『まあ…ジェニーの事やから、なんや裏ありそうやけどな…。俺ら巻き込まんといてな』
と、大事な大事な恋人様であるアーサーの肩をぎゅっと引き寄せながら言うアントーニョに
『もうっ!確かに俺たち色々巻き込まれすぎだけど、今回は単なるお詫びってことだから。
そういう事言わないの』
と、フランシスが苦笑しつつ言いながら辿りついたショッピングモール内のカフェテラス。
――さて…普通の紅茶とワッフルのセットにするか、フレーバーティにするか…。
アーサーは澄んだまあるい目をメニューに走らせて真剣に悩む。
自分で払えるなら間違いなく両方頼むのだが、今回はご馳走させてくれと言われているので、もし相手に払わせる事になるなら…と、悩みに悩み、結局フルーツティを頼む事にした。
そんなアーサーを見て、アントーニョは当然のように自分が【シナモンアップルと洋ナシのワッフル】と紅茶のセットを頼む。
もちろん味見…と称して、そのほとんどは自らの手でアーサーの口に運んでやるためである。
「あーちゃん、美味い?」
アーンとフォークに刺して運んでやったワッフルをほわほわした顔で咀嚼するアーサー。
そしてその彼をとろけそうな目で見つつ、口元に付いた生クリームを指で拭いてやって、そのクリームの付いた指先を当たり前に自分の口に運ぶアントーニョを、隣のテーブルで爛々とした目で凝視する乙女の集団。
中にはスマホで何やら連絡を取っている女性もいる。
5人が来た当初は割合とすいていた店内は、あとから合流したそんな乙女達で満席となった。
…のに気付いているのは、所在のないロヴィーノと、周りをよく見るフランシスくらいだ。
アーサーは甘い物と紅茶に夢中だし、アントーニョはそんなアーサーに夢中。
そして…呼び出した張本人の意識はギルベルトに向けられていて、いきなり手を合わせられたギルベルトは目を白黒している。
「え?え?俺様?フランじゃなくて??」
いきなりのご指名に動揺するギルベルト。
それにうんうんとうなづいて身を乗り出すジェニー。
「ギルベルト先生にお願いしたいっ!フランじゃダメなのっ!!」
と自分自身を指差しているギルベルトの手をジェニーが両手でガシっと握ったあたりで、複雑な表情のロヴィーノに気づいて、
「スト~ップ!結局ただのお詫びって事じゃないのね?
とりあえずちゃんと説明しなさいね。」
と、フランがジェニーを後ろからひきはがした。
頭脳明晰、スポーツ万能、容姿端麗…なのに、その若干残念な性格のせいか何故か女性に縁がなく、女の子に迫られるとそうは見えなくても内心非常にてんぱるためしばしば流されかけるギルベルトが今回も流されかけていたところに入ったストップ。
ギルベルトがホッと息をつくと同時に前方の元カノの可愛らしい口から、チッとかすかな舌打ちが聞こえたのは気のせいだと信じたいとフランシスは一瞬遠い目をする。
「ジェニー、実は今回ギルちゃんを呼びたかったわけね?」
と、再度確認すると、ジェニーは少し気まり悪げに頷いて、
「殿下でも良いんだけど…もっとダメでしょ?」
とちらりと斜め前でワッフルを頬張っているアーサーに目を向けた。
「あかんに決まってるやんっ!ギルちゃんなら貸したるわっ」
と、そこで間髪いれずにアントーニョが答え、自分の名が出た事できょとんとした目で小首をかしげるアーサーを両手の中に抱え込む。
アーサー厨のアントーニョからこういう言葉が出る事は確信済みらしい。
そのアントーニョの言葉にわが意を得たりとばかりにジェニーは勢いづいて、
「ほら、許可出たからギルベルト先生借りるねっ」
と、そんなアントーニョと同じように、フランシスの手を振り切ってギルベルトを抱え込み、抱え込まれたギルベルトは動揺のあまり硬直した。
「ちょぉ~~っと待ったぁ!!」
と、そんな元カノの強引さにも慣れているフランシスが即それをひきはがす。
その隣のテーブルでは……
(――ゴールドリーフで美青年集団観察中なうヽ(^o^)丿)
(――何それ?kwsk!!)
(――今日お茶してたんだけど、そこで5人の海陽学園の制服の美青年組+女一人。)
(――爽やか系イケメンが後輩かな?ちょっと他より幼い感じの美少年に自分のワッフルをずっと『あ~ん』させてるvv)
(――なにそれっ!!!美味しいっ!!!)
(――美少年の口元についたクリームを指で拭って当たり前にそれを自分が舐めとるというおまけ付きだヽ(・∀・)ノ)
(――キャー!!なにそれっ!!O(≧▽≦)O)
(――美少年の方はそれがスタンダードなのか全然動じず。
子猫みたいにまんまるの目をキラキラさせながらモグモグしてて眼福(*´∀`*))
(――で、その二人は二人きりの世界作ってて、女がちょっと線が細いけどキツイ系の顔のイケメンに言い寄ってて、それを優男風イケメンが必死に阻止(*´・з・`*)チュッ♪)
(――うあwそれもいいっ!!つか、あたしも行くっ!!)
…などと乙女達がスマホで盛り上がっている事になど気付かずに、――まあアントーニョなどは気づいたとしても全く気にしないどころか見せつける気満々だが――5人の男子高生と1人の女子高生の会話は続いて行く。
「ジェニー、ギルちゃん借りて何したいの?」
と、飽くまでジェニーをギルベルトから引き離したまま聞くフランシスにジェニーはあっさり言う。
「ん~、虫避けになってくれないかなと思って♪
塾で知り合ったグループの仲間にしつこい男いてさ~。
いつも勉強教えてもらってて借りのある友達の従兄弟だからあんま邪険にもできないし、超ラブラブな彼氏いるからって言っちゃって…」
――え?え?もしかして俺様にその超ラブラブな彼氏を演じろと?何その人選?!
…と思ったのは当然本人だけではない。
「あのさ…どう考えてもギルちゃんその手の事向いてないよ?俺じゃダメなの?」
と、その中でまず口を開いたのは元カレのフランシスだ。
元カレでジェニーに慣れているというのもあるし、女性の扱いも慣れている。
誰が見てもギルベルトよりは適役だと同席している5人全員が思ったのだが、ジェニーはブンブンと首を横に振った。
そしてそこで初めて元カレであるフランシスの方を振り向く。
「文武両道って言っちゃったのっ!
頭良くて顔良くて強くてスポーツも出来て完璧な男だからって思い切り言っちゃったから、他についてはあえて追及しないけど、フランじゃ強いってあたりでもう絶望的にダメでしょっ」
ピシっと指をさして断言されて、フランシスは困った笑みを浮かべる。
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