迷探偵ギルベルトの事件簿後編4

そして一階に降りていき、数人の警察が見張っている居間へ足を踏み入れるギルベルトとアントーニョ、そして証拠物件を入れた箱を手にお供のようにつき従うトーリス。

繰り返すが…どちらが警察なのかよくわからない。


――途中までは任せた。さっき話したような手順で頼む。

と、そこでいきなりアントーニョに小声で依頼すると、ギルベルトはポンと軽くその肩を叩いてアーサーとジェニーが寄り添うようにしているロヴィーノの元へ。


いつもならここまで来るとギルベルトの独壇場なのに?と、トーリスが不思議そうな視線を向けると、アントーニョは少し苦い笑いを浮かべて

――あ~…今回はロヴィにはキツイ思いさせる状況やし、こうなったのもギルちゃんの巻き込まれやから、出来る限りフォローいれてやりたいんやて。せやから今日は前半は親分が迷探偵や。ま、顛末は全部ギルちゃんから聞いとるから安心して任せたって。

と、トーリスに説明をいれ、その後ぱんぱんと注目を集めるようにリビングのテーブルを囲んで座る面々の方を振り返って手を叩くと、

「ほんなら、これからわかった事とかまとめてくから、皆聞いてや~。
質問はあとで受け付けるから、途中のおしゃべりはなしなしやで?
せやないと親分、ちょぉっと力入り過ぎてまうかもしれんからな

言って、にこやかにポケットからクルミを出して、バキっとそれを握りつぶした。


ひぃぃ…

と、青くなる中には何故かトーリスもいたりする。


そう言えば…

1人は頭脳1人は1人はコミュ力、で、それを一身に引きつけるお姫さん
4人揃って引き抜ければ最強なんだけどなぁ…』

と、サディク警視が呟いていたのを思い出した。


サディク警視本人もかなり賢く強く、下手な仲間などいなくても大丈夫そうなイメージなのだが、確かにこれは一般人を遥かに超えていると思う。

ちらりと頭脳が駆け付けた先に視界を向ければ、そこには今日はユニセックスなずいぶんと可愛らしい感じの服装をしているお姫さん。

もう一人、確か前回も犯人にしたてあげられていた綺麗系の後輩の男の子。

どうやら今回はコミュ力の彼は不在らしい。


いつもの頭脳役と違って力…な彼が、今日はどんなやり方でこの事件を暴いて行くのか…。

殺人事件を前に不謹慎だとは思うのだが、少し楽しみになってくるトーリスがいた。


「ギル、どうなってるんだ?」
と、近づいてくる相方に不安げな様子を見せるロヴィーノに、ギルベルトは少し困ったように眉根を寄せ、

「途中…ちょっと嫌な思いさせっかもしれねえ。
でも最終的には絶対に暴くから、ごめんな?」
と、少しずれて席を譲ってくれたジェニーに軽く手をあげて礼をすると、ロヴィーノの隣に座る。


「先生…行かないでいいの?」

と、少し休憩という雰囲気ではなく、いきなりどっしりと落ち着いてしまったギルベルトにジェニーが目をぱちくりしながら、ギルベルトとすでに仕切りを始めているアントーニョの顔を見比べた。

それに小さくうなづくと、少し手でジェニーを制して、真剣な顔でロヴィーノに向き合った。
そして何か言おうとして口を開いて、しかし口を閉じて頭をかく。

「あ~…なんつ~か…こういうの俺様ちょっと苦手なんだけどよ…」

と、そのままガリガリと頭をかきながら気まずそうに言うギルベルトに、ロヴィーノは少し怪訝そうに眉を寄せた。


「なんだよ、はっきり言えよ」

とうながされて、ギルベルトはハ~っと大きく息を吐き出すと、いったん俯いて肩を落とし、それからまた顔をあげて視線をロヴィーノに合わせた。


「あのな、俺様にとっては女よりお前が大事だ
たぶんこの先どんな女が来ても、お前を選ぶ。間違いない。
俺様は何があってもお前を信じるし、見捨てねえし、お前もそうだと信じてる。
トーニョが恋人にするみたいにデロデロに甘やかして愛を叫んでお守りするとか、そんな気はねえんだけど、一緒に歩いて行きたいし、お互い必要な時に支えたいし支えられてえ。
そんな相手はお前だけだ。」

…あ~俺様めっちゃ恥ずかしい事言ってるよな……と、言いたい事を言い終わって赤くなって頭を抱えるギルベルトに、ほんとにな、と、からかうように笑うロヴィーノだが、実はこちらも赤くなっている。

そして…その隣にも約1名赤くなっている人物…


――べっ…べつにデロデロに甘やかして愛を叫んでお守りされたりとかは……

と、誰にともなく言い訳をしている。

そこではっきり“してない”と言えないあたりがミソよね…と、ジェニーが1人楽しくそんなやりとりを堪能しているうちに、アントーニョの

「ほんなら、これからわかった事とかまとめてくから、皆聞いてや~」
という声が聞こえてきて、皆、真剣な顔でそちらを向き直った。


「とりあえずな、警察にまだ全容説明してへんから、最初っから説明するから、黙って聞いててな?」
と、アントーニョは何故か不自然なまでに明るい笑みを浮かべて口を開く。

そう…その不自然に作られた笑顔。
目が思い切り笑ってないところが仏頂面よりなお怖い。
みんな触らぬ神に…とばかりに無言でこくこく頷いた。


「元々はそこの小川太一君の別荘…つまりこの家な、に、塾の仲間、瞳、中田、紗奈、ジェニーの4人がお呼ばれしててん。
で、そのうち街中で親分とギルちゃんとあーちゃんがジェニーと一緒ん時に小川君と会うてな、良かったら言う事で、親分達も一緒に行く事になって、結局さらに親分達の友人のロヴィもいれて計9人でここにお泊まりに来てんな」

と、アントーニョが確認するように一同を見回す。

そこで全員がうんうんとうなづいた。


なかでもそれでなくても殺人事件などが起こって動揺しているのにアントーニョにいきなり1人だけ“”づけで呼ばれた小川は若干怯えたように身を硬くしている。

そんな周りに全く構う事なくアントーニョは続けた。


「到着後は各自自室に荷物を置いて居間に集合しようという事になって、親分はあーちゃんと一緒に泊まろう思うてあーちゃんの部屋へ行ったんやけど、なんや女の子用の部屋はごちゃごちゃしすぎてて落ちつかへんから、親分の方の部屋に泊まる事にして移動、瞳は被害者紗奈とCDの貸し借りをしているということで紗奈の部屋へ。あとはそれぞれ1人で自分の部屋。
しばらく部屋で過ごして親分達は居間へ。
ジェニーと男二人はその時点ですでに居間に落ち着いていた。

ギルちゃんとロヴィは合流。そのあと居間へ向かおうと廊下に出た時、瞳と紗奈も部屋から出てきて合流。
4人で居間入り。

食事の支度はロヴィと紗奈の二人。
これは立候補
瞳とギルちゃんは飲み物運び。
その後普通に調理&食事。

そのあとはギルちゃんに迫っとった紗奈をギルちゃんがかわしたら、紗奈が拗ねて部屋に戻った。
これが最後に目撃された生存している紗奈の姿な。

で、瞳が小川君に様子見に行け言うたけど、小川君が拒否。
で、食事が終わっとったロヴィが見に行ったら紗奈が部屋で倒れとって、しばらくして二人とも下りてきいひんから様子見に行った瞳が倒れてる紗奈見て、救急車呼べ言うてロヴィ下にやって、自分が様子見に残る。

で、倒れとった理由わからへんからって、今度はギルちゃんが見に行って、床でピックを胸に刺して死んどる紗奈を発見…。
警察を呼んだ。

ちなみに件のピックは食事の前に氷を割るのに使ったいうことや。
で、一応警察が指紋を採取したら、ロヴィの指紋だけがついとるらしい。
これ以上は詳しくは俺は見ていないからなんとも言えん。

とりあえず、全員に話聞くな。
まず第一発見者のロヴィから」


と、アントーニョがここまで言った時点で、周りの目が若干冷ややかに…または恐れの色でロヴィーノに向けられた。

一方で凶器が自分が扱っていたピックだということを初めて知って、ロヴィーノ自身もかなり動揺している。

――大丈夫。お前じゃないことはわかってる。最後に俺様が証明してやっから、胸を張って答えろ。

思わず震える手を、隣のギルベルトが軽く取って言うと、ロヴィーノはその言葉で若干冷静さを取り戻して立ち上がった。

そして数時間前の出来事の記憶を探る。


「リビングに着くまではトーニョの言うとおり。
紗奈さんはギルが気にいってたから、俺とギルが親密すぎるって怒ってたんだけど、普段は別に二人きりじゃなくて、トーニョ達の他にもフランとかも一緒にみんなでつるんでるって言ったら結構機嫌よくなって、二人でシチューを作ってた。

キッチンには他には料理中に瞳さんが入ってきた。
で、ジュース冷やすの忘れたから氷割っておいてくれって言って、自分はグラスを持って居間に戻っていった。

最初は俺が氷を出そうとしたんだけど紗奈さんが自分は先端恐怖症だからピック使えないっていうから俺が氷を割った。
で、氷割れた頃瞳さんがきて、氷とジュース持って行ってくれって言うから俺が氷、紗奈さんがジュース持って居間行って…置いてすぐ戻ると瞳さんがピック洗ってて…それを拭いて食器棚に片付けた」



「つまり…ピックに指紋がつく機会はあったけど、それは使用後綺麗に洗って丁寧に拭いてしまわれたわけやな?」
と確認するアントーニョにウンウンとうなづくロヴィーノ。


それにかぶせるように瞳が

「鉄で水気が残ってると錆びるから、私が洗ってかなり念入りに拭いた後に食器棚にしまいました」
と証言する。


この時点でロヴィーノの指紋は完全に消えているはずだ。

食事が出来た時点での片付けもすべてロヴィーノと紗奈でやっているわけだから、その後ピックに手を触れる機会があったのもその二人に限られる。


「その後食事中、紗奈さんはギルにそっけなくされて怒って部屋戻ってしまって、俺だけ食べ終わってたから様子見に行ったのはトーニョが言うとおり。
急いで紗奈さんの部屋向かったんだけどノックしても返事なくて、ドアの前で少し待ってみたんだけど音沙汰なくて。
なんとなくドアノブに手をかけたら鍵閉まってなかったから、悪いなぁと思いつつ開けて見たら部屋暗くて、床に紗奈さん倒れてて、俺もうパニックで紗奈さんに“どうしたんだ?”って声かけたんだけど返事がなくて。

オロオロしてたら瞳さんがかけつけてきてくれて、“なんでここに?”って聞いたら“と二人何か揉めて話しあいなのかなと思ってあがってきてみたんだけど” って。
で、瞳さんも紗奈さんに気づいて、“救急車呼んで、ついでに下のみんなにも知らせてきて”って言うから居間に戻ったんだ…」

そこでロヴィーノが全部話したとばかりに黙ると、腕組みをしつつ聞いていたアントーニョは質問をし始めた。


「流れは大方わかったから…いくつか確認させたってな。
まず一点。食事を二人で作って食べ終わる前に紗奈退場って事は、ロヴィ以外は食器棚に近づいてはいないんやね?

ロヴィーノはうなづく。

「ああ。あとは瞳さんな。洗って片付けた時に食器棚にしまってるから」

「よし。第二点。紗奈の部屋に入った時の行動や。
まあ普通に外からドア開けて中に入ったあと、ドア閉めたか?


質問の主旨がわからないらしい。
ロヴィーノは不思議そうな顔で首を横に振った。

「女性の部屋だしな。閉めてないと思う…そのあと普通に後ろに瞳さん立ってたし」


「じゃ、最後。ロヴィが紗奈の遺体を発見した時、紗奈には確かにピックが刺さってた?

その質問にますます動揺するロヴィーノ。
そんなロヴィーノに痺れを切らしたのか、代わりに瞳が口を開いた。

確かに刺さってました。少なくとも私が見た時は…ロヴィーノ君も見たでしょ?ね?」

ふられてロヴィーノはちょっと戸惑ったように瞳に視線を返す。


「お…俺すごくパニック起こしてて…とにかく紗奈さんが倒れてたから病気かと思ってどうしようってオロオロしてて…よく覚えてない
でもあの時すごく冷静だった瞳さんがそう言うならそうなのかもな…」

その言葉にアントーニョはふんふんとうなづいた。

「ほな、ロヴィは終わりや。どんどん行こか~」
との声にロヴィーノが疲れ切ったように椅子に座ると、アントーニョはにこりとまた眼だけ笑ってない笑顔を浮かべる。

「冷静から程遠い、つまり事実と妄想の区別がつきにくい順番に質問していくことにするわぁ」
と、あくまでにこやかに宣言するアントーニョ。

普通なら激怒しそうな思い切り馬鹿にした物言いも、この殺人事件という異常事態とどこか得体のしれない迫力を撒き散らすアントーニョにすっかり萎縮した面々はただただうなづく。


小川太一君…」
「はいっ!!」
呼ばれて小川が飛び上がる。

さきほどから自分だけ意味ありげに敬称付きで呼ばれているので、すっかり怯えてすくみあがっている。


「まず前述のロヴィの供述に関しては真偽を語れる位置にいないのでいいとして…関係あるのは紗奈が自室へ退場してから遺体が発見されるまでの行動やんな。

その間自分は俺らとリビングにいたわけやけど…途中トイレに立ってるな。約10

そして…自分はこの建物の持ち主で…建物の構造には熟知してるし、あらかじめ何か準備をしておく事も可能な立場やんな?」

ニコニコと楽しげな笑みを浮かべながらアントーニョはゆっくりと硬直して立っている小川の後ろに回る。


「…自分…紗奈に追い回されていたそうやんな……。
犯罪を犯した場合でもな…自首すれば多少考慮されるものなんやで?」

その耳元に楽しげにささやくアントーニョにすくみあがる小川。

「あ…お…お…俺…ちが…やってないです…」
意外に打たれ弱いらしい。目は涙目で歯がガチガチ鳴っている。

その反応はアントーニョにとって至極満足なものだったらしい。

ハハハっと楽しげに笑った後に

「まあ…何を勘違いしてるか知らんけど、親分は自分がやったとは一言も言ってないし、自分はカッコばかりで、そんな度胸も知恵もあるタイプではないと思ってんで?
と、馬鹿にしたようなフォローを入れて元の位置に戻った。

「小川太一“”、自分も座ってええよ。」
アントーニョの言葉で小川は脱力して椅子に倒れこむ。


それを確認してアントーニョはさらにニッコリ…

「今後あーちゃんにちょっかいかけようとしたら…わかってるやんな?
と、いつのまに握っていたのか、手の中でバリバリっと音がして、粉々に散ったクルミのかけらがポロポロと床に落ちていった。

小川がそれを見て半泣きでぶんぶん首を縦に振ったのは言うまでもない。






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