孤独と癒し
一方で気分が悪くなったアーサーを抱きかかえて部屋を出たアントーニョを見送ったロヴィーノは少なからぬショックを覚えていた。
アントーニョは自分に一言もなかった…というか、その瞬間、存在すら忘れ去っていたのではないだろうか……。
今までなら…とりあえず友人が気分が悪くなった事を気にかけるであろうロヴィーノに、大丈夫やでとか、心配せんでええよとか、なんらか気遣う言葉をかけるのが常だったのだが、あの瞬間、アントーニョの目には100%アーサーの事しか映っていなかった。
アントーニョがアーサーを好きなのだと知った時、自分もアーサーの事が好きだったロヴィーノはアントーニョに対してライバル心を抱いたものだが、そのアントーニョの恋が実った時――実際にはロヴィーノが知らなかっただけでその時はすでに実っていたのだが――逆にロヴィーノに対するアントーニョの気持ちがなくなると言う事は全く考えていなかった。
ただの幼馴染と最愛の恋人…比べるまでもないわけだが、本当に今まで全く意識をしてなかったのだ。
アーサーにとってアントーニョが一番で…アントーニョにとってもアーサーが一番で…そんな当たり前の事に軽くショックを受ける。
ああ、そうだ。
今まで他に友人がいなかろうが、親の期待が一心に双子の弟に向かってようが、孫バカの祖父がそれでも自分の趣味のスケッチ旅行に弟だけこっそり連れて行ってようが、アントーニョだけは唯一ロヴィーノを一番に考えてくれていた。
それが当たり前すぎて、その好意が消える、もしくは薄れるなんて事は考えてもいなかった。
自分はアーサーの一番になってアーサーを一番にしたいと思っていたのに、アントーニョもそうだろうと言う当たり前の事を想像していなかったのだ。
別にアントーニョと恋人になりたいなどと思った事は一度もなくて、今も思っていないわけだが――自分には誰もいない……それがひどくショックだった。
ああ…ダメだ…泣きそうだ……。
そう思って俯くと、綾瀬が心配そうに
「ロヴィーノ君も大丈夫?なんだか顔色悪いけど…」
と、気遣ってくれる。
ここで体調が悪い…と、アントーニョを呼んだら果たして来てくれるだろうか?
いや…来るはずがない。
もうあの大きな手はアーサーのものなのだから。
口を開いたらなんだか泣きそうで、ロヴィーノは俯いたまま無言で首を横に振る。
いや、すでに手遅れかもしれない…。
鼻の奥がツンとして、視界がぼやけ始めた。
…と、その時
「あ~すみません。
こいつは俺が見とくんで、綾瀬さん、ちょっと水野さんと居てあげてもらっていいですか?
ちょっとばかし馬鹿様と色々あったりとかして怯えてるんで…」
頭上で声がして、腕を掴まれ、頭をグイっと引き寄せられる。
そのまま立ち上がらされる形でギルベルトの肩口に涙が溢れだした顔を押し付けられた。
シンプルな石鹸と…おそらく暑い外から帰ったせいか、汗の匂い。
――とりあえず色々報告してえから部屋行こうぜ?
ロヴィーノの様子に気付いているくせに敢えてそれには触れず、極々普通の口調でそう言うギルベルトにホッとして、ロヴィーノは身体の力を抜く。
こいつは何でこうタイミング良く現れて今一番して欲しい行動を取るんだ…と、ロヴィーノは舌打ちをした。
悔しい…でも泣けるほどホッとする……嬉しい……。
ひどいショックから一転、ひどく癒されてホッとしたロヴィーノは、その自分達を見る怒りや悲しみ…その他負の感情が色々入り混じった視線があることに気づくことはなかった。
こうして負の連鎖がつながっていく。
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