ダンデライオン_12章_2

道中は、元々ジッとしてるのが苦手な親分は警護に混じって馬であちこち警戒してはるので、馬車の中にはうちとイングランドのみ。

「何か聞きたそうな顔してるな」
と、そこでお見通しの賢いうちの弟分は馬車の窓に付けられたカーテンを閉め、仮面をはずすと、ふ~っとため息を付きました。

「まだ肌寒い季節だからいいけど、暑い季節や暑い場所に行くなら、もう少し素材を考えないと辛いな」
と、自分で話題を振っておいて、自分勝手に別の話を始める気まぐれさも猫みたいな子ぉやと思います。

ああ…でも猫と似つかないところは……

「スペインが危ない目にあうより、多少の不快感には目をつぶって使えるものはなんでも使った方がいいだろ?」

猫は家に付き、犬は人に付く…そういうところで……

「今回は結果的にそうなったわけなんだけど…俺に対する興味や好意を上手く利用すれば、戦わねえでも色々手に入るもんもあるし…ずいぶんとモテてちやほやされてきたっぽいから、フランスに対しては完全に拒絶ではないけど、もしかしたらなびくかもしれないけど、手を出す隙がないっていうじれったさを味わわせておくと、何かの時に利用しやすいと思うんだよな」

イングランドの行動の全ては…

「まあ確かに我ながら気色悪ぃとは思うけど…失敗してもさ、とりあえず俺が消えればなんとかなる話で、スペインは無事だろ」

人…親分にある。

ああ、でも一応国の具現化なわけだから、大きな意味で家…というか土地なんやろか…。




「アホやねぇ……」

なんて器用で賢くて不器用でアホな子なんやろか…
うちは大きく息を吐き出して肩を落とした。

「親分はそんなこと望んではれへんで?」
といえば、普段は敏いのに全然わかっとらんイングランドは

「わかってる。あいつは良くも悪くも汚い戦い方はしねえやつだから。
でもいいんだ。もしあいつがそれで俺の事嫌になったらさ、俺はそっと国に帰って、あいつがお日様の下で笑ってるのを遠くで見ながら、あいつの目につかない所であいつのために出来る事探すから」
と少し俯いて笑う。


ほんま…全然親分の事わかってへんなぁ…うちかてわかっとることなのに…
親分がなんのために戦い続けはったのか、何を守ろうと今も戦ってはるのか、何をされたら一番悲しく思いはるのか…。

「イングランドが自分の元からおらんくなったら、親分地の果てまでも探しに来はるで?」
と修正を入れてみたら、

「あ~…一種の裏切りみたいなもんだもんな。
いいぜ、そしたら…それであいつの気がすむなら殺されてやるよ」
と、また斜め上な答えを返してくるあたりが、もう救いようがないと思います。

信じこんでもうたら、ストレートに言うても信じるような子ぉちゃうしなぁ…。

誰よりも親分の事考えてるくせに、親分がいっちゃん大事に思うてるもん大事にせえへんて、ほんま困った子ぉや。

あんたが熱出した時、自分自身が戦場でざっくり腕やら背中やら切られても平気な顔しとった親分が、異教徒からイベリアの黒い魔王言われて恐れられてはった親分が、今にも死にそうな顔して、あんたの事助けたってって、まるでちっちゃい子ぉみたいにわんわん泣いてはったんやで?

あの時、うち、不覚にも初めて親分の事可愛えなんて思うてもうたわ。

あんたになんかあったら、親分気がおかしくなりはるんやない?
そうなったら…うちの平穏な生活もパアやしな。
ほんましゃあないわ。

いつかアホな弟分も自分で気づいて信じられるようになるまでは、姉ちゃん頑張らなあかんなぁ。

アホな親分とアホな弟分持つ姉はほんま大変やってことですわ。

こうしてうちはまた決意を新たにして、二人を見守って行くことにしたのでした。






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