「アーサー君、大丈夫だった?見たところ怪我はないみたいだけど…」
と声をかけてきた。
それが何を示すのか…思い当たる事は一つしかない。
「ああ。松坂さん、見てたのか?」
アーサーが聞くと、松坂はうなづいた。
「うん。日の光の下で生地の色見たくて少しだけ庭に出た時にね、テラスの方に君達が見えたからああ、あんなふうに一休み出来る場所あるんだなって見てたんだけど、立ち上がった時に何か…あれ透明な短剣みたいなもの?が落ちて来たの見えて…。でも特に血とかも見えなかったから大丈夫なのかな~って思って部屋に戻った。」
「落とした奴、見たん?」
アーサーがそれに答えようとするのを押しのける様に、アントーニョが一歩前に出て松坂に詰め寄った。
その勢いに松坂は逆に一歩引いて
「ううん、顔までは見えなかった…。でもチラっとオレンジの影が見えた様な…」
「オレンジの?」
アーサーはちょっと眉をひそめた。
「ちょ、斉藤じゃないのか?それ!」
ロヴィーノが眉を吊り上げて立ち上がった。
「それだけでそう決めつけるのは良くないんじゃないか?」
騒然となる中、アーサーは淡々とそう口にした。
「でも動機も充分じゃないかっ!」
もう頭の中では斉藤有罪説ができあがっているらしきロヴィーノに対してアーサーは
「物証がない。松坂さんは”見えた様な”って言ってるだけだしな。
そんな曖昧な証言で有罪判決出すのはあまりに早急だと思う。」
と、あくまで冷静に答える。
しかし怒りが収まらないのはロヴィーノだけではない。
「物理的には今ここにいなくて一人で上に行く事ができたんは、モデルとしてきた3人と、馬鹿様、高井さんやんな?平井さんと綾瀬さんとフランとギルと松坂とアルフレッドはずっとここにおったって仮定してな。」
と、今度はアントーニョが口を開く。
「で?」
と、滅多にないアントーニョの論理的な会話に、フランシスは腕組みをしてニヤニヤしながら面白がって先をうながす。
そんなフランシスにアントーニョは不快そうな視線を返した。
微妙に緊迫した空気が二人の間を流れる。
「古手川さんと高井さんは窓から戻るくらいの事しないと玄関通ったならリビングの人間に気付かれるな」
その空気を割り開くように声がする。
「ギル…」
アーサーがホッとしたようにようやく動いてくれた迷探偵の方に目を向けた。
そんなアーサーにチラリと視線をやって、ギルベルトはアントーニョの隣に行って小声で
「お前がピリピリするとアーサーが動揺する。」
と、まずアーサーを気遣う。
「そうやった。」
アントーニョはそこでようやく肩の力を抜いて息を吐き出した。
「まあ…とりあえず大事には至らなかった事だし、完全に特定はしない方がいいな。
食事の時に警告するくらいにしておこう。
追いつめてもかえって余裕をなくした相手が暴挙にでる可能性あるし。」
最終的にアーサーがそう言って、その話はいったん終了となった。
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