「ギルベルト先生、お願いっ!」
フレーバーティとワッフルの美味しい店ゴールドリーフの店内は女性客で溢れている。
そんな中でひときわ目をひく壁際のソファ席を占領している一団。
そんな集団ともなれば、チラ見されるくらいは当たり前。
中には指をさしながらきゃあきゃあとはしゃぎ始める女子高生達もいる。
ソファの正面、テーブルをはさんだ木の椅子席に座るアーサーの前にはフルーツティ。
紅茶の中に大きめに切った林檎やオレンジ、レモンなどが入ったそれに目をキラキラさせていた。
少しぴょんぴょんと跳ねた小麦色の髪と整えていない太い眉にその下のリスのようにくりくりと丸い大きな目。
そして、透き通るように真っ白な小造りな顔の中でそこだけは淡い桃色に染まる柔らかそうな頬が、高校3年生には到底思えないような幼げな可愛らしさを醸し出している。
この容姿的には奇跡の高校3年生と言われている彼が、実は日本でも有数の進学校海陽学園で常に主席を誇る秀才で、校内の頂点に立つ生徒会長とは誰が思うだろうか…。
そんなアーサーが高3になった年、学園で秘かに権力を持つ大口の支援者でもあるカエサル財閥の総帥の後押しで鳴り物入りで転入してきた3人の転校生。
それが4月からはそんな可愛らしくも優秀な会長を護衛でもするかのように、常に取り囲んでいる。
今日も紅茶の中のフルーツに釘づけのアーサーのすぐ横にはやっぱり、そんなアーサーをとろけそうな目で眺めるアントーニョ。
よく日に焼けた肌にムキムキではないものの程よく筋肉がついた男らしい体躯。
いつも笑顔なため愛嬌を感じさせる整った顔立ちと人懐っこい性格で、男女問わず好かれているが、実は執着する一部の人間以外には誰より酷薄な性格をしているのを知るのは、極々親しい一部だけである。
3人の中で唯一アーサーの恋人という立場を勝ち取ってからは、持ち前の体力と気力と人脈、独占欲をいかんなく発揮して、保護者であるアーサーの年の離れた兄を渋々ながらも説き伏せ、現在アーサーと一緒に住み、おはようからおやすみまでしっかりと世話をし、ガードしていて、その分アーサーに近づく輩には容赦がない。
一応親友と言える立場をキープしているフランシスとギルベルトですらしばしばその嫉妬の刃を向けられて痛い目にあいかけるくらいだ。
ゆえに今回もアーサーを端の席に座らせ、その隣には当然のように自分が座り、他が手を出せないようにしっかりアーサーを抱え込んでいた。
そしてそのアントーニョのもう片方の隣には、5人の中で唯一の高校二年生でアントーニョの幼馴染にして、アーサーと近寄る事は潔しとされないまでもアントーニョに鉄拳を振るわれる事はないロヴィーノが、少し所在無げに座って紅茶をすすっている。
そしてアーサーの正面のソファ席にはフランシス。
さらふわな光色の髪に綺麗な紫の瞳の、まるで少女漫画に出てきそうな正統派美形。
物腰もどことなく優雅で、当然ながら普通に女友達も多く、こういう店にくるのも日常なため、一番場に溶け込んでいる。
――あ~、さすがにジェニー上手いよねぇ…。坊ちゃんの好きそうな店で設定して坊ちゃんが釣れればあとは全員釣れるもんねぇ…。
苦笑交じりに彼がそんな事を思いながらちらりと目を向ける隣、ソファの中央にはフワフワの髪の可愛らしい女子高生がさらにその隣に座るギルベルトに向かって手を合わせている。
ジェニー・ローランド。
悪友3人はアーサーの通う海陽学園に転校したのだが、彼女は悪友達の元の学校のクラスメートだ。
フランシスの元彼女でもあるこの女子高生とは、以前旅行に行った事があり、ロヴィーノ以外は顔見知りである。
前回の旅行では彼女のターゲットはフランシスで、他3人は巻き込まれで殺人事件に遭遇する事になったのだが、今回の目的は何故かギルベルトらしい。
『フラン久しぶり~♪紅茶とワッフルの美味しいお店みつけたんだよっ。
前回迷惑かけたからさ、お詫びしたいっ。奢るっ!
もし怒っててもう関わりたくないとかじゃなければ、トーニョや殿下やギルベルト先生も誘って?』
迷惑をかけたからお詫びしたい…“怒ってるんじゃなければ”来て欲しいと言われると、下手に遠慮すれば=怒ってるのでは?と思われるかもしれず、断りにくい。
フランシス個人は断る気も全くなかったのだが、ギルベルトはそんな感じで釣られ…アーサーは紅茶とワッフルの美味しい店のフレーズに釣られた。
アーサーが来てアントーニョが行かないという選択はなく、いくら多人数でとは言っても女子高生とギルちゃんが会うのはどうなんだろう?と気をまわしたフランシスが、最近ギルベルトとよく一緒にいるロヴィーノも誘って、この大人数だ。
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