迷探偵ギルベルトの事件簿前編6

「ほんっま、しつこいし気持ち悪い男やね。でも親分が絶対に守ったるから安心し」
と、部屋に落ち着いたあと、こちらも不機嫌全開のアントーニョ。

一応1人1部屋を用意されているのだが、信用できないと自分もアーサーの部屋に泊まる事にして荷物を運びこんでいる。

確かに出会ってこのかた、自分の事をいちいちお姫様呼びをしてくる太一は気持ち悪い…とアーサーも思う。


別にそういう意味で好意を持っているわけではないが、フランシスみたいな絵に描いたような美形ならまだ気障だとは思うが許せそうなそのセリフも、極々普通のDKが発言すると正直浮いている。

何か背筋がぞわぞわっとする。

用意された部屋もなんというか…女の子が泊まるからと思って用意したのだろうが、レースとフリルで窒息しそうな感じだ。


「このドアノブカバーとかあほちゃう?
つまみ式の鍵がついとるドアノブにカバーかけるとかありえんわ。
鍵かけにくすぎやん」
とアントーニョには珍しく小馬鹿にしたような口調で言うのもうなづける。

いくら何もかもフリルで飾りつけたいにしても、鍵ガン無視でフリフリのドアノブカバーは確かにない…と、比較的少女趣味なアーサーでも思う。


「なんか…この部屋落ち着かないな。
どうせ一緒に泊まるならお前の部屋行かないか?」
と、提案すると、アントーニョも、そうやね、とうなづいて、一旦は運び込んだ自分とアーサーの荷物を持って、廊下へと出た。


一方、1人部屋に落ち着いたロヴィーノの元に訪ねてくるギルベルト。

「荷物片付いたか~?お前整理整頓苦手だし、なんなら俺様が片付けてやろうか?」

と、ケセセっと笑いながら冗談めかして言うものの、おそらく半分は本気で疲れているロヴィーノに気づいて気遣ってくれているのだろう。

ギルベルトはふざけた物腰やきつそうな顔立ちに似合わず、いつもそういうところは細やかな男だ。


幼馴染でいつもいつも無条件にロヴィーノを甘やかしてくれていたアントーニョが、ロヴィーノが秘かに片思いをしていて仲良くしていたアーサーと付き合い始めて、アーサーから距離を取らせようとして必然的に自分との距離も少し取るようになって孤独感を感じていた時、そして、唯一仲良くしていてくれた同級生が自分を陥れようとしていた事を知って心底落ち込んだ時、そんなとても弱りきっている時には必ずさりげなく手を差し伸べてくれた。

わかりやすく助ける空気満々で助けるアントーニョと違い、ギルベルトは飽くまでさりげなく、少しでも自分で立ち上がる要素を残そうとしつつ、足りない分を無理なく補足してくれる。


例えば自分が弟なら…本当に助けられている事を実感する事に幸せを感じるようなタイプならアントーニョのようにされれば幸せなのだろうが、困った事に腐っても長男で、能力がないという事がコンプレックスで、常に劣等感と戦っている自分としては、その、自分でも出来る事がある、やれば出来るのだと、自立するためにさりげなく背中を押してくれるギルベルトのやり方はありがたい。

ギルベルトと一緒にいるようになって、少しだけ自分はやれば出来る事もあると思えて、自分が好きになれた気がする。

今は支えられる事の方が多いのだが、いつか完全に対等に支え合える事が今のロヴィーノの目標だ。


だから

「ほっとけ。俺だってやれば出来んだよ。飯から戻ったら本気出す」
と、どうしても出来ない物以外は頼らない事にして軽口で返すと、ギルベルトは

「それ…いつまでたってもやらねえフラグじゃね?」
と笑いながらも、手は出さない。

「腹減ってるからそんな気になんねえんだよ。
それよか飯どうすんだ?いるメンツで作るんだったら、早めにスタンバった方が良くね?
アーサーが手を出し始めたら……」

「大変だなっ!行こうぜっ!!」
と、さらに付け足すロヴィーノの言葉に、ギルベルトは青くなってベッドに座っているロヴィーノの手を掴んで引っ張り起こす。

もはや才能と言えるレベルで料理がダメなアーサーが手を出したなら、夕食の時間はとんでもない惨状になる。

それこそ…下手すると死人くらいでるかもしれない。

付き合いがそれぞれあってそれを思い知っている二人は、こうして慌てて廊下へ飛び出した。


「あ、ギルベルトさん達もリビングです?」

ちょうどロヴィーノ達が廊下に出たタイミングで紗奈と瞳も顔を出す。
瞳がドアを開けてまず顔を出し、続いて紗奈も顔を出した。

「あ、ギルベルトさ~ん♪ご一緒しましょ♪」

あわてて閉まったドアに鍵をかけて紗奈はギルベルトに駆け寄るが、こういう迫ってくるタイプは苦手らしい。
ギルベルトは困った顔でロヴィーノとの距離を詰める。

それに紗奈はまたムッとした顔でロヴィーノをにらみつつ、それでもロヴィーノと反対側のギルベルトの隣をキープして、笑顔で色々話かけ始めた。

小川を好きだと言っていたが、スペックに関しては文句が付けようのないギルベルトを前にあっさり心がうごいたようだ。

容姿やスペックだけではない。
ギルベルトは良い奴だ。

――まあギルベルト先生ならイケメンだし秀才だし強いし料理も出来るしさ、本当に付き合っても良いんだけど…

と言っていたジェニーのように、大抵の女子高生は好きになるんじゃないだろうか…。


紗奈もまあ性格は若干難ありなのかもしれないが、外見は女子高生らしく可愛らしい。
少なくとも男の自分よりは隣に並んでいて絵になるだろうし、DKなら誰しも連れていて可愛い彼女がいれば嬉しいだろう。

自分が側にいることでギルベルトがそんな幸せから遠ざかるなら…

ロヴィーノが隣のギルベルトから少し距離を取ろうと一歩横にずれようとして初めて、ギルベルトと反対側の隣に瞳が回り込んでいた事に気付いた。

そして少し視線を下にやった事で彼女と視線が合う。

すると、瞳は軽くロヴィーノの腕を掴んで引き寄せ、自分は少し背伸びをして

「ちょっと紗奈はしゃぎすぎてるね。部屋でもギルベルトさんの話題一色だったし。
あとで注意しておくから…気にしないでね」
と、耳打ちしてフォローを入れてきた。

なんというか…ジェニーが恩義を感じるのもわかる気がする。
明らかに一番ついでに招かれたのがみえみえな自分にまで、本当に細やかに気をつかってくれている。

「あ~、ありがとう。でも全然大丈夫。気を使わせて悪いな」
と、微笑みかけると、瞳はううん、と首を横に振る。

「ロヴィーノ君もすごく綺麗な顔してるし、二人並ぶとすごく目の保養。
お似合いすぎて萌え禿げそう」
とキラキラした目で笑う瞳。

――あ~これはもしかしてエリザさんと同じ趣味の……

と納得しながらも、本当に彼女達が期待するようなトーニョとアーサーみたいな甘々な関係じゃねえんだけど…と、内心苦笑い。


まあそれでも乙女のそんな夢を真っ向から否定してがっかりさせるのも本意ではないので、曖昧な笑みを浮かべてごまかしつつ、当たり障りのない話をしながらリビングへ。




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