悪意の連鎖
二人して連れ立って廊下に出た瞬間、ホッとすると共にこらえてたモノが溢れだしてロヴィーノは嗚咽をもらした。
それに対してギルベルトは何も言わないし何も聞かない。
ただなだめるようにポンポンとロヴィーノの背中を軽く一定のリズムで叩く。
そうして少し泣いて落ち着いてきたとたん、たった1歳しか違わないはずなのに…自分もこいつも兄貴のはずなのに…と思って少し悔しさと恥ずかしさが襲ってきて、ロヴィーノはゴシゴシと乱暴に目をこすると、
「とりあえず、アーサーの様子だけちょっと覗いて、それから話聞く。」
と、ギルベルトが止めるのもきかずに、ずんずんと客室のある2階へと登っていった。
そして…
「おい、アーサー大丈夫か?」
と、当たり前にノックもせずドアを開けて硬直………
「うあぁああ~~!!!!わりいっ!!!!」
ベッドに横たわっているアーサーに覆いかぶさっているアントーニョを見て、動揺しつつ叫んで脱兎のごとく逃げていくロヴィーノ。
「…おい…どうした?」
と、それをとりあえず見送ってギルベルトがヒョイっとドアの間から顔をのぞかせると、ぽか~んとドアを見て呆けているアントーニョ。
「えーと…熱はかっとったんやけど…なに?」
と、まったくわけがわかりません状態のアントーニョに、ギルベルトは、あー、と、額に手をやって苦笑した。
「いや、あれじゃね?額くっつけてんの見て、お前が襲ってるように見えたんじゃね?」
実際あの様子を見ると間違いないと思いつつ言うと、アントーニョは
「さすがに…親分でも体調悪いあーちゃんに手出したりせえへんわぁ」
と、呆れたようにため息をつく。
「うん…まあ…そうなんだろうけどな。」
とやはり苦笑交じりに言うと、ギルベルトはとりあえず先ほどの小手川と高田、水野の話をサラっとアントーニョにも伝えておく。
一通り聴き終わって、さぞや感情的になるかと思ったアントーニョは意外に平静だった。
「教えてくれておおきに。
ま、親分は自分が嫌がらせの一つや二つ受けたところで痛くも痒くもないし、あーちゃんからは離れんように守っとるから大丈夫やで。
それよりギルちゃんこそ、気ぃつけや?
なんや厄介な事に巻き込まれそうな感じやん。」
「そう…か?」
「うん…なんとなくそんな気ぃするねん。」
アントーニョは考え過ぎない分、勘が良い。
その“なんとなく”は意外に馬鹿にできないのは、付き合いの長いギルベルトは身にしみている。
そこで
「ああ、サンキュ、気をつけるわ。」
と、素直に答えるとアントーニョは肩をすくめた。
「別にギルちゃんはどうでもええんやけどな。
今ちょぉロヴィが不安定な気ぃするから、任せられるのがいつも1人楽しすぎるギルちゃんしかおらんから。」
「おいおいっ!!」
アントーニョが本気なのか冗談なのかは誰にもわからない。
ただ、確かにロヴィーノはここのところ少し情緒不安定気味だというのはギルベルトも感じていた。
「まあ…確かにあいつちょっと沈んでるみてえだから、これから話聞きがてら信頼関係築いてみようかとは思ってっけどな。」
と言うと、それだけは本心らしく、アントーニョは真面目な顔で
「ああ、そうしたって。
あの子はちょっと不器用やさかい、嬉しいことも辛いことも上手に表にだせへんから。
あんじょう頼むわ。」
と、気遣わしげに少し眉をよせた。
「親分が見てやれたらええんやけど、やっぱな、この子達みたいに不器用な子ぉは1人で2人は無理やねん。
下手すると両方ダメにしてまうから。」
滅多に見ない少しつらそうな真剣な表情に、ギルベルトは庇護者にはどこまでも優しいはずのアントーニョのアーサーに対する本気を見た気がした。
「ん。まあ頑張ってみるわ。じゃ、ロヴィーノんとこ行ってくら。」
と、これも真剣に言うギルベルトに、
「頑張ってみるとかあかんわ。
頑張ってみる程度でダメやったら、ギルちゃん明日の太陽拝められなくなるで?」
と、アントーニョはいつもの黒い笑みを浮かべてひらひらと手を振った。
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