迷探偵ギルベルトの事件簿前編3

痛いところを突かれて黙り込むフランシスに説得は済んだとばかりにジェニーは再びギルベルトの方へと向き直った。

「もうホントしつこくてさぁ…実物見せないと諦めてくれそうになくて、本当に貞操の危機なのよっ。お願いっ!」

うるるんっと目を潤ませて見せるジェニーに、ひたすら動揺するギルベルト。

 フランシスは自在に出せる涙というその彼女の武器にも彼女の大げさな物言いにも慣れているが、相手は女の子ではあるし、この場でそれを指摘して恥をかかせていいものかと、さすがに悩み躊躇する。

そんな中で助け船を出したのは、それまで所在なさげにしながらも、黙って耳を傾けていたロヴィーノだ。

「悩む事ねえだろ。ベッラがこんなに頼んでんのに見捨てるなんて男のすることじゃねえ。
減るもんじゃねえし、行ってやれよ」

――え?
フランシスも…おそらくギルベルトもここが一番の原因で躊躇していたわけだが、二人が想像していたよりもロヴィーノはフェミニストだった。


ロヴィーノのその言葉に

「え?いいの?」
と驚きの声をあげるフランシス。

それに対しても当たり前に


「あ?なんで俺に聞くんだよ?
ま、俺に権限があるなら困ってるベッラのために気合い入れて行って来いって命じるけど?」
と、当然とばかりに言う。


「…なあに?ロヴィーノ君と先生ってもしかして、トーニョと殿下みたいな間柄?」
と、そんな面々の反応にジェニーが聞くと、ギルベルトが口を開く前にロヴィーノが即

「いや、親友…つか、相棒?」
と、否定した。

それを確認するようにジェニーが視線を向けるとギルベルトは少し迷うように口を開けたまま考え…

「あ~、まあ同志っつ~か…相方…か?」
と、歯切れの悪い口調でロヴィーノに視線をやる。

「ふ~ん?で、その相方の許可が下りたわけだし良いよね?」

しかしながらそのあたりは深く追求することなく、さらに迫るジェニーにギルベルトは少し困ったように眉尻をさげた。

「俺様その手の事苦手なんだけど…」
「大丈夫っ!先生が苦手でもあたしは得意だからフォローするしっ!」
とにこやかに押し切られて、ギルベルトはとうとうホールドアップする。

「ばれても知らねえからな。」
「大丈夫大丈夫♪
まあ…ギルベルト先生がどうしても無理なら殿下に……」

「あ、恋人のエスコートなら親分が手本見せたるわ。今度ダブルデートでもしよか?」

と、アーサーの名前が出そうになった時点で、それまで我関せずでアーサーの口にワッフルを運んでいたアントーニョが即それを遮って提案した。


「ダブルデートならもう一人レディ必要だぞ?」

モグモグごっくんと口の中に頬張ったワッフルを飲み込んだアーサーがそこで初めて口をはさむと、――あ、あーちゃん、今の顔むっちゃ可愛ええぇ!!――と、叫んでアーサーを抱き寄せ、その広い額にちゅ~っと口づけを落とすと、アントーニョは羞恥にわなわなと震えるアーサーをさらに胸元に抱え込んで、

「ほら、親分とおったら丁度ええ体格差やん?
あーちゃん細いし、ユニセックスな格好しとったら大丈夫っ!」
と、にっこり。


そして、

おまっ……っ!!
と、慌ててグイ~っとアントーニョを押しのけて、その胸元に押しつけられた顔を離すと文句を言うため開いたアーサーの唇に、アントーニョはツンと自分の指を押しつけて言葉を制すると、少し笑みを消して真剣な表情を作って


「…女の子の貞操の危機やで?紳士としては助けたらなあかんと思わん?」
と、コテンと小首をかしげてアーサーの顔を覗き込んだ。


――うっあ~、えげつなぁぁ~~~

と、フランシスとロヴィーノがひきつった笑みのまま固まるが、この”紳士としては…”という言葉は、幼い頃から上流社会の子息として育てられてきたアーサーに対する時には魔法の言葉だ。


グッと言葉に詰まるアーサーだが、

「親分もあーちゃん以外エスコートしたりしたないし、ギルちゃんに教えたる目的やったら、事情知ってる、しかも信頼できる相手やないとあかんやろ?」

と、アーサーを知り尽くしたアントーニョがさらにたたみかけられると、もうひとたまりもない。


「…仕方ねえな……でも女装とかはしねえぞ?」
と、それでも流されてパートナー役は了承した。





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