コードネーム普憫!腐女子から天使を奪還できるか?!1章_4

こうして連れて行かれたベンチにうながされるまま座ると、
「本当はカフェとかの方がいいのかもしれねえけど、人居ない方が良いだろ?
目、赤いし」
と、苦笑しながら途中で買った缶ジュースを渡してくれた。

「すみません……」
気を使わせた…とうなだれると、

「いいって、いいって。気にすんな。
俺様の方がこうなる事予測して早く来るべきだったってのもあるしな。
それに高校生にいきなり大学のキャンパスとか敷居高いよな。
俺様の方がアルトの高校に出向いてやれば良かったな」
と、ぽんぽんと軽く頭を撫でてくる。

アーサーは友人もほぼいないし、親は忙しくてあまり構ってくれる事はなかったし、姉はああいう人間なのであまり近くに人がいる事がなく、そのせいもあってパーソナルスペースが非常に広い方なのだが、ギルベルトに関しては全く気にならない。

頭を撫でられるのがとても心地いいとすら思う。

しかし続くギルベルトの
「で…桜にアルトが俺に話したい事があるから会いたいって言ってるって言われたんだけど……?」
という言葉に酷く動揺した。

語尾が疑問形なのは、やはりあれだろうか…。
姉が腐女子なので姉の指図とか若干思われたりしているんだろうか…。
どうしよう…どう切り出せば良い…?

焦れば焦るほど言葉が出ない。
怒っている様子はないが、やっぱりあの姉の弟だから信用はされてない?
疑われている?

思考はどんどんマイナスの方向へ、まるで下り坂に放り出したボールのようにものすごい勢いで転がって行く。

ダメだ…もうダメだ……
こんなに良い人に嫌われた……

出さなければならない言葉の代わりに溢れ出てくる涙。
とうとうシャクリをあげ始めると、

「あ~、ストップ!俺様が悪かった。
俺様の要件から話して良いか?」
ぱふっと目元にあてられる薄いグレーのチェックのハンカチ。
一瞬クールで…でも次第に甘く明るい感じになっていく、まるでギルベルトそのもののような香り。
それに包まれているとなんだかホッとした。

少し落ちついてアーサーのシャクリがおさまって来たのを見計らって、
「とりあえずちょっと飲んで落ちついて聞いてくれ」
と、ギルベルトはさきほど渡してくれたミルクティの缶のプルトップを開けて、アーサーの手に持たせてくれる。

色々言わなければならない事があるのは相変わらずだとは思うのだが、その非礼も全て前回のものと合わせて後で謝罪しようと、アーサーは頷いて、ミルクティを一口。

その甘いまろやかさに少し癒されて、黙ってギルベルトを見あげて言葉を待った。

「とりあえずな、俺様の方の状況を説明するな?」
と、そこでギルベルトは静かに…柔らかい調子で話し始めた。



「聞いてるかもしれねえけど、俺様はエリザと従兄弟同士で、桜とは小学校からの同級生だ。
エリザが腐女子だってのは知ってて、原稿とか手伝わされたりする事はあったけど、モデルとかそういうのは基本的に断ってる。
桜は転校生でな、クラスに馴染めずにいたのを当時の学級委員だった俺様が色々面倒見たのもあって、何故か俺様の事を師匠って呼んでて、それからも何かにつけて頼ってきたりしてたのな。
理系苦手だからって勉強みてやったりもしてたし?
フランソワーズに関しては俺様は直接の知り合いではないけど、エリザと桜の仲の良い友人ていう認識だった。
まあ一度エリザに騙されて3人のモデルやってっから、全員腐女子だってのは知ってたんだけどな。
今回に関してはなんつ~か…エリザからまずモデルやれって話があって断ってんだ。
で、あいつ姑息でな、桜に当日俺様が来ると嘘ついてな、桜は俺様に懐いてんのもあって、すごく嬉しそうに久々に休日一緒だとか言うから、なんていうか…断れなくなっちまったんだよな。
あいつにとって俺様が頼れる師匠なら、俺様にとっては桜は可愛い弟子みたいなとこあるから。
あ、でも桜は本当に悪気はないんだぜ?
あんまり人づきあい得意じゃねえから、発想がだいぶズレてるだけで…。
今回もな、自分が大事に思ってる内気な子がいて、内気だった自分と仲良くしてくれた師匠ならきっと仲良しになってくれると思いますとか、そんな事言ってたしな」

…わかります…
と、アーサーもそれは頷いてみせる。

確かに姉達には何度もモデルと称して色々な服をとっかえひっかえさせられて引っ張り回されたが、当たり前に、『時間がないのよ!さっさと着替えなさい!』と急かす姉と違って、『アーサー君、大丈夫ですか?疲れませんか?これ良かったらどうぞ』と、気遣ってお菓子を差し入れてくれたりしていた。

同じ腐女子でも桜が実姉だったら良かったのに…と、何度思ったかわかりはしない。

今回ギルベルトを呼びだすのだって姉を通したりしたら、ネタのために何をされるかわかりやしない。
桜だったからこうしてただ謝るためだけに2人だけでゆっくりと会えるように取り計らってもらえたのだ。

と、それを伝えるとギルベルトはホッとしたように、だな、と、それに同意したあと、少し考え込んで…そして
「余計なお世話だとは思うんだけどな…?」
と、アーサーの顔を覗き込んできた。

「アルト…あの時も言ったんだけどな、好きでフランソワーズの趣味とかに付き合ってるわけじゃねえよな?」

ギルベルトの癖なのだろう。
また頭を撫でてくる。

その手が心地よすぎて……

泣きたくなった…。
手が大きくて温かくて…さっきまでの動揺や焦りや悲しさと違って……

「わりっ!なんか気に障る事聞いたか?!
ぎょっとして慌てて離れそうになるギルベルトのジャケットの胸元をつかむ。

「…ちがっ……やじゃな…っ……」
必死に頭を振ると、ギルベルトは、
「あ~、わかった、わかったから、落ちつけ。な?」
と、そんなわけのわからない反応でも察してくれたらしい。

優しくなだめるように背中をさすってくれるギルベルトに安心して、アーサーは自分の事を全部ぶちまけた。

決してわかりやすくもなく、泣きながらグダグダだったが、それでもギルベルトは忍耐強く話を聞いてくれた。

「…可哀想だったな」

アーサーが全てを吐き出し終わると、ギルベルトは言って頭を撫でると、座っていたベンチから立ち上がり、そして、ほら、と、手を差し出した。

「…え……?」
ぽかんとアーサーが見あげると、少し身をかがめて

「そう言う事なら家族の転勤で広い家に絶賛1人お留守番中の俺様の茶飲み友達第一号に認定しても大丈夫そうだよな」
と、笑ってまた頭を撫でて来る。

「ということで、ここから徒歩20分だし行こうぜ」

と、さらにそう言ってアーサーの手を取って立ち上がらせると、ギルベルトは大学の入口の方に向けて歩き始めた。


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