亀裂
一面に広がる青い空。
白い豪奢な別荘はちょっとしたプティホテルくらいあり、その正面には白い砂浜。
島全体が個人所有ということは、もちろん当たり前にプライベートビーチだ。
さらに別荘をはさんで海と反対側にはプールまである。
「さすがカークランドの別荘だな。北洋や二流の都立の人間の家じゃこうは行かない」
別荘側面にある船着き場につけた船から荷物も持たずに駆け下りる馬鹿様こと古手川宗佑。
ちなみに…今回参加したメンバーは、デザイナー志望の綾瀬、スタイリスト志望の平井の北洋大二人組、監督の古手川、カメラの高田、モデルの水野、淡路、斉藤の3人組は全員尚英大である。
その他は悪友3人+アーサー+ロヴィは海陽学園で、ロヴィの親友の松坂と、その友人で音響担当のアルフレッドは都立政友高校だ。
「別に別荘と学校なんざ関係ないと思うけど?。
確かにうちの学校は若干親が金持ちな子が多いっちゃ多いけど、北洋大と尚英大なんて対して変わんないだろ」
そんな中での発言にアーサーが眉をひそめると、自分のボストンを手に降りてきたギルベルトがその意志を察したように口を開く。
「いやっ!偏差値が全然違うぞ!頭がいいという事はだ、最終的に就ける職業、達成出来る仕事の質もおのずから…」
「あ~、もう尚英なんて政経だけだろ?そういう意味で差があるのは。あとは50歩100歩だって。」
ムキになって主張する古手川の言葉をさらにギルベルトが面倒くさげに否定した。
そしてそれにそれまで松坂と楽しげに話していたアルフレッドが突然
「それに学校と人間性は必ずしも一致してるってわけじゃないしね☆
学校選びってしばしば親の財力がモノを言うからね☆
小手川さん、周りからは馬鹿様って呼ばれてるらしいけど、どうして馬鹿様なのかわかったんだぞっ。
親の財力で学校入って、親の財力で対人関係築いているからなんだねっ☆」
と、きらり~んと白い歯を見せて笑う。
いやいやいや、お前そこまで言っちゃう?
もしかして…今まで松坂とその話してたんだよな?
でもそれ公で言っちゃダメな話じゃないのか?
喧嘩売ってる?
その言葉にまた古手川がヒクっと引きつるのを見て周り中が青くなるが、本人は全く悪気も他意もないらしい。
「今回は親いないし、良い映像が撮れたら初めて脱馬鹿様だねっ☆
頑張ろうっ!!」
と、にこやかに親指を立てた。
『…すげえな……KYさ加減でトーニョを超える奴がいるとは思わなかった…』
小声で隣のロヴィーノにささやくギルベルトに、青ざめた顔色のまま無言でうんうん頷くロヴィーノ
なんだか収集がつかなくなりそうな空気に、しかし空気が読めるフランシスですらどう介入したらいいのかわからず無言になるが、そこでアーサーが
「まあ…学力だけなら俺だって普通に東大、早慶くらいはいけるけど、だからといって人間性まで人格者なわけじゃないから。」
と、その話を打ち切るように肩をすくめて別荘に皆を促しつつ、先にたってアントーニョと共に歩き出すことでなんとか空気が動き出した。
「なんだよ、あいつ。ちょっと金持ちなくらいですっごぃ失礼だなっ!」
斉藤がふくれるが、古手川はそんな斉藤を突き飛ばすと
「カークランド君を怒らせるな!この馬鹿!」
と怒鳴って、
「待ってくれ、カークランド君っ!」
と、先に行くアーサーを走っておいかけた。
「監督…ちょっと我が儘で気難しいところあるから、失礼な事言ってごめんな。気にしないでくれ」
皆が荷物を手に下船する中、最後に古手川の分の荷物まで抱えた高井が降りてきて、残った専門二人組と高校生組達の前でわざわざいったん荷物を置いてぺこりとお辞儀をすると、また荷物を抱えて走り出して行った。
「良い奴だな、あいつ。なんであの馬鹿様にお仕えしてるんだ?」
馬鹿様、モデル3人組と、つっかかる連中に混じって妙に腰の低い高井を見送りつつ聞くギルベルトに、同じくそれを見送っている松坂が答える。
「あ~、高井さんはね、父親が古手川の親父の古手川宗英の部下なんだよ。
だから親の立場的強弱をそのまま子供にも持ち込まれちゃってるけど、あの人は政経だから、学生としては相手の方が能力上なんだけどな。」
「交友関係まで親の七光りか~。さすが”馬鹿様”の名に恥じないな」
そこでギルベルトが肩をすくめて、自分の荷物を持って歩き始めた。
フランシスとロヴィーノもそれを追う。
「ま、その馬鹿様もさ、親に”七光り”でしか物作れないなら普通の職につけって言われてるらしくてさ、カークランド君に近づいてその援助受けたり、あわよくば公私共にパートナーにでもおさまりたいってことみたいだぜ。」
平井の言葉にロヴィーノは目を吊り上げた。
「ばっかじゃないか!何それ?!」
それに憤るロヴィーノをフランシスがまあまあとなだめる。
「アーサーの方はトーニョ一筋で全く相手にしないし、放置でっ。
ま、欲得づくじゃなくても、あの嫉妬心と独占欲+人並み外れた腕力の持ち主のおっかない恋人がいるのに横恋慕なんて無理でしょ。」
まあ…確かにその通りだ。
アントーニョはあれで容姿は良い。
同じ中背中肉でもしっかりと鍛えあげられて筋肉のついた褐色の肌に精悍だが甘いマスク、普段は明るい…だが、時にゾクリとするような色気のある声と、まあ他人を惹きつける要素はそろっている。
そんな男が全身全霊を込めて親愛を示し、愛情を語り、おはようからおやすみまで細やかに世話を焼きながらガードしているのだ。
さらに一番つらい時に支えになったという事もあって、アーサーもアントーニョに身も心も全てを預けきっている。
お互いがお互いがいれば幸せ状態の2人で…だからロヴィーノだってアーサーを思う気持ちは負けないと思いつつも、アーサーの幸せを願って諦めたのだ。
よほどの男でも奪い取るなんて無理だし、ぽっと出の奴に奪われるなんて冗談じゃない。
そんな不穏な空気を発しながら一同はそれぞれ部屋に落ち着いた。
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