人魚島殺人事件 前編_9

淡い思い


「あ、高田からメール。
ちょっと構図みたいからギルベルト君と水野に来て欲しいって。」
その時綾瀬の携帯の着メロがなって、メールを確認した綾瀬が顔をあげた。

「ああ、了解です。」
ギルベルトは快諾して立ち上がって
「行きましょうか。」
と水野を振り返った。

そして二人は共に古手川達の待つ別荘の裏側の遊歩道をずっと行った先にある岬に向かった。

考え事をしながらスタスタと歩くギルベルト。
その後を水野が小走りについて行く。
その足音にギルベルトはツと足を止めた。
「…?」
急に足を止めたギルベルトを水野が不思議そうに見上げる。
「すみません。」
ギルベルトは謝罪した。
「歩くの速かったですね。」
ギルベルトは元々いつも時間に追われるような生活をしていたためかなり早足気味だ。
本来景色を楽しむという習慣をあまり持ち合わせない人種なので、歩くというのはあくまで移動手段の一つであり、それだけならゆっくり歩く意味もない。
悪友達とかがいればそれでも皆とじゃれあいながらゆっくり歩いたりもするのだが、その時は大抵ふざけあってるわけで…。
じゃれてくる相手がいない、それはすなわちゆっくり歩く意味がない時と、頭で考えるより体がそう認識していた。

「あ、ううん。気にしないで。俺が遅いのが悪いんだから。」
水野はちょっと気まずそうな笑みを浮かべて答える。
その自意識の低そうな…自信のなさそうな様子はなんとなくギルベルトに憐憫のようなものを感じさせた。
水野は確かに年上なのだが、背も低く体格も華奢で年上という感じがしない。
むしろ庇護対象の年下の少年のようである。
彼はどこか寂しげで悲しげな…一口で言うなら薄幸さのようなものを漂わせていた。

「すみません。もう少しゆっくり歩きますけど、早かったら言ってやって下さい。」
自分がキツイ印象を与える容姿をしているという自覚のあるギルベルトが努めて柔らかい笑みを浮かべて言うと、水野は内気そうな感じの笑みを浮かべて
「ありがとう…」
と小さく礼を言った。


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