは出た様子がないから、建物内にいる事は確かだし、一応時間外でも簡単な物は用意できるだろ?」
と、最終的にギルベルトが言うのを聞いて、アーサーは納得した。
とりあえずそれは一旦保留ということで、アントーニョがアーサーのために椅子を引き、アーサーが座るとアントーニョもその隣に座る。
「アーサー君、大丈夫?まだ顔色悪いけど…」
まだ若干顔色が悪いアーサーの様子に綾瀬が声をかけてきた。
その声にアーサーは顔をあげて綾瀬の姿を認めると、
「はい。大丈夫です。ありがとうございます」
とニコっと微笑む。
綾瀬はアントーニョ的になんとなく嫌な感じとは無縁の人物だ。
という事で、誰がアーサーに向かって短剣を落としたのかはわからないが、自分の勘を信じるならば、綾瀬はとりあえず安全な人物ということか…と、アントーニョはチェックをいれた。
自分達をのぞくとあとはフランシスとギルベルト、それにロヴィーノは加害者にはならない人物ということで、あとはとりあえず様子見だ。
「アントーニョ…さっきはその…邪魔してわりい」
色々考え込んでいたアントーニョにロヴィーノが紅い顔で声をかけてくる。
まだ誤解してるな…と思うものの、そこでその誤解をしている原因を説明するとアーサーが羞恥のあまり逃げ出しそうなので、
「気にせんといて」
とだけ答えておく。
「…邪魔…ねぇ…」
せっかくそれを軽く流そうとしているのに、そこでフランシスがニヤニヤと笑った。
まあ…おかしな想像するのはこいつくらいだろう、と、殴ろうか迷っていると、何故か結構大勢が赤面しているのに気付いて、内心焦るアントーニョ。
「ロヴィーノが…例によって勘違いしたままだったな、そう言えば」
そこでギルベルトが気付いてフォローをいれた。
「例によって…なの?」
それに空気を読む綾瀬が乗ってくる。
「ですです。そそっかしいとこあっから。
アーサーの様子見に行ってトーニョが寝てるアーサーの熱はかろうと額押し付けてんの見て、誤解して飛び出した挙げ句に正面の空き部屋に逃げ込んだと思ったら、10分もしないうちに寝てるし。
で、俺がこいつ発掘してこいつの部屋に返した…という出来事が…」
「あはは、面白いな、高校生組」
明るく笑う綾瀬。
釣られて一部を除いて他も笑う。
「あそこ…俺が仕入れてきた生地とかも色々置いてあるし、ボタンとかも変に落としたりすると割れる事あるし、ここ島だから足りなくなっても補充も効かないから、できれば不用意に入らないで欲しいんだけど」
例外組の松坂が、若干表情を硬くして注意してきて、ロヴィーノは
「わりいっ!」
と、慌てて謝罪した。
「荷物置き場になってると思わなかったから。
次から気をつけるな?ホントわりい」
ロヴィーノの言葉に松坂はさらに
「何も…落としたりとか踏んだりとか…変わった事してないよな、ロヴィ?」
と、確認をいれる。
「…実は俺いつのまにか変な夢見ながら寝ちゃってたみたいで…たぶん何もいじってないと思うんだけど…」
「変な夢?」
松坂が眉をよせると、ロヴィーノがうなづいた。
「えと…壁にお化けが浮かび上がってて…なんかウ~ウ~呻いている夢」
「まさかそれでうなされて部屋で暴れたりしてないよな?!ちょっと見てくるわっ!」
ロヴィーノの言葉に松坂は青くなって席を立ち上がると、2階へとのぼって行った。
その松坂に青くなるロヴィーノ。
助けを求めるようにギルベルトを振り向くと、ギルベルトは
「大丈夫。俺様がお前発見した時には特に散らかしてる様子なかったし」
と笑顔でうなづく。
「マジで?良かった~」
ロヴィーノがその言葉に胸をなでおろした。
「ま、一応俺らも色々余分に用意してきてるしな、大丈夫だよ、ロヴィーノ君」
綾瀬もそれに笑顔でフォローをいれる。
「まあ…一応素材管理任せてたし松坂も少し神経質になってるのかもな。
いいや、みんなとりあえず先食べようぜ」
最終的にギルベルトがそう言って食事が始まった。
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