「とりあえず俺がMサイズ組、綾瀬がSサイズ組の採寸すっから。」
と、最終的に決まったらしく平井が手招きをする。
そして部屋の端に分かれて採寸を始めた。
「これだけの美形揃いだと服もきっと映えるだろうし、嬉しいな。」
喜々としてSサイズの組の採寸をしながら綾瀬が言う。
「二人のタイプが違うのも服作る方としてはありがたいね。
それに馬鹿様が連れて来たモデル達、彼らも丁度水野君や斎藤君は色白くて体格がアーサー君に似てるし、淡路君は日似焼けててロヴィーノ君に似てるから、構図撮ったりとか仮縫いする時に使えるんじゃないかな。」
馬鹿様にあれだけ言われたにも関わらず、綾瀬は冷静なだけじゃなくてそれなりに空気を大切にするタイプらしい。
さりげなく古手川が連れて来た3人にも気遣いを見せるあたりが、なかなか好感が持てる。
しかしそこで少し安心したアーサーが
「じゃあ…何着かはあの人達で撮ったりとかダメですか?」
とお伺いをたてると、それにははっきり
「う~ん、俺もね、”自分の作品”として発表するならベストな状態の物を撮ってもらいたいんだ。
だから、やっぱり本番はアーサー君とロヴィーノ君で行きたいかな」
とやんわり拒絶した。
空気は大切にしながらも、そこは譲れない一線らしい。
一方Mサイズ組。
柔らかい雰囲気の綾瀬とは逆に淡々と採寸をすすめる平井。
「こんなもんかな」
と、一通り採寸を終えるとメジャーをしまい、
「君達に一つ忠告」
とニコリと口元だけで微笑んだ。
「一応ね…ヘルプさんだし場所も提供してもらってるし、皆丁重にもてなすべきだし実際そうするんだろうけどね、あくまで”撮影”が目的で集まってるからね。
空気というのもあるし、監督はたててあげてね?
古手川さんは気難しい上に気分屋なところがあるから…何度も撮り直ししたくないでしょ?暑いし。
言うだけはタダだからさ。別にへつらえとは言わないし、どうしても嫌な事は嫌って言うべきだけど、無駄に神経逆撫でする言い方しても仕方ないからさ、まあ同じ事言うんでも言い方違えば要求の通りも違ってくると思うから、上手くやろうぜ。」
(大人の都合…だな)
とフランシスは何度も苦渋を舐めさせられて来たその曖昧にして不可解な、しかしおそらく必要な理屈に、内心苦笑しするが、誰もが感情のままかき回している人間関係の中で冷静な平井の忠告に感心しつつも納得する。
「はい、どちらにしても年長者ですし、尊重はするつもりです。ご忠告ありがとうございます」
アントーニョは不満気に口を尖らせるが、フランシスはしごく真面目に平井にそう礼を言った。
そのフランシスの態度に平井は少し目を見開いて、次の瞬間にっこりする。
「有名デザイナーの一人息子でエリートなのに意外に腰が低くて礼儀正しいんだな、フランシス君。
安心した。
ああは言ったけど、俺とかは裏方だから要望とかこうして欲しいとかは遠慮なく言ってくれよな。
監督に何か通したい時とかでも、言ってくれればフォローはするからさ。良い絵を撮ろうぜ」
特に権力主義とかではなく、おそらく撮影を円滑にしたいだけらしい平井に、フランシスは少し好感を感じた。
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