迷探偵ギルベルトの事件簿後編2

「ギルベルト君、どうなってるんだ?!」

ギルベルトがリビングへ入ると中田が不安げな声をあげて立ち上がり、ジェニーも駆け寄ってくる。
  
それを軽く制すると、ギルベルトは

「まあ皆落ち着いてくれ。まずは状況を説明するから座ってくれ」
と全員を席にうながした。

全員が席に着くとギルベルトは自分も椅子に座って静かに話し始める。


「まず…結論から言うと、紗奈さんが自室で死亡してた。
状況からすると他殺だから現在警察を呼んでいる。
現場は手をつけずに維持、警察が到着次第引渡しになる。

他殺…ということは当然犯人がいるはずで、動機も人物も確定できないので安全のため全員リビング待機で。
各自色々思うところはあるとは思うが、不確実な憶測を口にするとパニックが起きる可能性もあるので、言いたい事があれば警察が到着次第警察にってことで。

少なくとも全員固まっていれば銃火器でも使われない限りは安全だし、紗奈さんの殺害に使用されていないということは恐らく銃火器を保持している可能性はないに等しいから、繰り返すが警察がくるまでは事件については触れないように頼む」

淡々と言うギルベルトに周りも若干不安そうな様子は残るが落ち着いてくる。


「ギルベルト君、こんな時なのに落ち着いてるっていうか…海陽生だけあって冷静だな…」
と、沈黙に耐え切れなくなったのか中田が口を開いた。

それに対してギルベルトは少し笑みを浮かべて

「海陽生だから…ってより…俺もトーニョも何故か殺人事件に巻き込まれる事も多くて…非常に不本意ながら普通の人間より若干慣れてきてんだ」
と答える。

「ほ~~」
感心する中田。

「そうよね。前回の旅行の時に起こった殺人事件も先生が華麗に解決しちゃったし…」
と、ジェニーが過去の事件を思い出して言えば、

「もしかして…だからギルベルト“先生”なの?」
と、瞳も少し驚いたように目を見開いた。

そんな彼らをさらに驚かせたのは…到着した警察がまずギルベルトに挨拶をしたことだ。

「サディク警視からきっちりフォローするように言いつけられてきました。
今日も宜しくお願いします」
と、ギルベルトに向かって敬礼する相変わらず腰が低いサディクの部下のトーリス。

以前も手伝ってもらった気楽さはあるものの、一応年上のトーリスに、

「それ…やめて下さい。我儘言って手伝ってもらうのに、すげえ悪い気するから」
と、ギルベルトは苦笑しつつ、ちょいちょいとアントーニョを手招きする。

「ちょっとな…お前にも手伝って欲しいんだけど…。アーサーには別件で依頼してるから、護衛は警察とロヴィとジェニーに任せて同行してくれ」
と言うと、アントーニョはちらりとアーサーに視線を向けて珍しく迷うそぶりをみせた。


――故意か故意じゃないかはわかんねえけど…ロヴィが容疑者になるような形で殺されてるんだ…。

ギルベルトが他には気づかれないように怒りと苛つきを押し殺してそう付け足すと、アントーニョの頬がひくりとひきつる。

――なんやそれ……そりゃあそんな事仕組んだ奴はやりこめなあかんなぁ……

と、こちらも小声でひきつった笑みを浮かべながら、

「そういう事ならしゃあないわ。
あーちゃんにはいっちゃん優秀な奴を護衛につけたってな」

と、トーリスの肩をポン!と叩くと、ギルベルトと連れだって事件現場である上の階へと続く階段を指して歩き出した。


上へ向かう道々、ギルベルトが現状をアントーニョとトーリスに説明をする。

そして…自室に先に寄ってまず荷物の中から出すビニールの手袋。
それをアントーニョにも投げてよこす。

「もう事件が起こる前提ですか…」
と、驚きと共に苦笑するトーリスに、

「そりゃ…遠出するたび何か起こればさすがに…」

と、ギルベルトも苦笑して、今度は紗奈の部屋に向かった。





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